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はじめに
高齢者において健康寿命の延伸やフレイル対策は重要な課題であり,リハビリテーションの役割はきわめて大きい.リハビリテーションは単に身体機能の回復をめざすだけでなく,患者の生活の質(quality of life:QOL)を向上させることを目的とした包括的な治療である.しかし,リハビリテーションを受ける患者の多くは複数の疾患を併発し,「マルチモビディティ」や「ポリファーマシー」の状況下にあることから,薬剤管理が治療効果や生活機能に与える影響は大きいと考えられる.特に高齢者においては,加齢に伴う薬物代謝能の低下やポリファーマシーに起因する副作用や薬物相互作用がリハビリテーションによる機能回復に影響を及ぼす可能性が指摘されている.具体的には,向精神薬がふらつきや眠気を引き起こし,転倒リスクを高めたり,筋力低下を助長し,リハビリテーションの進展を妨げたりする可能性がある.こうした観点から,薬剤管理は単なる症状緩和の手段としてではなく,リハビリテーションの治療目標を達成するための包括的な治療の一環として位置づける必要がある.つまり,患者個々の病態やリハビリテーションの進捗状況を考慮し,薬剤の効果とリスクを評価しながら適切な薬剤管理を行うことが求められる.
さらに,慢性疾患や神経難病をかかえる患者においては,長期的な薬物療法が不可欠であるが,リハビリテーションの進展に応じて薬物治療の内容が変化する場合がある.例えば,運動機能の改善に伴い鎮痛薬の使用が減少するケースや,心理的負担の軽減により抗うつ薬の必要性が低下するケースが挙げられる.このような状況に対応するためには,定期的かつ柔軟な薬剤の見直しが求められる.しかしながら,実臨床においては,薬剤の総合的評価や適切な減薬が十分に実施されていないケースが散見され,それがアドヒアランスの低下や副作用の管理不備につながることもある.こうしたリハビリテーションにおける薬剤管理に対応することは,リハビリテーションの効果を最大化し,患者のQOLを改善させるために必要不可欠である.本稿では,リハビリテーション治療における薬剤管理の基本的な考え方を体系的に整理し,実践的な取り組みについて具体的に解説する.

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