胸部外科 73巻7号 (2020年7月)

特集 小切開弁膜症手術

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低侵襲心臓手術(MICS)はこれまでに何度かブームを繰り返してきた.ブームのたびに新たな解決すべき課題が生まれ,技術革新による新たなデバイスが開発されてきた.ここ数年は第3次MICSブームの時代となり,専用の手術器械は創意工夫が施され,操作性が格段に向上した.da Vinciによる弁形成および弁置換が保険償還されることになり,手術支援ロボット補助下心臓手術がようやく普及し始めた.経カテーテル的大動脈弁置換(TAVI)の普及は急速で,中等度リスク症例のみならず低リスク症例が対象になりつつある.ある意味で背水の陣を敷いた心臓血管外科医が,新たな発想と挑戦によって次々と低侵襲弁膜症手術を編み出し,さらにその安全性と有効性を示すようになった.

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本邦では1990年代から小切開による低侵襲心臓手術(MICS)が弁膜症に行われ始めた.当初は特別な手術器械を要しないことから胸骨部分切開や傍胸骨切開によるものが行われたが,2000年を過ぎてからは右小開胸によるMICSが行われるようになり,症例数が増加している.その後,小切開を追求することで直視下手術だけでなく,内視鏡補助下での僧帽弁形成術が行われるようになってきた.最近ではロボット支援下弁形成術もMICSの発展形として行われるようになった.MICSが普及しつつあるが,狭く深い視野や手術操作のストレス,手術時間が延長する危惧,必要な手術器械の調達,手術チームづくりなどでハードルの高さを感じる外科医もいる.胸骨部分切開からロボット支援下手術まで20年間のMICSについて,筆者の経験を中心に述べる.

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1970年代に胸骨正中切開が心臓手術の標準アプローチとして確立された後,1990年代から整容性の向上と入院期間の短縮を目的に,単弁置換術,1枝冠状動脈バイパス術など簡易な手術を対象に小切開心臓手術(MICS)の報告が散見されるようになった.当初は,胸骨部分切開と肋間開胸という二つのアプローチが共存していたが,内視鏡器具の改良,手術支援ロボットの開発など,テクノロジーの進歩により,肋間開胸アプローチが主流になってきた.特に,胸骨を切開しないことで早期社会復帰を可能にする,整容性において胸骨部分切開に優るなどの利点がある.本稿では右小開胸によるMICSにつき,僧帽弁手術に主眼をあて,当施設での経験を中心に解説する.

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右小開胸アプローチは弁膜症手術において胸骨正中切開と並ぶ標準的なアプローチである1).多くの場合前腋窩線あるいは乳房下線上に皮膚切開がおかれるが,右房切開による心内操作を行う場合,乳輪切開を行うと,より前方からアプローチできる利点がある2).本稿では当科における乳輪切開アプローチによる三尖弁手術の治療成績について検討する.

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低侵襲心臓手術の技術的進歩はめざましく,近年では肋間小開胸による大動脈弁置換術(MICS-AVR)も一般的になってきた.また,フレキシブルシャフトの冷凍凝固デバイスの登場により,小切開での僧帽弁手術時に不整脈手術を同時施行することも増えてきている.一方で,MICS-AVRに併せて不整脈手術を行った報告は非常に少ない.本稿では,MICS-AVR時に心膜横洞経由で不整脈手術を行う方法を解説する.

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昨今の低侵襲心臓手術(MICS)の進歩に伴い,右肋間小開胸による僧帽弁手術は普及しつつある.大動脈弁置換術(AVR)においても低侵襲化がすすんでおり,上部,下部,V字などの胸骨部分切開,傍胸骨切開,前胸部肋間開胸,側胸部肋間開胸1)など,さまざまなアプローチによるMICS-AVRが報告されてきたが,完全胸視下AVR(TE-AVR)の報告は少ない2,3).当院では2012年より右腋窩縦切開,2D内視鏡補助下によるMICS-AVR(経右腋窩AVR:TAX-AVR)を導入し,今日までに150例以上に実施した4,5).従来の正中切開AVRと比較し,美容的優位性に加え早期成績が良好であることは以前報告した通りである6).さらにわれわれは2015年より3D内視鏡を導入し,TE-AVRを開始した7).TE-AVRは直視下AVRに比べ小さな傷でも術野を詳細に立体視することができる.主創は弁がぎりぎり通過すればよく,開胸器を使用する必要もない.さらに僧帽弁MICSと同様の手術体位,術創で行うため,僧帽弁との2弁手術も可能である.本稿では当院で施行しているTE-AVRの適応,術式に加え,TAX-AVRと比較した早期成績を報告する.

