日本内視鏡外科学会雑誌 26巻2号 (2021年3月発行)

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原著

前立腺癌に対するロボット支援下と非ロボット支援下根治的前立腺全摘除術後の傾向スコアマッチング法を用いた生化学的非再発生存率についての比較検討木村　博子 , 後藤　崇之 , 澤田　篤郎 , 小林　恭 , 山崎　俊成 , 小川　修 , 井上　貴博 26巻2号 , 2021年3月 , pp.85-93

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◆要旨：【目的】前立腺癌に対するロボット支援根治的前立腺全摘除術施行症例（RARP群）とその他術式施行症例（非RARP群）の生化学的非再発生存（bRFS）率を，傾向スコアマッチング法を用いて比較する．【方法】根治的前立腺全摘除術施行の臨床病期cT1〜cT3前立腺癌患者732例に対し，後方視的観察研究を行った．【結果】傾向スコアマッチング法によりbRFS率の有意差は消失し，3年bRFS率は非RARP群88.0 （95％信頼区間：79.9-93.0）％，RARP群87.7（95％信頼区間：78.1-93.3）％であった．【結語】患者背景因子の差の調整後は，RARP群と非RARP群間のbRFS率に有意差を認めなかった．

症例報告

小児特発性腸間膜血腫に対し腹腔鏡下血腫除去術を施行した1例高見　尚平 , 黒田　晃弘 , 五嶋　翼 , 鈴木　完 , 藤代　準 26巻2号 , 2021年3月 , pp.94-99

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◆要旨：症例は14歳，女児．背部痛の精査で撮影した腹部X線写真で，偶発的に石灰化を伴う腹部腫瘤を指摘された．CT，MRI所見から腸間膜血腫と診断され経過観察となったが，4年間の経過で緩徐な増大傾向を示した．悪性腫瘍が否定できないため，精査加療目的に当院入院となった．診断的治療として腹腔鏡下腫瘤摘出術を行った．腫瘤摘出時にはPfannenstiel切開を用いた．病理組織所見では悪性像のない血腫であり，特発性腸間膜血腫と診断した．術後は合併症なく経過し，術後第3病日に退院した．小児特発性腸間膜血腫に対する腹腔鏡下手術は，本症例が初めての報告である．

腹腔鏡下Ladd手術で治療しえた成人腸回転異常症の1例水田　憲利 , 福田　善之 , 沢　秀博 , 小管　浩文 , 豊川　晃弘 26巻2号 , 2021年3月 , pp.100-107

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◆要旨：患者は70歳，男性．14歳時，急性虫垂炎で虫垂切除術を受けた既往歴がある．1年前から食後に腹痛が出現するようになり，精査目的に当院受診した．腹部CT検査で十二指腸水平脚は認めず，下行脚から直接空腸に移行，SMV rotation signも認めた．結腸は通常の位置にあり，その背側に空腸の大部分を認めたため，incomplete fixation typeの腸回転異常症と診断し，腹腔鏡下Ladd手術を施行した．肝結腸靱帯，右側結腸間膜と後腹膜の癒着を切離，小腸間膜根部の狭窄を開放し，小腸を右側に，結腸を左側に並べ手術終了した．成人腸回転異常症に対し，腹腔鏡下Ladd手術は安全に施行でき，有用と考える．

解剖学的変異を伴う完全内臓逆位の胆石性胆囊炎に対して腹腔鏡下胆囊摘出術を行った1例美並　輝也 , 寺田　卓郎 , 天谷　奨 , 高嶋　吉浩 , 宗本　義則 , 三井　毅 26巻2号 , 2021年3月 , pp.108-114

