胸部外科 77巻6号 (2024年6月発行)

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今月の臨床

縦隔内膵仮性囊胞に伴う縦隔炎に対する胸腔鏡下ドレナージ脇　翔平 , 久保　友次郎 , 田尾　裕之 77巻6号 , 2024年6月 , pp.403-408

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慢性膵炎の急性増悪に伴い膵仮性囊胞が後腹膜腔から縦隔内へ進展する場合がある．われわれは，縦隔内膵仮性囊胞を伴う縦隔炎に対して胸腔鏡下での縦隔ドレナージを行った症例を経験したので，若干の文献的考察を交えて報告する．

臨床と研究

成人開心術における高流量経鼻酸素療法に併用した一酸化窒素吸入療法井上　信幸 , 山本　信行 , 大友　勇樹 , 大友　有理惠 , 福西　琢真 77巻6号 , 2024年6月 , pp.409-414

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一酸化窒素吸入療法（inhaled nitric oxide：iNO）による選択的肺血管拡張作用は，呼吸不全，新生児遷延性肺高血圧症，心臓手術周術期の肺高血圧（pulmonary hypertension：PH）に応用され，その有用性が報告されている1～3）．PHを伴う成人心臓手術周術期のiNOにおいて，その使用のほとんどは人工呼吸器（mechanical ventilation：MV）への添加（MV-iNO）である．MVの離脱に合わせ一酸化窒素（nitric oxide：NO）の減量や中止を試みる際，肺動脈圧（pulmonary artery pressure：PAP）の再上昇から，血行動態の不安定化や血中酸素濃度の低下をしばしば生じ4，5），わずかなNOを終了できないことによるMV期間の延長を経験する．また開心術において術前からのPHの合併は，MV期間の延長のリスク因子になると報告されている6）．iNOはMV以外の多種の酸素投与デバイスに接続可能であるが，高流量経鼻酸素療法（high-flow nasal cannula：HFNC）を用いたiNO（HFNC-iNO）の有用性の報告はわずかである7～9）．

今月の話題

冠状動脈主幹部の巨大冠状動脈瘤宮木　靖子 , 樋上　哲哉 , 渡邊　圭祐 , 江﨑　かおり , 青木　貴紀 , 西田　陽登 , 秋満　忠郁 77巻6号 , 2024年6月 , pp.415-421

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20 mmを超える巨大冠状動脈瘤はまれな疾患である．その発生由来は右冠状動脈がもっとも多く，次に左前下行枝（LAD）の頻度が高い1）と報告されているが左主幹部（LMT）由来の冠状動脈瘤の報告は非常にまれである．本稿では6 cmを超えたLMT由来の巨大冠状動脈瘤について，その場所ゆえに治療に工夫を要した手術症例を経験したので報告する．

真性左室瘤に合併した巨大仮性心室瘤小圷　徹 , 中井　真尚 , 後藤　新之介 , 山崎　文郎 77巻6号 , 2024年6月 , pp.424-427

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心筋梗塞後に発症する心室瘤は，瘤の組織学的構造や形態から真性心室瘤と仮性心室瘤に分けられる．特に仮性心室瘤は破裂の危険性が高く，早期の手術加療が必要とされる1）．

まい・てくにっく

Multiple arterial CABGにおけるグラフト配置のコツ和田　賢二 , 高梨　秀一郎 , 福井　寿啓 77巻6号 , 2024年6月 , pp.422-423

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冠状動脈バイパス術におけるわれわれの基本的なグラフトデザインは，対角枝領域に大伏在静脈グラフト（SVG）を使用し，回旋枝領域は遊離グラフトとして右内胸動脈（RITA）を使用している1）（図1）．特に回旋枝領域で複数箇所の吻合が必要な場合にfree RITAは走行や吻合自体の取り回しがよく，脱転の厳しい症例でもより確実な血行再建に有利である．一方で，中枢のY composite吻合の作製は一つ吻合箇所が増えるため，吻合部の狭窄やグラフトのねじれなど技術面での合併症が増える可能性はある．本稿では，Y composite作成における気をつけるべきポイントを詳述する．

臨床経験

右室を著明に圧排していた悪性孤立性線維性腫瘍上村　亮介 , 松本　高典 , 池内　真弥 , 阪本　俊彦 77巻6号 , 2024年6月 , pp.428-431

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孤立性線維性腫瘍は症状に乏しく，発見時に巨大腫瘍となることが多い．われわれは前縦隔に発生したまれな孤立性線維性腫瘍を経験したので報告する．

