胃と腸 49巻1号 (2014年1月)

今月の主題 ESD時代の早期胃癌深達度診断

序説

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はじめに

 早期胃癌はULを伴う病変が多く,しばしば深達度診断を困難にしている.また,大きさ・肉眼型・組織型などの要因によっても深達度診断の難易度は変わってくると思われる.一方,内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection ; ESD)の普及は目覚ましく,深達度診断の重要性はますます高まっている.そこで,各種modalityによる深達度診断の精度と限界および診断困難な病変を明らかにすべく,本特集が組まれた.

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要旨 早期胃癌外科切除例にみられた119病変(深達度M : 60病変,SM1 : 12病変,SM2 : 47病変)を対象として,深達度と関連する肉眼所見および対応する組織学的所見について検討した.内視鏡的切除の適応となりうる大きさ2~3cmの病変は,同時にSM癌が最も多い領域であることに注意する必要がある.組織学的に確認されたSM浸潤部とSM浸潤によって生じた肉眼所見との明確な対応を確認できたものは,SM2癌の66%(31/47病変)であった.SM1癌および約半数のSM2癌はSM浸潤部全体に粘膜内癌成分を伴っており,SM浸潤部の病変表面への露出がSM浸潤を診断する主所見となる病変は限られた.一方,SM浸潤に伴う粘膜要素の挙上およびそれに関連した変化はSM浸潤の肉眼診断において認識すべき重要な所見とみなされたが,その所見がみられた病変の多くはSM浸潤距離>2,000μmかつSM浸潤幅>0.5cmであった.潰瘍・潰瘍瘢痕(UL)の合併は,陥凹面の不整・粗糙所見からの深達度診断を困難とするひとつの要因と考えられた.肉眼的なSM浸潤診断が困難なもうひとつの病変として,粘膜内癌成分が保たれた癌のリンパ管侵襲によるSM浸潤がある.肉眼所見からの深達度診断を困難とする要因をよく認識したうえで切除検体の十分な病理組織学的検索を行うことの重要性が再確認された.

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要旨 【目的】ESD時代の早期胃癌深達度診断において,X線検査の役割を明らかにする.【対象と方法】2009年1月~2012年12月の4年間に当院で手術,あるいはESDを施行した早期胃癌中,術前に精密X線検査を施行した287例287病変において,内視鏡,X線検査,EUSの深達度診断を行い,陽性的中率,陰性的中率,感度,特異度,正診率を比較した.【成績】30mm以下の分化型UL(-)の病変においては,内視鏡のみの診断で陽性的中率,陰性的中率,感度,特異度,正診率いずれも高い結果が得られ,ESDの適応を決めるに足る十分な情報を得ることが可能であった.30mm以下の分化型UL(+)の病変においては,内視鏡の診断能は低く,粘膜内癌を深読みしてしまう可能性が考えられたが,過伸展状態での観察や圧迫法を用いたX線検査を追加することによって,内視鏡の深読みを減らす上乗せ効果が期待できる.31mm以上のUL(-)例における内視鏡の陽性的中率,陰性的中率,感度,特異度,正診率は,いずれも30mm以下を下まわっていたが,X線検査によって上乗せ効果が得られた.20mm以下でUL(-)の未分化型癌においては,内視鏡による診断能が高く,X線検査による上乗せ効果はみられなかった.X線圧迫像を用いることができない胃上部の病変において,EUSは有用であった.【結論】ESDの適応外病変に対する過剰なESDを避けるために,内視鏡での深達度診断が困難な大きな病変に対するX線検査は有用である.また,UL(+)例において,内視鏡やEUSでの深読みを補正し,過剰な外科手術を避けるためにもX線検査は有用である.ESD時代においても,内視鏡,X線検査,EUSを病変に応じて相補的に用いることにより,治療方針を決定するために過不足のない情報を得ることが重要である.

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要旨 当院でESD,手術が行われた早期胃癌304例に対して,通常色素内視鏡による深達度診断を肉眼型別に大きさを中心に検討した.肉眼型ごとに深達度別の病変の大きさをみると,ESDを施行した0-IIc型病変でSM2癌がM~SM1癌より有意に大きく,ESD症例に手術症例も含めた0-IIc型,UL(-)でSM2癌が有意に大きかった(p<0.05).UL(-),0-IIc型病変では深達度を推測するのに大きさも参考になる可能性がある.絶対適応病変と判断しESDを施行した病変の4.3%に,適応拡大病変とした分化型腺癌の約6~7%に,それぞれSM2癌を認めた.ESD適応,適応拡大病変か否かを判断する際に注目するのは大きさ,肉眼型が基本であるが,それに加えてSM2癌に特徴的な所見にも注目した観察が必要である.