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◆要旨：【緒言】完全内臓逆位は1/5,000〜1/10,000の頻度とされる稀な先天性奇形で，解剖学的変異を伴うことがあり，手術時には脈管走向に注意を要する．【症例】68歳，女性．上腹部痛を主訴に，当院救急を受診し，精査で内臓逆位と総胆管結石を伴う胆石性胆囊炎と診断された．内科的加療後，待機的な腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した．従来式を正反対の鏡面配置した4ポートで行った．術前CTで門脈が総胆管腹側を走向する変異を認めた．またCalot三角部の剝離は左手操作を多用した．術後合併症なく，術後4病日に軽快退院した．【結語】このような症例は左手操作の習熟だけでなく，解剖学的変異にも注意して手術に臨むべきである．

LECSにて切除した胃-胃重積を生じた胃穹窿部GISTの1例海野　良介 , 大倉　遊 , 上野　正紀 , 宇田川　晴司 26巻2号 , 2021年3月 , pp.115-121

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◆要旨：胃重積は稀な消化管重積であり，特に胃-胃重積はきわめて稀である．今回，突然の左季肋部痛で発症した50mm大の胃GISTを先進部とした胃-胃重積に対し，腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除術（laparoscopic endoscopy cooperative surgery：以下，LECS）を施行した．症例は43歳，男性．朝食摂取4時間後に左季肋部痛を認め，CTで胃重積所見を認めた．緊急内視鏡検査で重積は解除されたが，胃穹窿部に50mm大の粘膜下腫瘍を認めた．非常に稀な胃-胃重積の原因となった50mm大のGISTに対して，LECSは低侵襲で有用な治療法であった．

体腔内再建が有用であった左骨盤腎を伴う下行結腸癌の1例岡田　俊裕 , 岸　和樹 , 岡村　裕輔 , 中右　雅之 26巻2号 , 2021年3月 , pp.122-128

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◆要旨：症例は63歳，男性．下腹部不快感に対して下部消化管内視鏡検査を施行され，下行結腸癌を認めたため，手術目的で当科紹介となった．術前のCT検査で比較的稀な先天性異所性腎の一種である左骨盤腎の併存を認めた．手術は，腹腔鏡下下行結腸切除術を施行した．5ポートで内側アプローチを用いて手術を進めたが，左骨盤腎によって制限される骨盤内での操作において，左腎動静脈の副損傷に特に注意を要した．再建は，デルタ吻合を用いた体腔内再建を行うことで，必要最小限の結腸授動で再建が可能であった．術後経過は良好であり，10日目に退院した．

転倒による鼠径ヘルニア囊内小腸穿孔に対し腹腔鏡補助下に縫合閉鎖しえた1例小林　陽介 , 岡　直幸 , 大平　正典 , 鳥海　史樹 , 遠藤　髙志 , 原田　裕久 26巻2号 , 2021年3月 , pp.129-135

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◆要旨：68歳の女性．歩行中に転倒し，腹部を打撲した．2時間後に吐血し，救急搬送された．腹部所見は乏しかったが，CTで上腹部主体のfree air，胃壁の肥厚，左鼠径ヘルニアを認めた．胃穿孔を疑い腹腔鏡手術を実施したが，胃は正常であった．鼠径ヘルニア囊内に食物残渣の貯留と近傍の回腸に1cmの穿孔を認めたため，直視下で穿孔部をトリミングし，縫合閉鎖した．その他に明らかな臓器損傷は認めず，腹部打撲時の急激な腹圧上昇によって鼠径ヘルニア囊内の小腸が穿孔したと判断した．経過良好で，1か月後に腹腔鏡下ヘルニア修復術を施行した．

　軽微な転倒による腹圧上昇が腸管穿孔の誘因となる報告は珍しく，文献的考察を加え報告する．

径96mmの食道GISTに対して胸腔鏡・腹腔鏡併用下に切除した1例木下　博之 , 椿原　秀明 , 山添　真志 , 宮本　篤 , 山口　俊介 , 兵　貴彦 26巻2号 , 2021年3月 , pp.136-142

