胃と腸 41巻6号 (2006年5月)

今月の主題 非定型的炎症性腸疾患―診断と経過

序説

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indeterminate colitisの概念

 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; UC)とCrohn病(Crohn's disease ; CD)は,その臨床的,形態学的(内視鏡,X線所見),病理学的特徴と類縁疾患を除外することにより総合的に診断される.典型例においては,確診に際して困難を感じることはほとんどなく,それぞれ独立した疾患単位として扱われている.しかしながら,非典型例では鑑別が困難なこともあり,またともに病因が不明で,特徴的所見が一部overlapすることもあり,炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD)と総称されることもある.

 Priceらは,激症型の大腸炎で手術された症例の標本を肉眼的,組織学的に検討し,UCとCDの特徴的所見を併せ持った鑑別困難例を仮の診断としてindeterminate colitis(IC ; “分類不能大腸炎”)の名称で初めて報告した1)

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要旨 IBD(UC,CD)と鑑別を要する主な炎症性疾患についてその鑑別点を述べる.腸結核では輪状傾向の潰瘍,瘢痕萎縮帯,大型で融合性の非乾酪性肉芽腫を認める(CDとの鑑別).アメーバ性大腸炎では潰瘍のタコイボ様形状や介在粘膜の血管透見像を認める(UCとの鑑別).キャンピロバクター腸炎ではBauhin弁上の潰瘍を高率に認める(UCとの鑑別).サルモネラ腸炎では直腸が健常である場合が多い(UCとの鑑別).エルシニア腸炎では通常,縦走潰瘍の形成はない(CDとの鑑別).腸管出血性大腸菌腸炎では腺管の融解や変性壊死を高率に認める(UCとの鑑別).虚血性大腸炎では敷石像はなく(CDとの鑑別),直腸の病変はまれ(UCとの鑑別).抗生剤起因性の出血性大腸炎では病変の主座は横行結腸(UCとの鑑別).NSAIDs腸炎では軽微な病変が多く,縦走潰瘍は少ない(CDとの鑑別).

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要旨 indeterminate colitis(以下,IND)は,通常,Crohn病(以下,CD)と潰瘍性大腸炎(以下,UC)の鑑別診断困難例とされる.今回,その定義,頻度,臨床経過について検討した.INDの定義は以下の3条件に合致する例とした.①UC or CD(狭義のIND) : 初回診断時に,UCかCDかの確診が困難であった症例,②UC on CD : CDの経過中にUCの病像がoverlapする症例,③CD on UC : UCの経過中にCDの病像がoverlapする症例.この定義に該当する35例を対象とし,炎症性腸疾患(以下,IBD)患者に対する頻度,115.9±82.7か月の観察期間における臨床経過,特に,UC or CD 29症例の診断確定の有無および内容について解析した.当科における全IBD患者829例(CD 516例,UC 313例)に占める INDの頻度は,4.2%(35/829)であった.UC or CD 29症例のうち,経過中に,確定診断した症例は23例(79.3%)で,最終診断の内訳は,CD 14例(60.9%),UC 9例(39.1%)だった.累積診断確定率は,3年で37.9%,5年で56.7%,8年で75.4%と算定された.最終診断UCの診断根拠は,典型的UCへ進展したものが6例(66.7%),切除標本の病理学的所見が2例(22.2%)であった.CDでは,granulomaの検出が4例(28.6%),典型的CDに進展したものが4例(28.6%),典型的な病変に進展し,かつgranulomaも認めたものが3例(21.4%),切除標本の病理学的所見が3例(21.4%),であった.本邦において,INDの定義は,いまだ明確ではない.しかし,今回の検討では,初回診断困難例も約80% は,経過中に確定診断に至っており,INDは,単一の疾患ではなく,一時的な仮の診断として位置づけることが妥当であると考えられた.

