言語聴覚研究 3巻1号 (2006年3月)

シンポジウム 根拠に基づいた言語聴覚療法:evidence based practice

座長記 種村 純
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 シンポジウムの討論としてわれわれの分野で普遍性のある治療法を明らかにすること,そしてその治療法に科学的根拠を示すことの2点をめぐって各演者の意見,会場から意見が交わされた.最後に日本言語聴覚士協会前会長藤田郁代先生から,協会としての今後の方向性が紹介された.

 以下に,各演者の発表の骨子をまとめて紹介する.

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Ⅰ.はじめに

 本シンポジウムでは各演者の先生方に言語聴覚障害各分野の治療についてevidence based practice(EBP)の観点からの展望をお願いした.本稿では以下の展望に先立ってエビデンスの評価と,エビデンスを確立する方法論について解説し,言語聴覚障害分野で求められる治療効果研究のあり方について検討した.

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 自閉症スペクトラム障害(ASD)を中心とする発達障害児に対するコミュニケーション支援法として,近年ソーシャル・ストーリーが注目されている.しかし,その効果についての客観的で系統的な検証はいまだ行われていない.そこで,これまでに学術誌に掲載されたソーシャル・ストーリーに関する事例研究を分析し,この介入法の対象,標的となる行動,効果について検証した.その結果,ソーシャル・ストーリーは主に学齢期の,著しい知的障害のないASD児に適用され,コミュニケーション・言語面の問題に対し有効である可能性が示唆された.その知見に基づき,ASDの1事例に対しソーシャル・ストーリーによる介入を実施し,単一事例実験デザインにより効果を検討した.その結果,従来の事例研究の分析から立てられた仮説が支持され,本事例はソーシャル・ストーリーの効果を示すエビデンスの1つとなると考えられた.

根拠に基づく音声治療 城本 修
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 音声治療の効果に関する研究を概括し,現状とその展望について考察した.過去の音声治療の効果に関する研究では,根拠となるデータはきわめて少ないが音声治療の有効性は認められる.しかしながら,音声治療の適応となる患者の疾患・重症度や病悩期間についてはデータが少ない.また,治療効果に関して性差があるか否かもよくわかっていない.加えて,効果的な音声治療の期間や1セッションの治療時間についてもデータがない.近年,音声治療の技法による治療効果の差を無作為化比較試験のような洗練された研究デザインを用いて検討した報告が散見されるようになってきた.今後も質の高い研究デザインによる研究が必要である.また,音声治療の研究領域では,運動学習理論を元にフィードバックの方法などが検討されるようになり,今後の発展が望まれる.

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 失語症およびその他の高次脳機能障害の領域における,根拠に基づいた言語訓練(以下EBP)について述べた.はじめに欧米を中心とする訓練効果研究の歴史について概観した.2番目に,訓練効果研究の2つの方法論,すなわち群研究と単一事例研究における,それぞれの特徴・問題点について述べた.3番目に,内外の文献における,実験データに基づく言語訓練研究の占める割合について報告した.最後に,われわれ言語聴覚士にとって,EBPの検証が必須の課題であることを述べるとともに,複雑な高次脳機能障害の領域においては,単に「根拠」が直ちに数値化されないという理由によって,リハビリテーションサービスが医療・介護保険の適用外となって打ち切られることがあってはならない,と提言した.

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 純粋失読ではない失語性の音読障害に対し,書字運動による音読促進効果について報告した.症例は47歳右利き男性,左中大脳動脈領域の広範な脳梗塞発症後に,重度の流暢性失語を呈した.発症後3年経過しても,仮名1文字の音読成績は標準失語症検査(SLTA)上50%にとどまったが,書字運動により音読が可能となる場面が観察された.仮名濁音25文字を実験材料として,単一事例研究デザインを用いて書字運動による音読促進効果を調べた結果,有意な音読促進効果が確認された.純粋失読は,形態の視覚認知の段階での障害や,認知された形態から文字表象への連絡の離断により生じる音読障害と解釈されている.なぞり読みが可能なメカニズムとしては,書字運動による文字表象の活性化が考えられている.今回,視覚認知系に障害のない失読症例において書字運動による音読促進効果を認めたことは,文字に関する運動覚性記憶(運筆)から直接音韻に至る経路の存在を示唆するものと考えられた.

