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最新の国民健康栄養調査(令和4年)によると,20歳以上の1日の平均歩数は男性で6,465歩,女性で5,820歩であり,直近10年間に男女ともに減少しています.世界保健機関(World Health Organization:WHO)の「身体活動に関する世界行動計画2018-2030」によると,世界では成人の4人に1人は健康のための身体活動の推奨値を満たしていないと報告されています.一方,1980年代以降,運動による健康への効果に関する多くの研究が行われ,身体活動が死亡率,心血管疾患,筋骨格系疾患,糖尿病,メタボリックシンドローム,肥満,がん,要介護に対して効果的であることが明らかにされました.米国の「身体活動ガイドライン2008年版」でも,そのような効果がまとめられています.日本においても,「健康づくりのための運動基準2006」や「健康づくりのための身体活動基準2013」,「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」で,科学的なエビデンスに基づく身体活動の推奨値が示されてきました.特に2023年には,こども版と高齢者版の推奨値が加えられ,さらに慢性疾患を有する人の身体活動のポイントが明記されたことは注目すべき点です.ぜひ,リハビリテーションに携わる皆さんにも手に取って活用していただければと思います.
国内外のガイドラインが整備されたことは素晴らしいことですが,それでも身体活動の低下が続いている現状があります.言い換えると,必要性は理解していても実行に移すことが難しいということです.リハビリテーションの現場の専門家と話題になる課題は,施設外での運動療法の継続と,保険診療が終了した後の身体活動の維持です.どうやら私たち人間は,「知っていること」と「実行できること」が異なる課題のようです.「医者の不養生」や「坊主の不信心」という言葉が思い起こされます.では,この「知識」と「行動」のギャップをどうすれば埋められるでしょうか.これに対する答えは一つではありませんが,いくつかの対策を挙げてみます.
1.身体活動を支援する環境の整備:人の行動は環境に影響されやすいため,歩道や自転車道路の整備,運動施設や公園などへのアクセスを向上させることが重要です.
2.人とのつながり:社会とのつながりが多いほど,死亡率が低いことが示されています.インクルーシブな社会づくりや,支え合いの文化が大切です.
3.身体を動かす楽しさ:身体と心はつながっており,運動をすることで心も解放されます.他人との比較や報酬に頼るのではなく,運動そのものを楽しむことで継続しやすくなります.理学療法士や体育教員,コーチ,トレーナーなどの指導者の腕の見せどころです.
4.デジタル技術の活用:ウェアラブルデバイスを使った健康支援が急速に進んでおり,エビデンスも急増しています.健康診断の結果をgenerative artificial intelligence(生成AI)に読み込ませると,医師と同様のアドバイスが出された例もあるようです.個人に最適な行動変容を助言する時代が,そう遠くないかもしれません.WHOも生成AIを用いた健康促進ツール「S.A.R.A.H.」を公開しています.
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