連載 新型コロナウイルス感染症のパンデミックをめぐる資料、記録、記憶の保全と継承—「何を、誰が、どう残すか」を考える・10
資料、記録、記憶を保全するものとしての博物館の機能—ザンビアにおけるCOVID-19の事例を中心に
五月女 賢司
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1大阪国際大学国際教養学部国際観光学科
pp.913-916
発行日 2025年10月15日
Published Date 2025/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.036851870890100913
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はじめに——パンデミックと社会の記憶
2020年3月、アフリカ南部に位置するザンビア共和国で、初めてのCOVID-19感染者が確認された。最初の症例は、パキスタンおよびフランスからの帰国者であり、感染の拡大が国際的な移動によってもたらされたことが明らかとなった。その後、パンデミックはザンビア全土に波及し、2025年4月時点での累計感染者数は約35万人、死者数は4,000人を超えた。ワクチン接種は1,100万回を超え、一定の成果を上げたが、医療インフラや交通アクセスの地域格差、情報へのアクセスの不均衡などが課題として浮き彫りになった。
このような大規模かつ予測困難な公衆衛生上の危機に直面したとき、社会はどのようにその経験を記録し、記憶し、そして次世代へと継承すべきなのか。本稿では、COVID-19をめぐる記録と記憶の継承を主題とし、博物館という制度的枠組みが果たし得る役割を、ザンビア共和国における事例を軸に検討する。特に南部州における無形文化遺産に根差した対応と、それを展示化したチョマ博物館の事例を中心に考察し、日本の実践との比較も交えながら、文化的視点からパンデミックを記録する意義について論じたい。

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