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◆要旨：症例は75歳の男性．胸部単純X線検査で縦隔腫瘍を指摘され，精査目的の胸部CTで左下胸腔内に突出する境界明瞭な96mmの腫瘍を認めた．超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診より食道GISTと診断した．手術は内視鏡下で開始した．まず，胸腔鏡下に腫瘍の周囲剝離と口側食道の切離を行った後，腹腔鏡下に横隔膜を切離して下部食道と腫瘍を経横隔膜的に腹腔内に導出して噴門側胃とともに腫瘍を摘出した．再建は食道亜全胃管前壁吻合を内視鏡下に施行した．術後経過は良好で第14病日に軽快退院となった．大きい腫瘍では，鉗子の動作制限や腫瘍による死角が生じやすいために内視鏡手術は不向きであるが，胸腔鏡と腹腔鏡を併用することでこれらの欠点を補完できる可能性がある．

大腿部のLittréヘルニア嵌頓に対し腹腔鏡補助下大腿ヘルニア修復術を行った1例保坂　優斗 , 樋渡　清司 , 安藤　慶 , 三枝　伸二 , 大塚　隆生 26巻2号 , 2021年3月 , pp.143-149

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◆要旨：症例は95歳の女性．右鼠径部腫脹を主訴に，当院へ紹介受診となった．理学的および画像所見で小腸の右大腿ヘルニア嵌頓と診断し，緊急手術を腹腔鏡下に開始した．右大腿輪に小腸の脱出を認め整復を試みたが困難であったため，大腿法を併施し裂孔靱帯を切開してヘルニア内容物を還納した．ヘルニア内容物はMeckel憩室であった．大腿部を閉創後，transabdominal preperitoneal approach （以下，TAPP法）でヘルニア門の修復を行ったのちに，腹腔鏡下に憩室切除を行った．術後経過は良好で，術後7日目に退院した．Meckel憩室の大腿ヘルニア（Littréヘルニア）嵌頓に対して大腿法併用の腹腔鏡補助下大腿ヘルニア修復術と憩室切除術を同時に施行した1例を経験したので，文献的考察を加え報告する．

人工肛門造設部位を用いた単孔式腹腔鏡下人工肛門閉鎖術—バリウムによるS状結腸穿通術後の1例塩井　義裕 , 石岡　秀基 , 伊藤　浩平 , 松谷　英樹 , 大塚　幸喜 26巻2号 , 2021年3月 , pp.150-153

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◆要旨：症例は56歳，女性．バリウムによるS状結腸穿通の診断で，当科で緊急開腹手術を施行した．術中所見ではS状結腸から腸間膜内への穿通を認め，便汁およびバリウムを漏出させないように穿孔部および腸間膜を含めて一括切除し，ハルトマン手術を行った．術後5か月目に，人工肛門造設部位を用いた単孔式腹腔鏡下手術（single incision laparoscopic surgery：以下，SILS）で人工肛門閉鎖術を施行した．術後経過は良好で，2週間で退院となった．人工肛門造設部位を用いたSILSによる人工肛門閉鎖術は症例を選択することによって安全に施行可能であり，新たな腹壁損傷がなく整容性にも優れた手術術式と考えられた．

腹腔鏡下に整復し一期的に単孔式TEP法に準じて修復を行った鼠径ヘルニア偽還納の1例門　威志 , 三賀　森学 , 今里　光伸 , 浅岡　忠史 , 岸　健太郎 , 赤松　大樹 26巻2号 , 2021年3月 , pp.154-160

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◆要旨：症例は70歳，男性．右鼠径部膨隆と疼痛を主訴に当院を受診した．鼠径ヘルニア嵌頓の診断で用手還納したが，腸閉塞を発症していたため同日入院となった．入院後も腸閉塞の改善が乏しく，第6病日に手術を施行した．腹腔鏡下に観察したところヘルニア門は腹腔内に滑脱し，ヘルニアは偽還納となっていた．嵌頓を解除した後に，一期的にTEP法に準じてヘルニア修復を施行した．鼠径ヘルニア偽還納は稀な病態だが，用手還納後に腸閉塞が解除しない症例では，本症を鑑別として考慮する必要がある．また偽還納のような病態でも，腹腔鏡手術は腹腔内の詳細な観察と確実な診断が可能であり，有用である．またTEP法は腸管拡張による影響を受けにくいため，腸閉塞時にも有用な術式である．

