臨床整形外科 51巻12号 (2016年12月)

視座

  • 文献概要を表示

 「手術時間ばかり云々しているようでは,まだまだ一人前の整形外科医とはいえんばい!」

 アメリカで開催された国際学会の晩餐会での,恩師・故杉岡洋一先生の一言である.アメリカ人医師たちがテーブルを囲んで,THAの手術時間についてその速さを自慢(?)しあっていた時に,かなり強い口調でおっしゃった.15年近く経った今も,昨日のことのように耳に残っている.

  • 文献概要を表示

目的:人工膝関節全置換術の除痛方法が,食事摂取量に及ぼす影響を調査した.

対象と方法:関節周囲多剤注射と硬膜外麻酔を比較した無作為化比較試験の二次データ解析を行った.対象は111関節である.手術は腰椎麻酔下に行った.

結果:術翌日の食事摂取は,関節周囲多剤注射群で82.0%が全量摂取可能であり,硬膜外麻酔群では34.4%が全量摂取可能だった(p<0.0001,カイ二乗検定).

まとめ:関節周囲多剤注射群は,硬膜外麻酔群よりも術翌日朝に食事を全量摂取できる割合が高率だった.

  • 文献概要を表示

背景:運動器慢性痛に対するオピオイドの治療的意義については明らかになっていない.

研究デザイン:症例集積研究(case-series study)

対象と方法:トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠(T/A)を処方した運動器慢性痛38例において,T/Aの服用前と服用中のVAS値の平均値の差を調べた.

結果:T/A服用中のVAS平均値は,有意に低下9例,不変27例,有意に上昇2例であった.全体の63%がVAS値は不変だが服用を継続していた.

まとめ:オピオイドは運動器慢性痛において情動への作用など,疼痛強度の低下以外の作用をもつ可能性が示唆された.

  • 文献概要を表示

背景:若年者変形性膝関節症(OA膝)に対する人工膝関節全置換術(TKA)の臨床成績を検討,調査した.

対象と方法:55歳以下の若年者のOA膝に行った初回TKA 75人85膝を対象とし,臨床所見およびX線学的計測を調査した.再置換例の原因,合併症も調査,検討した.

結果:臨床症状は有意に改善した.再置換術に至ったものは7例であり,再置換までの期間は,平均13年9カ月であった.

まとめ:若年者OA膝に対するTKAの臨床成績は概ね良好であった.

  • 文献概要を表示

背景:母指CM関節症に対する誘発テストである母指内転伸展テストは,grindテストよりも感度特異度が高いと仮説した.

対象と方法:母指痛ならびに手関節橈側部痛で来院した外来患者を対象にgrindテストと母指内転伸展テストの診断精度を調査した.

結果:Grindテストは,感度,特異度が19%,95%で,母指内転伸展テストは,それぞれ97%,88%であった.

まとめ:Grindテストは低感度でスクリーニングには不適であるが,母指内転伸展テストは高感度,高特異度で有用な誘発テストである.

  • 文献概要を表示

Modic signとは

 椎体終板変性は,MRIで日常的に観察される変化である.一般的には退行性変化として考えられている.図1で示すように,年齢とともに椎間板高が減少し,その変化が椎体終板に発生する現象である.高齢者の8割以上はこのような画像を呈している.変性腰椎の椎体終板変性はModicら1)により報告され,一般的にはModic signと呼ばれている.椎体終板はMRIのT1強調画像で低輝度,T2強調画像で高輝度を呈するModic Type 1,T1強調画像,T2強調画像でともに高輝度を呈するType 2,さらにT1,T2強調画像で低輝度を呈するType 3に分類された2,3)(図2).最近のModic signのレビューによると,腰椎にその変性を認める割合は14%であり,変性の程度は年齢に比例し,10年間で6%の増加を認めることが報告されている.Modic signの分類ではType 2が多く,次にType 1であり,Type 3が最も少ない2).多くの論文において椎間板の変性が腰痛の原因となりうることが報告されているが,椎間板の近傍に存在する椎体終板変性の病理と臨床的意義に関する論文は少ない.本稿では,現在までにわかっているModic signの臨床的意義に関して述べたい.

連載 慢性疼痛の治療戦略 治療法確立を目指して・3

  • 文献概要を表示

はじめに

 われわれ整形外科医にとって,運動器慢性疼痛治療薬は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)一辺倒であった.最近,オピオイド,抗痙攣薬,抗うつ薬など,さまざまな鎮痛薬や鎮痛補助薬などが適応追加になり,われわれにとってもNSAIDs以外の治療選択肢が増えた.しかしながら患者によって鎮痛効果が得られる薬剤の種類や用量は全く異なっており,疼痛緩和治療において難渋することも多い.患者の年齢,社会的背景,疼痛が起こる時間帯,併存病なども1人ひとり異なるので,患者背景を考慮する必要がある.