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 医療・福祉間の相互理解を得ることによって障害幼児発達支援のための連携がより促進されると考え,その基礎資料を得ることを目的として,全国の知的障害児通園施設におけるコミュニケーション・言語発達支援に関する実態調査を行った.調査項目は施設療育における支援の実態と施設からの言語聴覚士に関するニーズや連携・参加上の問題を明らかにできるよう構成した.調査は郵送にて実施し回収施設数は167(回収率72.0%)であった.結果は,言語聴覚士が勤務する施設数88(52.7%),言語聴覚士が必要と答えた施設数148(88.6%)となった.連携・雇用の条件として「専任常勤」が39.8%と最多で選択され,環境調整と子どもへの直接的支援の双方において言語聴覚士が求められていることが明らかとなった.言語聴覚士は施設内外の支援ニーズに応えていくべきであり,環境調整と直接的支援の知識・技能の向上を担保するシステムおよび情報共有のためのネットワークの構築が重要であると考えられた.

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 本報告は,自閉症スペクトラム障害の子どもが在籍する通園施設のクラスにおける言語聴覚士の役割について検討したものである.言語聴覚士が通園施設のクラスに参加し,クラスの子ども全員のコミュニケーション行動を観察し,評価し,クラス担任に助言を行った.本報告では,変化のみられた1症例の経過を述べた.当初,子どもからの自発的なコミュニケーションがほとんど観察されなかった症例に対し,クラスのスタッフと連携し,コミュニケーション機会の設定,コミュニケーション手段とコミュニケーション機能の拡大をはかった.取り組みの結果,コミュニケーション頻度,コミュニケーション手段,機能,内容において拡大がみられた.このような支援方法は,個別訓練に加え,言語聴覚士が今後開拓すべき領域であることが示唆された.

リポート「現場,最前線」

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1.はじめに

 癌はいまや“治る”病気である.治療中,治療後に生じるさまざまな障害をそのままにしておくのではなく,我々リハビリテーション(以下リハビリ)スタッフが積極的にリハビリを行い,癌患者の家庭復帰や社会復帰を援助しなければならない.言語聴覚士は主に,癌そのものや治療によって生じる嚥下障害やコミュニケーション障害(構音障害,発声障害,失語症などの高次脳機能障害)に関する訓練指導を行うことになる.

 今回は県立静岡がんセンター(Shizuoka Cancer Center Hospital;以下SCC)における言語聴覚士の取り組みを通して癌専門病院における言語聴覚士の役割を紹介する.

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 第7回日本言語聴覚士協会総会・日本言語聴覚学会を以下の通り開催致します.200題もの演題のご応募を有り難うございました.交通・宿泊予約がホームページ(http://square.umin.ac.jp/jas7th/)から可能です.

 多数のご参加をお待ちしております.

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 本協会は平成16年11月に言語聴覚障害学領域およびその近接領域に関する学術専門誌「言語聴覚研究」を創刊しました.本誌は各種言語聴覚障害の基礎と臨床に関する学術論文を掲載することになります.

 購読会員を募集していますので,下記のとおりご案内いたします.

投稿規定

執筆要綱

投稿誓約書

編集後記 立石 雅子
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 言語聴覚研究第3巻1号をお届けします.創刊号の発行から既に1年余が経過し,本号は通算で第5号となります.

 本号は第6回日本言語聴覚学会におけるシンポジウム「根拠に基づいた言語聴覚療法:evidence based practice」のシンポジストの先生方に講演の内容について寄稿していただきました.種村純先生は研究方法によるエビデンスのレベルの評価の枠組みを解説され,藤野博先生は小児の領域における単一事例実験デザインを用いた結果を報告され,城本修先生は音声治療の領域,小嶋知幸先生は失語症の領域において,それぞれevidence based practiceの歴史と課題を解説されています.言語聴覚障害分野におけるエビデンスが十分でないことは誰の目にも明らかです.日々の臨床において個々人がevidence based practiceを心がけることがまず重要です.そのことが専門職として責任を持って言語聴覚障害のある方々に対応していくことであり,言語聴覚療法の質を高めることにつながります.言語聴覚障害のさまざまな領域で,個々の結果を組織的に集積し,治療ガイドラインの策定をしていく必要性を強く感じています.

基本情報

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言語聴覚研究
3巻1号 (2006年3月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:1349-5828 日本言語聴覚士協会

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