１枚のシェーマ

脳死左肺移植後の気管膜様部裂傷修復術板東　徹 77巻6号 , 2024年6月 , pp.432

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肺高血圧症合併の肺気腫による呼吸不全のため，左片肺移植を行った症例である．左後側方切開で夜半から始まった移植手術は体外式膜型人工肺（ECMO）を要したが，明け方に終了した．麻酔科医がダブルルーメンチューブをシングルルーメンチューブに入れ替えて，集中治療室（ICU）に入室した．教授が海外出張で不在のため，久しぶりの責任者としての移植手術が無事完了し，ほっと安堵の胸を撫で下ろしウトウトしかけていると，ICUから皮下気腫と縦隔気腫が急激に進行しているとの連絡が入った．

症例

大動脈弁置換術後数時間で判明した右冠状動脈狭窄の1例篠田　大悟 , 宮川　敦志 , 横山　野武 , 由利　康一 77巻6号 , 2024年6月 , pp.433-437

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はじめに　外科的大動脈弁置換術（SAVR）後の冠状動脈閉塞および狭窄は術後突然死の原因となりうるとされ，重大な合併症の一つである．われわれはSAVR後，数時間経過した後に判明した右冠状動脈（RCA）狭窄をきたした症例を経験したので報告する．

低侵襲アプローチによる大動脈内遺残ガイドワイヤー除去の1例丹羽　恒介 , 西川　浩史 , 上田　大輔 , 山下　慶悟 77巻6号 , 2024年6月 , pp.438-441

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はじめに　経皮的冠状動脈インターベンション（PCI）に伴うガイドワイヤーなどの異物遺残は医原性の合併症であり，慎重な対応を要する．多くは緊急手術の適応となるが1，2），虚血症状がない場合は保存的な対応を行う例も存在する．われわれは，4年前に施行したPCI中にガイドワイヤーが断裂し体内に遺残した症例に対して，低侵襲心臓手術（MICS）で異物除去を施行した症例を経験したので報告する．

動脈管開存閉鎖術後遠隔期の囊状瘤に対して1デブランチ胸部ステントグラフト内挿術を施行した1例本田　義博 , 榊原　賢士 , 矢ヶ崎　萌 , 中島　博之 77巻6号 , 2024年6月 , pp.442-445

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はじめに　動脈管開存の多くは新生児期から乳児期に閉鎖術が行われ，術後予後は一般に良好とされる．このため生涯にわたる経過観察はなされずに成人する例が多いと思われる．われわれは，動脈管閉鎖術後，遠隔期に大動脈弓小彎側の囊状瘤を呈し，ステントグラフト内挿術によって治療した成人例を経験したため報告する．

完全内臓逆位患者に対する緊急心拍動下冠状動脈バイパス術の1例伊東　和雄 , 田口　亮 , 鈴木　伸章 77巻6号 , 2024年6月 , pp.446-449

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はじめに　完全内臓逆位（situs inversus totalis）に伴う鏡像的右胸心（mirror-image dextrocardia）は比較的まれな疾患である．合併奇形も少なく，予後や冠状動脈疾患の頻度は健常者とかわらないとされている1）．

心外膜リードのペースメーカ感染に対して再開胸リード摘出術を施行した1例橋野　朗 , 熊野　浩 77巻6号 , 2024年6月 , pp.450-453

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はじめに　ペースメーカ（PM）感染はまれながら重篤な合併症である．われわれは心外膜リードを用いたPM感染に対して，複数回の姑息的手術を行うも根治しえず，再開胸でのリード摘出術を要した1例を経験したので報告する．

Andexanet alfaを術前投与しヘパリン抵抗性に苦慮した1例新田目　淳孝 , 馬場　俊雄 , 南村　弘佳 , 西本　幸弘 , 南郷谷　亮 77巻6号 , 2024年6月 , pp.454-456

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はじめに　近年，直接経口抗凝固薬（DOAC）の使用増加に伴いこれらの内服患者における緊急開心術も増加している．

術中インドシアニングリーン腹腔内注入が瘻孔の同定に有用であった横隔膜交通症の1例野坂　祐仁 , 城所　嘉輝 , 門永　太一 , 前田　啓之 77巻6号 , 2024年6月 , pp.464-469

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はじめに　横隔膜交通症は比較的まれな疾患であり，その閉鎖において，瘻孔の確実な同定が重要である．われわれは術中のインドシアニングリーン（ICG）腹腔内投与により，瘻孔を同定し閉鎖しえた横隔膜交通症の1例を経験したため報告する．

胸腔鏡下に観察しえた肺アミロイドーシスの1例木下　広敬 , 小松　弘明 , 古河　奈央 , 秋岡　正史 , 植山　篤 , 岡部　和倫 77巻6号 , 2024年6月 , pp.470-473