 薬物には必ず副作用がある.ゆえにそれぞれの薬剤の特徴を再度見直し,副作用をできるかぎり軽減する必要がある.さらに副作用を減らすために処方する薬剤自身に副作用があることも再認識する必要がある.今回,鎮痛薬物療法に関し日頃の臨床現場を通じわれわれが留意しておきたいと思われることを述べる.

連載 東アフリカ見聞録・12【最終回】

小雨降る径(Il Pleut Sur La Route) 馬場 久敏
  • 文献概要を表示

 晩秋から初冬に移るこの時期,銀杏の並木は黄緑の葉を落とし,落葉の絨毯が小雨に打たれる景色は,この上なく哀愁を誘う.どこからかコンチネンタル・タンゴの名曲“小雨降る径(みち)”が聞こえてきそうで,それは本当に素敵な情景である.木々は芽吹き繁茂し,やがては葉を落としてまた芽吹く.自然の摂理には何ひとつ無意味なものはなく,生きとし生けるもののすべての営みは,大自然の法にのっとって過ぎていくものであり,雨に打たれる落葉はそのような森羅万象の原理や理法をふと想い出させてくれる.日本の文化は雨水に根っ子があるのだろうと想う.しかし現代人は幾分に雨水を敬遠するようになったと想うがなぜだろう.

 日本の四季の移ろい,山,川,森,雪,雨など,水をめぐる環境生態の多様性は人びとの認識や意識,ひいては宇宙観に大きな影響を及ぼす.“雨の国,水の国,日本”.日本の文化の根源,吉野・熊野のそれは紀伊山系の杜(もり)の豊かな雨水に根源があり,日本人の感性,美意識や自然観は雨・水そのものに源流がある.健やかな生態にとって雨水は甘露の雨,甘雨(かんう)なのだ.梅雨時や晩秋,初冬の雨の日など,書斎に籠り,雨に打たれる庭の木々や花々をぼんやり眺めながら,濃い目に熱く入れた紅茶をその時の気分に合わせて選んだウェッジウッドで愉しむひとときはとてもいいものだ.雨はいろいろな事柄やいかようにもならない事項などを流して消してくれる気がして,心が落ち着くのである.

  • 文献概要を表示

背景:柔道選手の反復性肩関節脱臼の鏡視下手術成績は報告が少ない.

対象と方法:鏡視下Bankart修復術を施行した柔道競技者46例50肩を,直接検診およびアンケートを用い,初回脱臼の受傷機転,競技復帰過程の可動域,復帰時に困難であった動作を調査した.

結果:93.5%が柔道で初回脱臼を生じた.そのうち投げでの受け動作が47%であった.競技復帰時に患側の可動域の有意な低下を認め,完全復帰率は90%で,再脱臼を2例4%に認めた.

まとめ:柔道競技者の反復性肩関節脱臼に対し,鏡視下Bankart修復術を施行し良好な結果が得られた.

  • 文献概要を表示

目的と方法:内側半月板が逸脱するとhoop機能は失われ,半月板機能が破綻してしまう.そのため変形性膝関節症の進行や悪化につながる.今回,鏡視下centralization法を4例5膝に施行し,その術後短期成績を画像所見,Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score(KOOS)を用いて調査した.

結果:術前MRIで計測した逸脱距離は平均5.4±0.9mmであったが,術後2.8±0.6mmに減少した.逸脱率は術前平均39±5%であったが,術後21±5%に減少した.

結語:本研究から内側半月板に対するcentralization法は逸脱を整復することが可能であった.短期ではKOOSにおいて成績は良好であった.

  • 文献概要を表示

 手術用布製品からの塵埃は手術部位感染症の原因となり得る.本研究では,実際の手術室内の動作を再現し,一般的なスパンレース不織布(SL)と新型複合素材不織布(SFS)の発塵性を比較した.器械台の準備,およびガウン着用動作では,SLがSFSよりも発塵現象が顕著であり,手術台の高さで検出された浮遊微粒子数も有意に多かった.しかし,垂直層流環境下でのTKAドレーピング動作では,SLで著明な発塵が観察されたにもかかわらず,浮遊微粒子数には差がなかった.SFSと垂直層流は,塵埃感染の予防への効果が期待される.

  • 文献概要を表示

背景:小児緊急手術における超音波ガイド下神経ブロックの有用性はいまだ明らかではない.

対象と方法:ブロック群9例,全身麻酔群6例で,麻酔追加や有害事象,手術時間,入院日数を比較した.

結果:全例麻酔の追加はなく,有害事象は認めなかった.手術時間と入院日数は有意差がなかった.手術室滞在時間から手術時間を引いた平均時間は,ブロック群(34.4分)が全身麻酔群(95.8分)より有意に短かった(p<0.001).

まとめ:小児緊急手術において,超音波ガイド下神経ブロックは有用であり,手術室使用時間を短縮できる.

