- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
現代医療は技術革新によりめざましい進歩を遂げる一方,専門医の都市部への偏在がもたらす医療アクセスへの地理的格差,高度化・複雑化する診療に対する患者の理解促進,そして闘病生活に伴う患者の精神的な孤立といった課題がある.これらは,医療の質の均てん化や,患者一人ひとりの価値観に寄り添う「患者中心の医療」を実現するうえで,われわれ医療者が向き合い続けるべきテーマである.
こうした状況下で,医療分野のデジタルトランスフォーメーション(digital transformation:DX)の一環として,「メタバース」が新たな解決策をもたらす可能性を秘めているとして注目を集めている1,2).メタバースとは,一般にインターネットを通じてアクセス可能な3次元の仮想空間を指し,ユーザーは自身のアバターを介して空間内で他者と交流できるサービスである.このメタバースを支える技術には,ユーザーを完全な仮想世界に没入させる仮想現実(virtual reality:VR),現実世界にデジタル情報を重ね合わせる拡張現実(augmented reality:AR),両者を高度に融合する複合現実(mixed reality:MR)といったextended reality(XR)技術が含まれる.
本稿では,このメタバース技術が「患者支援」の領域でどのような革新をもたらしつつあるのか,具体的な事例を交えて多角的に考察する.まず,世界の最新動向を「診療・治療支援」,「リハビリテーション支援」,「精神的・社会的支援」の3つの観点から概観する.次いで,筆者が実践している希少がん患者を対象としたメタバースを用いたピアサポートの取り組みを紹介し,その具体的な効果と課題について詳述する.

Copyright © 2025, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.

