胃と腸 40巻2号 (2005年2月)

今月の主題 大腸カルチノイド腫瘍 転移例と非転移例の比較を中心に

序説

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カルチノイドという用語は,1907年Oberndorferによって命名されたもので,当初は病理組織学的に癌腫に類似するが生物学的悪性度が低い腫瘍と考えられていた.その後,良・悪性について種々論議された時期を経て,現在では原腸系臓器に広く分布するアミン・ペプタイド産生内分泌細胞から成る上皮性腫瘍で,悪性度の低い癌の一種との概念が確立している.そして,消化管内分泌細胞腫瘍は,低異型で悪性度の低い通常のカルチノイド腫瘍(古典的カルチノイド腫瘍)と,急速な発育と転移を来し予後不良な内分泌細胞癌とに大別されるが,消化管(あるいは大腸)カルチノイド腫瘍と呼ばれる病変は当然前者に該当するもののみを指し,後者は含まない.

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要旨 直腸カルチノイドをA群(転移群:12症例12病変)とB群(非転移群:14症例15病変)に分け,臨床病理学的立場から比較検討した.A群に大腫瘍径,中心陥凹・潰瘍形成,深い深達度,脈管侵襲陽性,多い核分裂像,高いKi-67labelingindex(L.I.),p53陽性細胞出現のものが有意に多かった.組織型はA群B群ともに曽我分類のB型と混合型(A+B型)が約80%を占めており両群間に明確な差はなかった.以上の結果から,本腫瘍の悪性度の指標としては,腫瘍径(1cm以上),深達度,中心陥凹・潰瘍形成,核分裂像(>2個/10HPF),脈管侵襲,およびKi-67L.I.(>2%)が有用であることを指摘した.そして,これらの因子の多変量解析の結果,独立かつ有意な因子は腫瘍径のみであることが判明したので本腫瘍の最も重要な悪性度の指標は腫瘍径であると結論した.

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要旨 多施設から集計した直腸カルチノイド114例(119病変)を,転移例(7例7病変)と非転移例(107例112病変)に分け,臨床像,X線,内視鏡および超音波内視鏡(EUS)所見を比較検討した.転移の可能性の指標は大きさ10mm以上,中心陥凹(潰瘍),深達度mp以深であった.転移例と非転移例の画像所見の比較では,内視鏡は陥凹の有無以外に差はみられなかったが,1病変を除き病変は良好に観察できていた.X線は内視鏡に比べ微小な病変(5mm未満)や浅い陥凹では描出困難なものがみられ,側面変形の出現率も低率であったがmp以深の3病変はすべて変形を伴っていた.一方,EUSでは転移例は不均一なエコーパターンを呈する病変が多く,深達度診断(smとmp以深の鑑別)では1例を除き正診されていた.直腸カルチノイドの質的診断では,内視鏡による大きさの推測や陥凹の有無を観察し,EUSにてより正確な腫瘍径と深達度診断を行い,悪性度の指標が認められればX線検査を追加することが有用と考えられた.

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要旨 リンパ節や肝臓にカルチノイド腫瘍は高率に転移する.リンパ節転移は通常の癌に比べ,均一によく造影される.大きさが1cm未満と小さい場合でも造影効果を認める場合には転移が疑われる.またMRI検査T2強調画像では,通常の癌の転移と異なり低信号を示すことがある.腸間膜に放射状線状影を伴う腫瘤を呈することもあり,その場合には周囲腸管の肥厚を伴う.肝転移は通常富血管性であるため,造影前CT検査やMRI検査に加え,造影剤投与後早期の動脈相が必須である.また乏血管性の転移の診断や鑑別診断のためには造影剤投与後時間の経過した遅延相が必要である.

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要旨 大腸カルチノイド48症例49病変を対象とし,転移に関する臨床病理学的因子,治療内容とフォローアップ成績などを検討した.腫瘍径別では,転移は10mm未満の病変に認めず10mm以上の病変で認め,その転移率はリンパ節40.0%,肝22.2%であった.深達度別では,転移はsm病変では認めずmp以深の病変で認めその転移率はリンパ節,肝とも66.7%であった.陥凹所見出現率は転移例で50%,非転移例で8.5%であった.脈管侵襲率は転移例で100%,非転移例で18.6%であった.Ki-67陽性率(陽性細胞10個以上/10HPF)は転移例で100%,非転移例では18.5%であった.今回の症例の平均経過観察期間は37.8±22.2か月(13~111か月)で,原病死した2例(いずれも転移例で手術例)を除けば,他は局所遺残・局所再発・転移などを1例も認めていない.また,文献検索による10mm以下の転移例は大半がsm病変で中心陥凹や脈管侵襲を高頻度(70%以上)に認めた.自験例と過去の論文報告の成績を勘案すると,直腸カルチノイドの治療方針は“腫瘍径10mm以下,深達度sm,脈管侵襲のない病変に対してはEMRなどの局所切除を行う(ただし,中心陥凹のある病変は適応を慎重にする),それ以外の病変は原則的に根治的外科切除を行う”ことであると考えられた.

