連載 All about 日本のワクチン・30【最終回】
ダニ媒介脳炎ワクチン
好井 健太朗
1
1長崎大学高度感染症研究センター研究部門ウイルス生態研究分野
pp.553-555
発行日 2025年6月15日
Published Date 2025/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.036851870890060553
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1.当該疾患の発生動向
ダニ媒介性脳炎(tick-borne encephalitis: TBE)はダニ媒介性脳炎ウイルス(TBE virus: TBEV)を原因とするウイルス性の人獣共通感染症で、感染した人に重篤な脳炎を起こす疾患である。人や動物はTBEVを保有するマダニの吸血により感染し、ユーラシア大陸中北部では広い地域でTBE患者が発生し年間患者発生数は1万人以上に上る。以前は日本では存在しないと考えられていたが、近年、北海道で死亡症例を含むTBE患者が相次いで報告されている(表1)1)。また、調査研究によりTBEVは北海道のみならず日本に広く分布する可能性も示されており2)3)、診断に至らなかったTBE患者が北海道外にもいたことも報告されている4)。致死率20%以上の重篤な中枢神経症状を呈し、回復後も知覚障害、運動障害などの後遺症が残る。ウイルス特異的な治療法はなく、TBE患者への対応には対症療法が中心となるため、ワクチンによる予防が流行防止対策において重要である。

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