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僧帽弁形成術において,人工腱索はあらゆる状況に対応でき,広く用いられている.人工腱索再建では,適切な長さや本数の決定,縫着部位の決定にさまざまなバリエーションがあり,種々の工夫や術式が報告されているが,各方法によりさまざまな術式があり1~9),一定の方法はない.特に人工腱索の長さの決定では,リファレンスの同定や長さの測定に熟練を要する.低侵襲心臓手術(MICS)である右小開胸アプローチの僧帽弁形成術においては,限られた視野のため人工腱索の長さや部位の決定に難渋する場合があり,人工腱索の長さが簡便に決定できたら,その汎用性が広がり適応拡大も可能となる.Memo 3D Rechord(LivaNova社,London)は,人工弁輪の後尖側にあらかじめ縫着された黄色い輪となった糸を利用して人工腱索の長さを決定する新しいリングである8).われわれは,MICS僧帽弁形成術におけるMemo 3D Rechordを用いた人工腱索至適長決定において,簡便かつ再現性のある縫着方法を行っているので供覧する.

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2018年4月に胸腔鏡補助下弁形成術,胸腔鏡補助下弁置換術が保険収載されたことによって,ロボット支援下の心臓手術を保険下に施行することができるようになった.本邦ではロボット心臓手術関連学会協議会が心臓外科におけるda Vinci支援下手術のための指針を出し,施設基準[心停止下低侵襲心臓手術(MICS)20例以上など],術者およびda Vinci手術チーム基準を設け,安全性を担保したロボット手術の普及を図っている.当院では以前より,MICSに積極的に取り組んできたが,このたび2018年12月よりロボット支援下手術を導入して僧帽弁形成術を開始したのでその初期成績を報告する.

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Barlow病は余剰弁尖によるbillowingと,腱索断裂・延長による器質性逸脱,さらに僧帽弁輪の収縮後期異常運動による機能性逸脱が混在するため,複雑な形成を要することが多い.われわれは,器質性逸脱と機能性逸脱を区別して段階的に逸脱矯正を行い,形成手技を標準化することで,Barlow病に対しても低侵襲心臓手術(MICS)による形成が十分可能と考えている.本研究ではBarlow病に対するMICS僧帽弁形成術(MICS-MVP)の中期成績を検討し,その妥当性を検討する.

まい・てくにっく

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気管支端々吻合で留意すべきポイントは,①確実な吻合操作,②吻合部血流の維持,③吻合部緊張の軽減である.肺癌においては縦隔・肺門リンパ節郭清を先行させるが,気管支周囲の剝離操作では気管支周囲の血管を温存し血流維持に努めることが重要である.さらに気管支上皮の血管も損傷せぬよう可能な限り鑷子で気管支断端を摘まないことも大切である.吻合部に緊張がかかりそうな場合は,肺靱帯切離などの授動操作を行う.支持糸を中枢側,末梢側気管支にかけ,吻合時に牽引して減張に利用できるようにしておく.気管支切離は末梢側気管支から気管支長軸に直交する方向でメスを用いて行う.膜様部では腫瘍との距離をみながら収縮することを考慮し,長めに残すよう切離する.断端血流の観点から末梢側気管支は長く残さないようにすべきであるが,短くしすぎると枝が泣き別れになったり,吻合部の緊張が強くなったりするので注意する.腫瘍との距離にもよるが,はじめは末梢側気管支を若干長めに切離し,分岐部との距離,吻合部の緊張を確認しながら適宜追加切除するのもよい方法である.

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症例は70歳代,男性.7年前に左上葉肺腺癌(cT2N0)のため,本人の希望により根治的重粒子線治療を受けたが,2年後に局所再発のため当施設で左上葉切除+S6部分切除術を行った.ところがその3年後に,S6/S10深部にすりガラス状結節(GGA)が新たに出現し,1年後には20 mm以上に増大したため,完遂肺全摘除術を行うこととなった.