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要旨 転移陽性カルチノイドの特徴について検討し,大腸カルチノイドの外科的な治療方針を作成した.大きさ10mm以下の病変では内視鏡的摘除術や局所切除術の適応である.組織学的検索を行い,smまでの浸潤であること,核分裂像や脈管侵襲がないことを確認する.これらが満たされていない場合はリンパ節郭清を併用した根治手術を考慮する.大きさ10~20mmの病変は,結腸やRs,Raであれば腹腔鏡(補助)下手術を行う.病変がRbや肛門管に位置する場合,局所切除で経過観察とするか根治術(人工肛門作製)を行うかの選択は慎重に判断する.大きさが20mm以上の病変やmp以深に浸潤したカルチノイドに対しては,根治術を行う.カルチノイドには癌との合併が多いとされ,特に大腸癌,胃癌の精査は治療前に行う.

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要旨 大腸カルチノイド腫瘍の治療方針を明らかにする目的で大腸カルチノイド腫瘍の臨床病理学的所見に関するアンケート調査を行い,全国31施設から集められた大腸カルチノイド腫瘍648例,648病変について集計した.大きさ6mm以下の大腸カルチノイド腫瘍345病変に転移例はみられず,6mm以下の病変は内視鏡治療の絶対適応病変と考えられた.7~10mmの病変213病変については治療前にEUSを施行し,深達度smでsm浸潤距離が4,000μm未満の病変については内視鏡治療を行う.深達度smでsm浸潤距離4,000μm以上の病変については,EMRを行った後に手術標本で脈管侵襲の有無を確認し,表面性状が結節状,びらん・潰瘍の有無も参考にして追加外科手術の是非を決定する.大きさ11mm以上の88病変に対する治療は原則としてリンパ節郭清を伴う外科手術であるが,11~15mmの病変については深達度smでsm浸潤距離が4,000μm未満の病変(大きさ11~15mmの約1/3程度の病変と考えられる)に限り初回治療としてEMRを行い,術後標本の脈管侵襲の有無により追加外科切除の決定が可能と考えられた.

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要旨 症例は58歳,女性.便秘を主訴に近医を受診し,S状結腸内視鏡検査で直腸に隆起性病変を指摘され当院に紹介となった.注腸X線検査で直腸に表面に小陥凹を伴う1cm大の粘膜下腫瘍を認めた.大腸内視鏡検査で,同病変は表面平滑で黄色調を呈する粘膜下腫瘍であった.内視鏡的粘膜切除術を施行し,病理学的に深達度smの古典的カルチノイドと診断された.また,腹部超音波検査で肝S3に1cm大の低エコー域を,S5に1cm大の高エコー域を認めた.肝嚢胞および肝血管腫を疑い経過観察していたが,約3年後に肝結節は増大,増加したため外科的切除を施行した.病理学的にカルチノイドと診断され,直腸カルチノイドの多発肝転移と考えられた.

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要旨 患者は52歳男性,下腹部痛を主訴に受診,下部消化管内視鏡検査にて肛門縁より20cmのS状結腸に8mm大の隆起性病変を指摘され内視鏡的切除が施行された.組織学的には均一小型の上皮性細胞の索状~小腺管様増殖から成る腫瘍であり,組織化学的にほとんどすべての腫瘍細胞が細胞質内銀還元性顆粒を有することから銀還元性カルチノイドと診断された.本邦における大腸カルチノイドの大半は直腸に存在し結腸の報告は少ない.さらに従来胎生学的分類による後腸系カルチノイドは銀還元性を示すことは少ないとされる.本症例はS状結腸に発生し,かつ銀還元性カルチノイドであったので大変まれな症例と考え報告した.

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〔患 者〕 89歳,女性.2002年5月ごろから排便困難を自覚.8月からは排便時に腫瘤が脱出し,用手的に還納していた.10月当センター外来を受診.直腸診で直腸下端左壁中心に半周性の弾性硬の結節状隆起性病変を触知した.

