Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
摂食嚥下リハビリテーションは,嚥下訓練を中心として発展してきたという歴史がある.すなわち,脳卒中後に生じた嚥下障害に対して筋機能訓練や嚥下代償法を行い,誤嚥を減らし,摂取可能な食品の幅を広げ,安全かつ快適に食事ができるように取り組んできたのが「摂食嚥下リハビリテーション」である.このような歴史をもつ摂食嚥下リハビリテーションにとって,薬剤は遠い存在であった.摂食嚥下リハビリテーションにおいて,誤嚥や食べこぼしなどといった症状に対しては,薬剤の処方・変更ではなく,その症状に適した嚥下訓練や食支援が優先されてきた.摂食嚥下リハビリテーションの対象となっていた脳卒中患者の投薬内容は比較的シンプルなことが多く,薬剤を気にすることなく訓練に徹していれば,それなりの臨床成果が出ていたというのも薬剤に目が向かなかった理由かもしれない.
摂食嚥下リハビリテーションにおいて薬剤が重視されてこなかったのは,嚥下障害のスクリーニングや評価表にも表れており,これまで発表されている評価表には,服用薬剤に関する項目はほとんどない.また,嚥下の診察について記載されている成書においても,服薬時の注意点や嚥下機能を改善・悪化する薬剤について書かれているものはいくつかあるものの,記載があったとしても数ページにとどまる.このように,まったく関連がないというわけではないが決して重要視されてこなかったのが,「これまで」の摂食嚥下リハビリテーションにおける薬剤の位置づけである.
しかしながら,実際の臨床場面においては,服用薬剤の減量や中止で改善する嚥下障害によく遭遇する1).特に終末期や神経変性疾患などの患者においては,嚥下訓練は無効であり食支援も十分に奏効しないことも多く,服用薬剤の調整による嚥下障害へのアプローチは非常に強力な臨床の武器となる.「これから」の摂食嚥下リハビリテーションにおいては,服用薬剤のチェックは重要であるどころか必須になるであろう.

Copyright © 2025, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.