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要旨 内視鏡的,あるいは外科的に切除された早期胃癌547病変(分化型癌/未分化型癌=444病変/103病変,M~SM1癌/SM2癌=485病変/62病変)の通常および色素内視鏡による深達度診断能を組織型別に検討した.分化型癌と未分化型癌において,深達度を正しく診断できた割合はそれぞれ90.1%,71.8%であった.分化型癌では浅読みが多く,深達度を迷う病変に対して診断的にESDを行っている背景が影響していると考えられた.未分化型癌は,分化型癌と比較して有意にUL(+)の割合が高く,炎症や浮腫による粘膜下腫瘍様隆起,潰瘍瘢痕による線維化をSM深部浸潤所見と誤診する深読みが多いと考えられた.

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要旨 生検結果が分化型癌・内視鏡的UL(-)の早期胃癌病変において,EUSでcT1a(EUS-MあるいはEUS-M/SM境界領域,すなわち第3層の変化がないか,あっても深さ1mm未満)であることは,内視鏡的切除の結果が絶対適応,あるいは適応拡大の範囲内であることを,9割以上の確率で推定していた.誤りの要因の多くは,未分化型混在癌の存在であった.UL(+)病変の深達度診断については,現時点ではEUSの有用性を確認できなかった.未分化型癌病変におけるEUSでの確実な粘膜内病変の同定には課題が残っている.

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要旨 早期胃癌に対するESDの適応は拡大されつつあり,深達度SM1の病変や,ULを伴う病変でも条件を満たせば適応拡大病変とされる.しかし,SM1を内視鏡的に診断することは困難であり,臨床的にはM~SM1かSM2以深かの鑑別が求められる.深達度診断は,相関関係に基づく所見(癌の局在,組織型や肉眼型,大きさによるSM浸潤頻度),SM浸潤による直接所見を拾い上げることにより行われる.典型的なSM2癌や,深達度診断が困難な症例を提示し,診断の実際を述べる.

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要旨 陥凹型未分化型早期胃癌を対象に,NBI(narrow band imaging)拡大観察によって確認できる,通常毛細血管より太さが2倍以上であるCV(caliber variation)のSM癌診断に関する有用性を検討した.検討症例は,NBI観察による画像解析が可能であった手術症例77例(M癌38例,SM癌39例)およびESD症例136例(M癌116例,SM癌20例)である.通常観察でSMと確診できる所見が得られた症例は手術例22/39(56%),ESD例5/20(25%)であった.CVがレトロスペクティブな画像の検討で確認できた症例は,手術例ではM癌5/38(13%),SM癌29/39(74%),ESD例ではM癌13/116(11%),SM癌16/20(80%)であった.NBI観察でCVが確認されたSM癌11例を対象にICG静注後に赤外線拡大内視鏡を用い,CVにpooling像があるかを確認し,腫瘍血管か否かを検討した.6/11(55%)にpoolingが確認できた.正常胃粘膜においては粘膜表層にはSMA(smooth muscle actin)陽性血管は出現しないが,IRIで検討したCV陽性例11例では全例粘膜表層にSMA陽性血管がみられた.CV陽性例の55%にICGでpoolingが確認でき,これらについては腫瘍血管であることが証明できた.CV観察はSM癌の診断に有用な所見の一つであると考えられた.M癌におけるCVの出現率は低く,SM癌診断の決め手となる一つの客観的指標とできる可能性がある.

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要旨 NBI拡大内視鏡観察でwhite zoneから成る粘膜模様の高度不鮮明化(blurry mucosal pattern ; BMP)と断裂などを伴った網目状血管(irregular mesh pattern ; IMP)をSM 500μm以深浸潤癌(SM群)の画像と仮定し,粘膜内癌またはSM 500μm未満浸潤癌(M群)に比べて有意に高頻度で観察されるか否か114例のESD症例で前向きに検討した.その結果,BMPもIMPも有意にSM群に高頻度に観察された.BMPはM群のうち,粘膜全層を癌が置換した病変にも観察された.IMPは全例tub2癌であり,SM群の画像というよりtub2癌に特有の画像と考えられた.

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要旨 患者は70歳代,男性.スクリーニングの上部消化管内視鏡検査を近医で施行したところ,胃体上部に早期胃癌を指摘され,精査加療目的で当センターへ紹介され受診となった.当センターでの上部消化管内視鏡検査では胃体上部大彎後壁に20mm大の0-IIa型病変を認めた.隆起の頂部は発赤陥凹し,陥凹内の口側に5mm大の不整形の結節隆起を伴っていた.NBI併用拡大観察では,同部の表面構造は無構造となっていた.また,径が太く,不整な樹枝状の血管も認め,同部位でSM浸潤を疑った.外科手術を勧めたが,内視鏡治療を強く希望され,ESDを施行した.病理所見はほとんどが粘膜固有層内にとどまっていたが,一段高い隆起部分の下部で粘膜下層にわずかに浸潤していた.病理診断は,well to moderately differentiated tubular adenocarcinoma,Type 0-IIa,23×19mm,tub1>tub2,pT1b(SM 300μm),UL(-),ly(-),v(-),pHM0,pVM0で適応拡大病変の治癒切除であった.