  • 文献概要を表示

 症例は52歳男性で,左鶏眼から感染し第5趾基部骨髄炎の診断で治療目的に紹介され受診した.第5趾基部骨髄炎に対し,切断術の適応と考えられたが,患者の意向を入れ,患肢を温存すべく,基節骨切除術と中足骨部分切除術および抗菌薬含有生体活性セラミック充填を術式として選択した.術後,抗菌薬の点滴投与を12日間行い,内服薬に切り替えた.創部に感染などの問題なく退院となった.本症例は,既往に反対側である右足に糖尿病性壊疽があり,難治性の病変である.骨融解が左第5趾中足骨,基節骨まで進行し,切断が必要と考えられたが,抗菌薬含有生体活性セラミック充填が功を奏した.

  • 文献概要を表示

 非常に稀な大腿骨内顆,脛骨内顆骨壊死同時発生例の1例を経験したので報告する.症例は58歳女性,9カ月前に転倒後,右膝関節痛を自覚した.4カ月前に鏡視下半月板切除術を施行し,症状はいったん改善するも再増悪し,X線像で大腿骨内顆,脛骨内顆骨壊死を認めた.内側開大式高位脛骨骨切り術を施行した.術後1年9カ月の最終調査時,大腿脛骨角は182°から170°と改善し,正座と小走り可能でJOAスコアは100点であった.内反アライメントを矯正し内側荷重負荷を減圧する本術式は,大腿骨内顆,脛骨内顆骨壊死同時発生例に対し有効な治療法と考える.

  • 文献概要を表示

背景:近年,高尿酸血症に対する内科的治療の進歩により,痛風結節の形成まで進行する症例は減少している.さらに外科的治療を要するほど巨大であり,かつ多発する痛風結節に遭遇することは稀である.今回,われわれは四肢に多発する巨大な痛風結節が自壊したことにより来院し,外科的治療を要した症例を経験した.

症例:54歳男性で,2014年9月頃,四肢に多発する腫瘤を自覚した.徐々に増大し,自壊を認めたため近医から紹介された.痛風結節の診断で手術を施行した.術後,結節の再発は認めなかった.

結果:本症例では自壊による二次感染の防止と,外科的治療による尿酸プールの減少,全身尿酸代謝の改善を目的に,手術を行った.術後,血清尿酸値の良好なコントロールを得ることが可能となった.

--------------------

欧文目次

INFORMATION 第8回日本MISt研究会

  • 文献概要を表示

 ひとは亡くなるとき,何を思うのだろうか? 走馬灯のように頭を駆け抜ける自分の人生を振り返りながら,幸せな人生だったかどうかといったことを思うのだろうか? 人生,若いときの幸せよりも,亡くなる間際に幸せを感じられるかどうかで,自分の人生に対する満足度は,大きく異なるのかもしれない.

 がん患者の人生最期の数カ月が,絶望と苦痛に満ちてしまえば,せっかく過ごしてきた人生の日々も,虚しいものとなってしまう.そして,ひとがよりよく生き,最期のときを迎えるためには,自分の手で食事をとり,自分の好きなときに,自分の好きな所へ,自分の力で歩いて行けることは,ひとがひととしての尊厳を保ちながら死に向き合うための,重要なエレメントである.今や,がん患者においては,除痛あるいはスピリチュアルケアとしての緩和的アプローチのみならず,その運動機能を維持し,ADLあるいはQOLをその最期のときまで保ち続け,がん患者の「よりよく生きる」という希望をかなえることが重要となっている.

投稿規定改定のお知らせ

次号予告

あとがき 黒田 良祐
  • 文献概要を表示

 例年にない酷暑がようやく終わり,涼しくなることを期待していましたが,ラニーニャ現象が発生しているようで,10月になっても残暑厳しい日が続いています.気象庁の発表では10月は全国的に「高温傾向」,11月にはようやく平年並みとなる見通しだそうです.異常気象とともに各地で発生する地震,噴火,局地的な豪雨など自然の猛威に圧倒される毎日です.

 さて,今月号の視座は福岡大学の山本卓明先生による『「手術時間」について想う』です.“「自分がしてもらいたい」手術を目指し,日々精進……”という外科医として最も重要且つ基本的姿勢を改めて示され,身が引き締まる思いが致しました.LECTUREは千葉大学の大鳥精司先生が腰椎の椎体終板変性であるModic signについて画像をふんだんに挿入し詳しく解説されています.連載は九州労災病院 今村寿宏先生による第3回目の「慢性疼痛の治療戦略」です.疼痛に対して非ステロイド性消炎鎮痛薬一辺倒であった日本において,抗痙攣薬・抗うつ薬・オピオイドなどさまざまな鎮痛薬,鎮痛補助薬が選択肢として増えました.これらをどう使っていくかを是非学んでいただきたいと思います.論述は人工膝関節手術に対する痛みのコントロール,55歳以下の若年者膝OAに対する人工膝関節置換術,運動器慢性疼痛に対する薬物治療評価,手指の誘発テストの4編です.症例報告3編もそれぞれ異なった分野の非常に興味深いものです.

基本情報

05570433.51.12.jpg
臨床整形外科
51巻12号 (2016年12月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月5日~11月11日
)