早期胃癌研究会

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2004年10月の早期胃癌研究会は,10月27日(水)に東商ホールで開催された.司会は折居正之(岩手医科大学第1内科)と芳野純治(藤田保健衛生大学第二教育病院内科)が担当した.mini lectureでは,第10回白壁賞受賞者の井上晴洋(昭和大学横浜市北部病院消化器センター)と岩下明徳(福岡大学筑紫病院病理)が受賞論文の概要を解説した.

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背 景

 現在,大腸癌の発癌経路としては多くの遺伝子異常の蓄積を伴って腺腫から大腸癌が発生するというadenoma-carcinoma sequenceが一般的であり,内視鏡的ポリペクトミーなど,日常診療にこの考え方が取り込まれている1).一方1985年にMutoらは通常のポリープとは異なった平坦な形態の表面型大腸腫瘍の存在を報告した2).この表面型大腸腫瘍は癌の頻度が高く,大きさの小さなうちから粘膜下層へ浸潤することから既存の概念とは異なった新しい大腸癌の発育進展経路が示唆されるようになった.この表面型大腸腫瘍は日本においては広く受け入れられている概念であり,その発見は一般的となっており3),旭川医科大学第3内科(日本)では全大腸腫瘍における表面型腫瘍の割合は21.3%(851/3,992)である4)5).一方,欧米諸国の中でヨーロッパではこの表面型大腸腫瘍の概念は認められつつあり,その報告も増加している6).スウェーデンから報告された表面型大腸腫瘍の頻度は24%であり,日本との差は認めない7).一方,アメリカにおいては“表面型大腸腫瘍はアメリカでは極めてまれか,存在していても臨床的重要性は乏しい.癌の頻度については日本と欧米の病理診断基準が異なっているからであり8),アメリカで行ったnationalpolypstudyの結果から考えても9),表面型病変は少なくともアメリカでは大腸癌死亡には寄与していない”との見方がなされている10)11)

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要旨 82歳,男性.主訴はなし.触診にて右下腹部に腫瘤を認めたため入院した.注腸X線では上行結腸内側に7cmに及ぶ陰影欠損像と伸展不良,多数のひだ集中を認めた.内視鏡では頂部に白苔を有し,周囲粘膜は健常な隆起性病変を認めた.EUSでは腫瘍は筋層と連続性を有し,ダンベル型の形態を呈していた.画像検査からは粘膜下腫瘍を疑ったが,白苔部からの生検により腺癌の診断を得た.粘膜下腫瘍様の形態を呈した進行結腸癌と診断し手術を施行した.結果は,上行結腸癌,5型(粘膜下腫瘤型),7cm大,粘液癌を一部に有する低分化癌,深達度はsi,ly1,v1,n0であった.

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要旨 便秘を主訴に受診した35歳女性で,特異な形態を示した腸管子宮内膜症を経験した.大腸内視鏡検査で,S状結腸に半周性のなだらかな立ち上がりの粘膜下隆起による狭窄が存在し,その上に発赤し,光沢のある,軽度浮腫状の乳頭状を呈した隆起の集簇を認めた.注腸X線検査では狭窄の立ち上がりがなだらかで,粘膜下腫瘍様形態を呈することが明らかとなった.腸管子宮内膜症を疑ったが,狭窄が強く,診断的治療もかねて腹腔鏡下結腸切除術を施行した.摘出されたS状結腸には約2cmの幅で,浮腫状で,境界不明瞭な輪状の狭窄が存在し,粘膜面には発赤した2~5mmほどの乳頭状隆起の集簇が存在した.病理組織学的に粘膜固有層から粘膜下層,固有筋層に子宮内膜組織が侵入しており,腸管子宮内膜症と診断された.腸管子宮内膜症は,本例のように子宮内膜組織が腸管粘膜内に存在すると,上皮性腫瘍様形態を呈する場合があり注意を要する.

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要旨 症例は85歳,女性.嘔吐・便秘の精査目的のため,大腸内視鏡検査を施行したところ,上行結腸より回腸末端まで側方発育した結節集簇様病変(表層拡大型腫瘍)を認めた.肉眼形態は結節状+絨毛状型を示し,結節は比較的均一でpit patternはIIIL型~IV型であった.腺腫内癌を強く疑い,腹腔鏡補助下右半結腸切除術を施行した.切除標本では腫瘍は上行結腸・盲腸・回腸末端に及ぶ大きさ11×11cmの結節集簇様病変で,病理組織学的には,ほとんどが高分化腺癌で腺管絨毛腺腫も混在しており,TypeIIa+I,carcinoma with tubulovillous adenoma,m,ly0,v0,n0と診断した.回腸末端まで進展した結節集簇様病変(表層拡大型腫瘍)の本邦における文献的報告はなく,臨床病理学的考察を加えて報告する.