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要旨 炎症性腸疾患(IBD)の中で潰瘍性大腸炎(UC)とCrohn病(CD)の鑑別が困難な症例はindeterminate colitis(IC)として扱われることが多い.CDの病理組織診断においては類上皮細胞肉芽腫が特異度も高く最も重要な所見とされる.しかしUCでも陰窩に関連する肉芽腫性病変を認めることがありその鑑別が必要となる.われわれのUC手術例の検討では,20例中15例(75%)に陰窩関連の肉芽腫性病変が粘膜固有層に認められ,CDの類上皮細胞肉芽腫との鑑別に難渋する病変もみられた.一方UCあるいはICの臨床診断で類上皮細胞肉芽腫が検出されCDと確定診断された10例の検討では,初回診断時のX線・内視鏡像は全例でUC様の腸炎像が全結腸あるいは左側結腸にみられたが,生検の組織像は巣状の炎症細胞浸潤像を呈するものが多く,手術材料ではリンパ球集簇を主とする全層性炎症と類上皮細胞肉芽腫が確認された.CDとUCの組織診断を行う際には,類上皮細胞肉芽腫の検出およびそれと陰窩関連肉芽腫性病変の鑑別が最も大切であるということを念頭に入れながら,臨床所見,X線・内視鏡像等を加味した総合的診断を行うことが肝要であると結論した.

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要旨 当院のCrohn病(以下CD)311例中潰瘍性大腸炎に類似した所見(UC類似病変)を合併した非定型例は6例(1.9%)であった.UC類似病変が初回検査時に認められた症例は4例(67%)で,経過中に出現してきた症例は2例(33%)であり,CD発症後7年と9年であった.直腸にUC類似病変を認めたものは3例(50%)であり,病変が非連続性で区域性であったのは2例(33%)であった.UC類似病変がCD典型例へ進展したのは2例(33%)で,UC類似病変出現後3年と8年であった.CDのUC類似病変合併例の診断には肛門部病変や小腸病変の有無と,病変部以外の部位からも非乾酪壊死性類上皮細胞肉芽腫の検出を試みることが重要であるが,長期にわたる経過観察中に典型的な所見を呈してきて診断がつくことも多い.

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要旨 典型的所見を呈さない非定型的Crohn病(CD)として,初期病変のみから成るCD 12例および潰瘍性大腸炎(UC)として経過観察中にCDと診断された6例を検討した.アフタのみから成る非定型CDのうち3例で小腸,3例で大腸病変が典型病変に進展した.進展例,非進展例で臨床背景,治療内容に差はなかった.進展例においても手術例はなく長期予後は良好であった.びまん性病変を呈し潰瘍性大腸炎と診断されていた非定型CD例のうち,全大腸型右側優位とされていた3例はいずれも肉芽腫検出により診断された.左側大腸炎型の症例は見直し診断によってもUCとしか診断しえなかった.うち1例は難治性型として手術後の標本に肉芽腫が確認された症例であり,他の2例はUC類似の所見消失後に典型病変が出現した症例であった.びまん性病変などすべての病像をCDで説明しうるのか,UCとCDの合併例として扱うかなど,今後さらに症例を集積して分析,検討すべきと考えられた.

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要旨 炎症性腸疾患患者の大腸病変を遡及的に検討し,罹患範囲と併存病変から非定型的潰瘍性大腸炎と考えられる症例を抽出した.直腸と盲腸に限局した高度非連続性大腸炎(2例),一時点で肛門側の境界が明瞭であった区域性大腸炎(6例),連続性病変の口側に多発潰瘍を伴った潰瘍混在型大腸炎(3例),深部大腸ないし小腸Crohn病の経過中に出現したCrohn病合併大腸炎(2例),および円形ないし不整形潰瘍とアフタが多発する分類不能大腸炎(3例)が抽出された.高度非連続性大腸炎は大腸切除に至り,区域性大腸炎では1例が全大腸炎型に,2例がCrohn病に進展した.潰瘍混在型とCrohn病合併大腸炎は潰瘍性大腸炎に合致する罹患部位が難治性ないし再発性に経過した.一方,分類不能大腸炎は腸管外徴候を呈しながら慢性ないし再発性に経過し1例はCrohn病に進展した.以上のように,潰瘍性大腸炎の要素をもつindeterminate colitisの多様性が示唆された.

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要旨 Crohn病を感染症と誤診した場合に比べて,その逆の場合は重大な帰結をもたらす.Crohn病と鑑別を要する感染性腸炎として代表的なものは,腸結核,アメーバ性大腸炎,エルシニア腸炎である.特に腸結核とアメーバ性大腸炎は慢性経過を辿り診断に迷うことがある.Crohn病の典型像である縦走潰瘍や敷石像を呈する感染症は極めてまれであり,感染性腸炎とCrohn病の鑑別が問題となるのはCrohn病としては非定型的なアフタや方向性不明の多発性潰瘍がみられる場合がほとんどである.感染症を疑っていても病原体が証明できない場合に安易にCrohn病と診断してしまわないよう注意が必要である.