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胸部手術における胸腔ドレーンの留置に際しては,抜去時の創部の閉鎖が必要となる.通常はマットレス縫合やタバコ縫合をあらかじめおいてドレーンを抜去した瞬間に創を閉鎖する方法や,スキンステープラーによる閉鎖が行われる1,2).しかしこの方法だと外来での縫合糸の抜糸・抜鉤が必要であるとともに,創部皮膚の変形や縫合糸の痕などが生じる場合がある2).またまれではあるが,創が十分に治癒しないで感染や哆開が生じることもある.われわれは有刺縫合糸によるドレーン固定を行い,その固定方法と成績を検討した.

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縦隔などの性腺外に発生する胚細胞腫瘍は全胚細胞腫瘍の2~5%と比較的まれであるが,時に若年例において血液悪性腫瘍を合併することがある.われわれは縦隔原発混合性胚細胞腫瘍摘出後の経過観察中に急性巨核芽球性白血病を発症した症例を経験したので報告する.

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気管・気管支損傷は比較的まれな外傷であるが,症状が重篤かつ進行性で致死率が高く,救命のためには迅速かつ的確な診断・治療が求められる.気管・気管支損傷の多くは手術による損傷部位の修復が必要とされているが,小裂傷の場合には気道内の減圧などの保存的治療で治癒することもある.われわれは医原性左主気管支膜様部裂傷が保存的治療で治癒した症例を経験したので報告する.

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はじめに CT画像診断の発達により,肺結節陰影やいわゆるすりガラス陰影での早期肺癌が発見される機会が増えているが,術前に診断を確定することが困難な場合も多い.一方,胸腔鏡手術の普及により複数病変を有する症例も手術適応となる傾向にある.われわれは,転移性肺腫瘍と対側肺に原発性肺癌が併存した症例を経験したので報告する.

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はじめに 食道癌根治術後の再建胃管における消化性潰瘍性穿通は比較的まれで報告は少ない.われわれは,食道癌術後遠隔期に潰瘍穿孔を発症し,それに起因する反復性の肺炎を合併した症例に対し,胃管の肺への穿通の外科的治療を行ったので報告する.

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本書は,医薬品を薬効群ごとに解説と便覧で構成した治療薬のマニュアル本であり,毎年改訂されている.筆者も研修医時代より世話になってきたが,今でも外来や入院患者さんに薬を処方するときに,本書の薬剤索引から薬剤の特徴,効能・効果,用法・用量,禁忌,注意点,副作用に加え,ほかの薬剤との相互作用や併用禁忌を調べることがある.また,外来で多くの初診患者さんを診ているが,他院での処方薬を調べる際に,本書の索引には薬剤名ごとに項目名が記載されており,記憶がさだかでない薬剤効能を思い出すのにたいへん有用であると感じている.

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肺癌のプロファイルは時代とともに変化している.ここ30年ほどで画像診断,特にCTの進歩や普及があり,胸部X線では認識困難な小型肺癌やすりガラス所見を呈する高分化腺癌が多く発見されるようになったことは,誰もが実感していることであろう.TNM分類(第8版)の小型肺癌を中心としたT因子の細分化もその反映である.同時期にWHO分類に腺癌の新たな組織分類が導入されたが,組織亜型で悪性度が評価できる概念が採用されたことは小型肺癌切除例の綿密な形態学的解析の賜物である.

胸部外科医の散歩道

潮時を逃すな 中野 清治
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子供にやってみたいとせがまれるまで,釣りなどしたことがなかった.ところが,いつしか親がはまってしまった.スキー,テニス,ゴルフなどひととおり経験してきたが,釣りがもっともハードかもしれない.まず朝が早い.港に午前3時集合といわれると,午前1時には起きて車を飛ばしていく.帰りに居眠り運転をしないように午後10時に眠剤を飲んで寝る.ショートアクティングの睡眠導入剤はせん妄を起こすといわれているが,ずっと寝言をいっているといわれたのでやめることにした.うねりが強い時は船上で立っているのも大変で,足腰を鍛える必要がある.ゴルフをやっていて悪天候になっても命まで取られる気はしないが,時化の船上では「板子一枚下は地獄」を実感する.天候,潮目,地形,そしてなによりも見えない魚たちが相手ということもあり,もっともままならない趣味だと感じるし,だからこそ面白いのであろう.

基本情報

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胸部外科
73巻7号 (2020年7月)
電子版ISSN:2432-9436 印刷版ISSN:0021-5252 南江堂

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