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要旨 早期胃癌に対するESDが一般化し,その適応も拡大されつつある.これに伴い,より厳密な内視鏡による範囲診断,深達度診断がより重要となっている.今回,表層が低異型度分化型胃癌で覆われ,粘膜深層とSM浸潤部が低分化腺癌であり,深達度診断に苦慮した症例を経験したので報告する.患者は70歳代,男性.上部消化管内視鏡検査にて,胃角部小彎を中心とした径50mm大で顆粒・結節集簇様の扁平隆起性病変を認め,通常内視鏡観察,EUSともに明らかなSM深部浸潤の所見が得られなかったため,深達度T1aと診断し,ESDを施行した.病理組織学的には,粘膜深部から粘膜下層で低分化腺癌へ移行する粘膜下層深部浸潤癌であった.

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要旨 患者は70歳代,男性.他院のスクリーニング上部内視鏡検査にて異常の指摘を受け,当科へ紹介され,受診となった.上部消化管X線造影および内視鏡検査にて,胃体上部後壁大彎に中心陥凹を伴う粘膜下腫瘍様病変が認められ,2度目の生検にて乳頭腺癌と診断された.超音波内視鏡検査でSM浸潤癌と診断し,噴門側胃切除術を施行した.切除標本で隆起病変の大きさは15×15mm,中心部には明瞭な陥凹を認めた.最終的な病理組織学的所見は,pap,M,ly0,v0,n0であった.粘膜筋板が偽憩室様に粘膜下層へ内反・菲薄化した形態を呈しながら,腫瘍を取り囲むように確認された.その発育進展形式は示唆に富む症例であると考えられたので,ここに報告する.

早期胃癌研究会

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 2013年7月の早期胃癌研究会は2013年7月19日(金)にグランドプリンスホテル新高輪で開催された.司会は,入口陽介(東京都がん検診センター消化器内科),蔵原晃一(松山赤十字病院胃腸センター),病理は伴 慎一(済生会川口総合病院病理診断科)が担当した.また,画像診断教育レクチャーは,清水誠治(大阪鉄道病院消化器内科)が「消化管疾患 : 診断と鑑別の進め方」および「大腸潰瘍性病変の診断と鑑別」と題して行った.

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欧文目次

早期胃癌研究会 症例募集
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早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

「今月の症例」症例募集
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 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

第20回「白壁賞」論文募集
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 「胃と腸」編集委員会では,故白壁彦夫先生の偉業を讃え,「白壁賞」を設け,優秀な研究・論文を顕彰しております.今回は「白壁賞」の論文を下記の要領で公募いたしますので,奮ってご応募ください.英文誌に発表された消化管の形態・診断学に関する論文が応募の対象となります.

学会・研究会ご案内

投稿規定

編集後記 長浜 隆司
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 本号の主題である「ESD時代の早期胃癌深達度診断」を仙台厚生病院の長南,順天堂大学の八尾,早期胃癌検診協会の長浜の3名で企画した.近年,早期胃癌の多くがESD(endoscopic submucosal dissection)で治療される時代になり,より一層深達度診断が重要になる中で,IEE(image enhanced endoscopy)などの新しいモダリティーを含め,現状の深達度診断の精度と限界および診断困難な病変がどのようなものなのかを明らかにすべく,本号が組まれた.

 本号では,まず病理の立場から伴が切除標本のマクロ像からみた深達度診断を既知の早期胃癌の粘膜下浸潤の肉眼所見と組織学的所見を対応させ,明瞭に解説した.島岡は内視鏡,X線,EUS(endoscopic ultrasonography)によるそれぞれの診断能を検討し,X線検査を用いることによって診断の上乗せ効果があることを報告した.ESD時代におけるX線の役割を明確に示し,内視鏡,X線,EUSを病変に応じて相補的に用いることにより,過不足のない情報を得ることが重要であることを強調している.通常・色素内視鏡による深達度診断として,丸山は大きさ・肉眼型別検討を中心に解説し,ESD適応や,適応拡大病変か否かを判断する際に注目するのは大きさ,肉眼型が基本であり,それに加えてSM2癌に特徴的な所見にも注目した観察が必要であるとした.阿部は深達度診断能を組織型別に検討し,分化型癌と未分化型癌において,その正診率はそれぞれ90.1%と71.8%であったと報告した.また,炎症や浮腫による粘膜下腫瘍様隆起,潰瘍瘢痕による線維化を深読みする誤診が多いことから,深達度診断能はいまだ十分とはいえず,今後さらなる検討の余地があると述べた.柳井はEUSによる検討を行い,EUSで第3層の変化がないか,あっても深さ1mm未満である所見をもってM~SM1癌正診率は96.6%と報告し,誤りの要因の多くは未分化型混在癌の存在で,UL(+)病変の深達度診断についてはEUSの有用性を確認できなかったと述べている.佐藤は症例を中心に典型的なSM2癌や,深達度診断が困難な症例を提示し,深達度診断の実際を述べた.

次号予告

基本情報

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胃と腸
49巻1号 (2014年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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