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はじめに——リハビリテーション診療における睡眠の重要性・問題点
古くから,脳卒中患者には睡眠にかかわる問題が合併することが知られていた.Freterら1)は,リハビリテーション目的に入院している患者の睡眠の質と睡眠薬の使用が,リハビリテーション効果に影響している可能性を1999年に報告した.このように睡眠とリハビリテーションには密接なかかわりがあると考えられるが,睡眠とリハビリテーションの効果についての報告は少ない.
その後,睡眠障害が脳卒中発症のリスク因子であり,脳卒中患者に睡眠障害が生じやすいこと2),さらには睡眠障害が脳卒中患者における身体機能低下や社会参加制限のリスク因子であること3)が示唆されてきた.2021年にLéotardら4)は,睡眠はリハビリテーション医学においてきわめて重要な役割を果たすかもしれない,というレター論文を発表した(図1).
神経系の疾患罹患後に生じる呼吸に関する機能や筋緊張の変化が,疼痛や排尿の問題に作用し,日中の活動や参加にさまざまな影響を及ぼす.図1では身体機能の問題と活動,参加が相互に作用していることを示している.そのなかでも特に,脳卒中後の睡眠問題で高い有病率の睡眠時無呼吸症候群に対して,リハビリテーション専門職は注意深く対応する必要があることを示唆している.
また,特に高齢者では,睡眠障害と転倒リスクが高まるとされている5).さらに女性の高齢者では,睡眠時間が長くなると肥満になり,身体機能が低下する傾向にあることが明らかにされており6),睡眠と転倒のマネジメントがリハビリテーション診療に重要と考えられている.
これらの,疾患や加齢によって生じる睡眠とリハビリテーション診療の問題や重要性は,睡眠研究が発展したことにより多面的に解明されている段階である.例えば,睡眠脳波研究により,前頭葉と後頭葉の徐波活動(slow wave activity:SWA)比率が睡眠脳波マーカーであると同定された.そのことにより,脳の発達と神経回路成熟や,記憶の定着のメカニズムが睡眠生理学的に明らかにされ始め,神経発達症に睡眠障害が多く合併するエビデンスが構築されている7).睡眠医学研究は,小児から高齢者,発達から認知機能,身体機能から活動と幅広い分野を診療するリハビリテーション関連職と,非常に密なかかわりがある.
医療の知識は日々変化しており,睡眠についての研究もここ70年で発展している.私たちも知識をアップデートする必要があり,睡眠とリハビリテーション診療の研究のきっかけが,この入門講座から生まれる可能性があるかもしれない.次の項目では,そもそも「睡眠とは何か」,「睡眠中に体内では何が起きているか」について述べる.

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