連載 新型コロナウイルス感染症のパンデミックをめぐる資料、記録、記憶の保全と継承—「何を、誰が、どう残すか」を考える・6
島の記憶を残す—コロナ禍とその後
高橋 そよ
1
1琉球大学人文社会学部琉球アジア文化学科
pp.548-552
発行日 2025年6月15日
Published Date 2025/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.036851870890060548
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はじめに
「ユカテー 元気ナティ、ムディティ ウワチャクト ナユイ。ションシ ユカテーマッチュヤビタンドー(良かったね、元気になって帰ってこられて。良かったね、待っていましたよ)。」2020年8月上旬、当時、鹿児島県与論町長だった山元宗氏は新型コロナウイルス感染症治療のために島外移送をした住民を初めて島に迎えるに当たり、安心して帰ってくることができるようにと防災無線で住民に島の言葉ユンヌフツ(与論口)で呼びかけた。
本稿では、2020年より鹿児島県与論町で行ってきた、コロナ禍の記憶を記録することをきっかけに始めたコミュニティーアーカイブプロジェクト「島の自然とくらしのゆんぬ古写真調査」の取り組みを紹介する。与論島は鹿児島県南端の人口約5,000人の島で、沖縄島北端の辺戸岬から北東約24 kmの距離にある。沖縄が1972年に日本に復帰するまでは、与論島は日本最南端の境界の島でもあった。すでに本プロジェクトの立ち上げの背景と資料提供許諾書等の基盤構築のプロセスについては別稿1)にまとめたので、ここでは収集された多様な資料から具体例を示し、島を舞台に多様な人々とともに取り組む地域歴史文化の資料収集と保全の意義について考えたい。

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