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要旨 潰瘍性大腸炎と間違いやすい感染性腸炎としてカンピロバクター腸炎,サルモネラ腸炎,アメーバ性大腸炎について述べた.ほとんどが内視鏡的に鑑別可能であるが,カンピロバクター腸炎では鑑別が難しい例もみられる.潰瘍性大腸炎の経過中に発症したカンピロバクター腸炎・サルモネラ腸炎についても述べた.潰瘍性大腸炎と誤診しないためにはこれらの感染性腸炎の内視鏡像および潰瘍性大腸炎の内視鏡像に精通していることが重要である.細菌性腸炎との鑑別では必ず便培養を行うことが重要である.アメーバ性大腸炎との鑑別では,内視鏡像でアメーバの可能性を考えること,診断は生検のみに頼らず血清アメーバ抗体などを併用することが重要である.

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要旨 症例は60歳,男性.腹痛を主訴に当院へ入院した.急性膵炎の診断にて入院加療を行った.入院後,粘液,血液を混じる下痢が出現した.大腸内視鏡検査にて全大腸炎型の潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis ; 以下UC)と診断した.UCおよびUCに合併した急性膵炎と診断し,ステロイドの投与を行い症状は軽快した.患者は以前より軟便傾向であり定期的に大腸内視鏡検査が施行されていたが,大腸内に散在するアフタのみの所見であった.急性膵炎の発症を契機に約3年半の経過でアフタから典型的な潰瘍性大腸炎へと進展した症例を経験したので,内視鏡像の経過を中心に報告する.

早期胃癌研究会

2006年1月の例会から 長南 明道
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 2006年1月の早期胃癌研究会は1月18日(水)に東商ホールで開催された.司会は長南明道(仙台厚生病院消化器内視鏡センター)が担当した.早期胃癌研究会の主催者を代表して,財団法人早期胃癌検診協会の丸山雅一理事長より新春の挨拶があり,引き続き3例の症例検討が行われた.

 〔第1例〕 70歳代,男性.巨大食道ポリープの1例(症例提供 : 東京医科大学霞ヶ浦病院第5内科 伊藤真典).

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 2006年2月の早期胃癌研究会は,2月15日(水)に東商ホールで開催された.司会は今村哲理(札幌厚生病院胃腸科)と清水誠治(大阪鉄道病院消化器内科)が担当した.ミニレクチャーは折居正之(岩手医科大学第1内科)が「EUS-FNAによるGISTの診断」と題して行った.

 〔第1例〕 50歳代,女性.下行結腸に発生したpyogenic granuloma(症例提供 : 自衛隊中央病院消化器内科 中屋照雄).

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要旨 消化管発生例がまれな食道pyogenic granulomaの1例を経験したので報告する.症例は69歳男性,主訴は嚥下時のつかえ感.上部消化管内視鏡検査にて,胸部上部食道に白苔を伴う有茎性ポリープを認めた.白苔を可及的に除去したところ,血管腫が疑われたため,治療および全生検目的にpolypectomyを施行した.病理組織学的には表層に炎症細胞浸潤を伴う毛細血管内皮細胞の腫瘍性病変でpyogenic granulomaと診断した.本疾患の食道発生例は13例で,白苔を伴う有茎または亜有茎性ポリープが形態的特徴であった.悪性疾患との鑑別も必要であるが,後天性の血管腫であり,出血に注意すべき疾患である.

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欧文目次

編集後記 平田 一郎
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 「炎症性腸疾患」と言えば“腸の炎症性疾患全般"を指すのか,それとも欧米で IBD(inflammatory bowel disease)と総称される“潰瘍性大腸炎と Crohn 病"のみを指すのか 2 通りの解釈がある.編集小委員会でも若干議論されたが,通常は後者の見解が多いので本号でもそのように解釈することとした.

 企画を進めていくうちにいろいろな難しさに直面した.まず,本当の意味での非定型例であるindeterminate colitis(IND)例が思ったよりはるかに少なく,執筆を引き受けていただく執筆者を捜すのに苦労する局面が少なからずあった.欧米に比し画像診断や病理診断が緻密に行われている本邦での特殊な事情によるのかもしれない.したがって,狭義の IND に限らず非定型的所見を呈する広義の症例も含めて執筆をお願いしたが,IBD と鑑別困難であった腸型 Behcet 病に関しては結局執筆者が見つからなかった.

基本情報

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胃と腸
41巻6号 (2006年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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