特別寄稿

わが国における内視鏡外科修練に関する全国調査報告—日本内視鏡外科学会卒後10年目以下会員対象アンケート調査倉島　庸 , 平野　聡 , 山口　茂樹 26巻2号 , 2021年3月 , pp.161-169

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◆要旨：【背景と目的】わが国の内視鏡外科領域の修練状況を把握する目的で，本邦初の全国調査を実施した．【方法】卒後10年目以下の日本内視鏡外科学会会員を対象とした．アンケートは内視鏡外科トレーニング環境，腹腔鏡下手術8術式に対する執刀経験数および自己評価による習熟度を問う内容とした．【結果】アンケート調査の回答率は28.1％であった．多くの回答者が腹腔鏡下虫垂術および胆囊摘出術の執刀に自信をもっている一方で，腹腔鏡下大腸切除および胃切除については習熟度に自信がないという回答が多くを占めた．【結語】本調査結果が，わが国のより良い外科修練システム構築のために有用な情報として活用されることを期待する．

文献抄録

Laparoscopic versus open extended radical left pancreatectomy for pancreatic ductal adenocarcinoma: an international propensity-score matched study 26巻2号 , 2021年3月 , pp.170

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目次 26巻2号 , 2021年3月 , pp.83

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欧文目次 26巻2号 , 2021年3月 , pp.84

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投稿時のチェックリスト 26巻2号 , 2021年3月 , pp.175

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編集後記内藤　剛 26巻2号 , 2021年3月 , pp.176

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　新型コロナ感染症の感染者急増により，2021年1月7日，首都圏には再び緊急事態宣言が出されました．学会や研究会もめっきり減ってしまい，友人と飲みに行ったり，他の施設の先生方と対面で会って話をする機会もなく淋しい限りです．この『日本内視鏡外科学会雑誌』の編集委員会でも毎回委員の先生方と議論をすることで他の診療科の先生から幅広い分野の知識を得ることができましたが，昨年は完全リモートになってしまったため，なかなか皆で顔を合わせて議論するということは難しくなってしまいました．日本内視鏡外科学会はご存知の通り，消化器外科，呼吸器外科，泌尿器科，婦人科，整形外科など多くの診療科が参加する学会です．そのため本学会誌には普段は滅多に見ることのない疾患や手術術式などの論文が多く投稿されます．2か月に一度行われる編集会議では，そのような論文を読んで専門の先生の意見を伺う機会も多く，私自身も大変勉強になりました．ただ昨年は対面形式で編集会議が行われたのは2月17日のみでした．ちょうど国内で感染者が増えてきたころです．その後はすべて完全リモートで行われたのですが，リモートだとどうしても発言のタイミングを掴めなかったり，躊躇しがちになってしまい，「まあいいか」と流してしまうこともあります．やはり対面で顔を見ながら話をするのはコミュニケーションの基本であり，いかに技術が進歩してリモートで会議ができるようになっても，お互い膝を突き合わせて議論をするというのは大事なんだなとつくづく感じます．

　本学会の編集委員は5年間務めさせていただきましたが，この編集後記をもって卒業させていただくことになりました．最後に編集後記を担当させていただくことになったので，これまでお世話になった多くの先生がたや事務局の皆様にこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います．また，医学書院の担当の方々にも大変お世話になりました．皆様に厚くお礼申し上げます．最後に直接お会いしてお礼を申し上げることができなかったのが心残りですが，これからも色々とお世話になることも多いかと思いますので，その際にはよろしくお願いいたします．これからも多くの質の高い論文が投稿され，本誌がどんどん厚く（熱く？）なることを祈念して筆を置きたいと思います．

基本情報

日本内視鏡外科学会雑誌
26巻2号
(2021年3月発行)

電子版ISSN：2186-6643 印刷版ISSN：1344-6703 日本内視鏡外科学会

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