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あとがき
関谷 紀貴
pp.1426
発行日 2025年12月15日
Published Date 2025/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.048514200690121426
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2025年もいよいよ師走を迎えました.愛知万博から20年ぶりに大阪万博が開かれ,毎年の「記録的」猛暑を経ての年末ですが,皆さまはいかがお過ごしでしょうか? 振り返りの季節は,ついできなかったことに目を向けがちですが,やり遂げたことに注目して自分をねぎらうことが,新しい年を前向きに迎える力になるかもしれません.
1996年にノーベル文学賞を受賞したポーランドの詩人で,ヴィスワヴァ・シンボルスカ(1923-2012)という女性がいらっしゃいます.ささやかな日常に普遍性を見いだす稀有な方ですが,「終わりと始まり」という題名の詩で戦争後の光景を描きました.「戦争が終わるたびに 誰かが後片付けをしなければならない」という言葉に始まり,がれきを片付け,橋を架け直し,生活を再建する無名の人々の営みが淡々と示されます.そうした努力は華やかに記録されることもなく,時がたてば忘れられていくものです.これは仏教の「無常」の思想とも重なり,全ては移ろい,終わりと始まりが連続するという真理を思い起こさせます.戦争の悲惨さも,平和の営みも,やがて忘却とともに変化していきますが,だからこそ今ここにある営みや出会いが貴重であることに気付かされます.シンボルスカの詩は,無常の流れのなかで人間が再び生を取り戻していく姿を映し出すような内容です.

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