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要旨 63歳,女性.潰瘍性大腸炎発症後2年で全大腸型へと進展し,SalazopyrinとPredonine内服と水溶性Predonine注腸療法を行い,緩解増悪を繰り返してきた.右側結腸の活動性は低下してきたが,S状結腸は伸展不良となり鉛管状を呈し炎症性ポリープを認めるようになった.発症15年目,S状結腸にIIc+IIa様病変を認め生検で癌が検出され,左側結腸切除が施行された.切除大腸の組織学的検索で,IIc+IIa様病変は低分化腺癌主体の深達度mpの進行癌であり,他の部位には癌・dysplasiaは認めなかった.手術2年前の注腸X線写真を再検討すると同部位にごく軽度の伸展不良を認め,この癌の初期像が描出されているものと考えられた.

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要旨 患者は,81歳,男性.早期胃癌に対して幽門側胃切除術を施行して以来,定期観察中であった.約2年ぶりに下部消化管内視鏡検査(CF)を行ったところ,回盲弁上唇にIIa+IIc様病変が認められた.バリウム注腸X線検査では,回盲弁上唇に不整形の淡いバリウム斑がみられた.生検結果では腺腫だったが,悪性を否定できず,手術を行った.術中内視鏡にて病変の全体像を確認し,回盲弁上唇に発生した早期癌,IIa+IIc,深達度sm以深,と考え,第2群リンパ節郭清を伴う回盲部切除を施行した.その結果,深達度はmにとどまる高分化型腺癌だった.回盲弁から発生した表面陥凹型早期癌の報告例はなく,極めてまれと思われた.

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要旨 患者は43歳男性で,下痢と心窩部痛を主訴とした.胃X線検査では胃角部から前庭部にかけてびまん性に微小潰瘍を認め,辺縁像ではカラーボタンサインを呈した.胃内視鏡検査では同部に小潰瘍の多発を認めた.病理組織学的には上皮のびらんと粘膜固有層へ高度のびまん性炎症細胞浸潤を認め,多数の腺窩内膿瘍を伴っていた.また活動期の潰瘍性大腸炎と原発性硬化性胆管炎の合併を認め,潰瘍性大腸炎の緩解に伴って胃病変も軽快した.本例の胃粘膜病変は,潰瘍性大腸炎の大腸粘膜病変と酷似しており,潰瘍性大腸炎の胃病変と考えられた.

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欧文目次

編集後記 斉藤 裕輔
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 本号は近年,多く発見されるようになった大腸カルチノイド腫瘍の臨床・病理学的特徴とその治療方針について特集した.アンケート集計での大きさ 7 mm のリンパ節転移例をはじめとして,平田らの文献検索における 5 mm のリンパ節転移例,6 mm の肝転移例,田畑らの文献検索における 3 mm の異時性の肝転移例など,小さな病変における例外はあるものの,今回の報告,アンケート集計からも 1 cm 以下の病変に対しては初期治療として内視鏡切除を行い,脈管侵襲や表面の潰瘍の有無を参考にして外科手術を考慮する,10 mm 以上は外科治療を選択する,というのが現状における一般的治療方針として妥当であろう.また,本号では平田らの論文とアンケート集計において,sm 浸潤距離と臨床的特徴,リンパ節転移,遠隔転移の関係が示され,今後カルチノイド腫瘍においても sm 浸潤距離の測定は重要となることが示された.病変発見数の増加とともにカルチノイド腫瘍においても大腸 sm 癌で議論,施行された手順(転移のリスクファクターの絞り込みおよび sm 浸潤度の相対分類から絶対分類への移行)が同様に繰り返されつつある現状が示され,今後はカルチノイド腫瘍の転移リスクの指標の 1 つとして sm 浸潤距離も重要な因子の 1 つとなりうることが示唆された.今後のさらなる大規模な集計が必要であろうが,本号が日常臨床におけるカルチノイド腫瘍の診断・治療の一助となることを期待する.

基本情報

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胃と腸
40巻2号 (2005年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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