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はじめに　多発肺結節の経過観察中に増大傾向を示す結節を認めた場合，悪性疾患が鑑別となる．われわれは，原発性肺癌の合併を疑い，手術によりアミロイドA（AA）型アミロイドーシスの診断にいたった症例を経験した．鏡視下にアミロイド結節を観察した症例の報告は少なく，術中所見とともに報告する．

左肺上葉切除後に心タンポナーデをきたした2例三友　英紀 , 田畑　俊治 , 野々村　遼 , 大島　穣 , 佐々木　高信 , 石橋　直也 , 菅原　崇史 , 佐川　元保 , 村上　一宏 77巻6号 , 2024年6月 , pp.475-478

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はじめに　原発性肺癌根治手術後の合併症として心タンポナーデはまれである．われわれは，左肺上葉切除後に心タンポナーデを発症した2例を経験したので報告する．

連載　外科医のためのビッグデータ利活用入門

第8回　交絡と回帰分析の実際山本　博之 , 遠藤　英樹 , 隈丸　拓 77巻6号 , 2024年6月 , pp.457-460

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たとえば，X［曝露］→Y［結果］の関連性を検討する際の方法として，単純な検定方法や信頼区間の算出法についてこれまで紹介してきた（もちろん，観察研究では原因・結果の因果関係について言及できないことはいうまでもないが）．しかし，現実のX→Yの関連性は，このようなシンプルな関連性であることはきわめて少ない．2群の比較の際に，集団内のサブグループの偏りなど比較可能性を歪めるようなものについて調整する必要があることがほとんどである．

連載　未来の専門医を育てる！

新時代のattending surgeonを育成する北村　律 77巻6号 , 2024年6月 , pp.461-463

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医療業界も時代とともに変化しており，近年では労働時間が規定され，トレーニングの効率化や治療の標準化が求められるようになってきた．心臓血管外科においても，施設の集約化が叫ばれる一方で，集約化により心臓血管外科過疎となる地域があることや，さまざまな循環器治療の施設認定のために心臓血管外科を必要とする問題もある．また，先進的治療の導入に伴い心臓血管外科内でも専門性が細分化され，よりミスが許されない状況に追い込まれている．

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Contents 77巻6号 , 2024年6月 , pp.401

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編集メモ 77巻6号 , 2024年6月 , pp.480

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目次 77巻6号 , 2024年6月

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胸部外科医の散歩道

「Rain check」について横山　斉 77巻6号 , 2024年6月 , pp.474

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アメリカに留学した時の話である．1990年代後半にフィラデルフィアに移植研究のために赴いた．当時の東北大学（毛利平教授）は心臓移植実施施設申請を控えており，移植研究の充実が急務であった．私の関心は同種移植の免疫寛容（非自己を自己として認識し，拒絶反応のない状態）誘導にあったが，同じラボにムハマド・モヒウディンがいた．彼はパキスタン出身で，数年前に渡米し異種移植の研究をしていた．イスラム教徒であり，実験の合間もメッカの方向に小さな絨毯を引いて礼拝をしていた．年1回のラマダン（日中は飲食をしない戒律）も厳格に守っていた．しかし，当時世界的に高かった異種移植への関心は，その後急速に失われていった．超急性拒絶反応の制御に加え，未知のウイルスや病原体がドナー動物からヒトに感染するリスクを排除できなかったからである．しかしその後，彼はグラントが減っても異種移植の研究をコツコツと続けた．フィラデルフィアからシカゴへ，そしてNational Health Institutes（NHI）からメリーランド大学へと移籍した．そして2022年1月，ムハマドをリーダーとする異種移植チームは，ついに世界初の遺伝子改変ブタ心臓のヒトへの移植を行った．お祝いのメールを彼に送った．「30年の長い旅（journey）でとうとう辿りついたよ」との返事であった．患者は術後2ヵ月で死亡した．病理的には典型的拒絶反応ではなく，原因不詳の微小循環障害と報告され，未知のウイルスがブタに感染していた可能性も指摘されている．そして2023年9月，第2例目が行われたが，患者は6週目に死亡した．死因の徹底分析による生存期間延長と遺伝子改変ブタの作成費用の削減（現在1頭7,000万円以上）が大きな課題であるが，ヒトの死を前提としない異種移植の未来に一筋の光が差した．今後も続く彼のjourneyでの幸運を祈るばかりである．

基本情報

胸部外科
77巻6号
(2024年6月発行)

電子版ISSN：2432-9436 印刷版ISSN：0021-5252 南江堂

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