Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
細井和喜蔵の『女工哀史』—虐げられた者の心理特性
高橋 正雄
1
1筑波大学
pp.1276
発行日 2025年12月10日
Published Date 2025/12/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.038698220530121276
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大正14(1925)年に発表された細井和喜蔵の『女工哀史』(岩波文庫)は,明治から大正にかけての紡績工場で過酷な労働を強いられた女工の悲惨な状況を告発した歴史的な文書であるが,そこには持続的なストレス状況が女工たちの精神状態に及ぼす影響も描かれている.
細井は,『女工哀史』のなかの「女工の心理」という章で,女工たちの心理的な特徴を次のように指摘している.「女工は人を甚くおそろしがる.たとい場末の小汚い蕎麦屋へはいるにもせよ,人がおったら容易にはいらない」「彼女は観る者聞くもの触わるものを疑い,嫉妬をもたねばならない」「彼女たちはその悲惨な生活を一時は呪うのであるが,やがてどうにもならない宿命だと悲しく諦めてしまう」「女工に限らず醜女には総じて僻み根性をもった者が多いけれど女工のそれにはまた格別の趣きがあり,その根性悪さと来ては全く『鬼婆』という形容が掛値なしに当て嵌まるようなのがいる」「女工たちは総じて外へ出たとき常にびくびくもので道を歩く.(中略)道を歩くことさえも惧れねばならんのが虐げられた者のいじけきった心理なのだ」等々.
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