胃と腸 17巻8号 (1982年8月)

今月の主題 小腸X線検査法の進歩

序説

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 長くて,屈曲していることを,小腸に例えることが多い.例えば,“羊腸”という言葉がある.例によって広辞苑をみると,羊腸を“羊のはらわたのように,山路などの屈曲して険しいこと“と説明してある.ここに言う“はらわた”とは臓腑の意味でなく,腸であることは,言うまでもない.

 このところ,小腸のX線診断学が目覚ましく進歩していることを,たいへん嬉しく思っている.既に小腸の形態学的診断法の原型は,胃と大腸とでほぼ完全にできあがり,多くのものが十分に学んだはずである.したがって,胃と大腸における方法論を当てはめ,応用すればよいのであって,従来の研究方法を基本的に改めることはないと思われる.在来の方法を,そのまま小腸病変に当てはめさえすればよいように思えるのである.

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 低迷を続けていたわが国の小腸X線検査も近年急速に進歩し,診断学は大いに向上している.そのきっかけとなったのは,二重造影法の導入であり,これまで主に行われてきた充満像による間接的な診断法に代わって,直接微細病変を描写できるようになった.今日,わが国ではこの二重造影法を中心に検査体系ができつつある.

 今日のわが国における小腸X線検査の進歩は決して偶然的なものではない.欧米における長い間の小腸に関する基礎的な研究や,わが国で独自に行われ,積み重ねられてきたきめ細かい消化管X線診断の研究の手法が,その土台になっている.また普及には,それなりの歴史的および時代的背景も考えなければならないだろう.

小腸二重造影法の実際 小林 茂雄
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 十二指腸まで挿入したゾンデから,造影剤と空気を直接小腸に注入して行う検査法(以下,二重造影法と言う)を,われわれが報告してから10年が経過した1)

 今では,この方法を使わなければ“小腸のX線検査をした”とは言えない.特に炎症性疾患に対しては不可欠となっている.われわれはルーチン検査にもこの方法を導入して,小腸病変の発見を試みている.

 二重造影法の実際のやり方とそのコツ,更にその欠点を補う新しい試みを述べる.

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 二重造影法が胃と大腸における微細・微小病変の診断を飛躍的に高め,変形の診断学という学問を大系づけたことは,周知のことである.一方,小腸ではこれまで,バリウムを経口的に服用させた後に,胃より流出するバリウムで小腸係蹄を追跡し,これに適時,圧迫を加えて検査する方法(経口法および圧迫法)が行われてきた.しかし,中村1),小林2)らによって,経ゾンデ法による小腸二重造影法が開発および理論化され,その後次第に広く行われるようになった.その結果,小腸病変の発見が増え,このことがまた小腸疾患への関心を高めるといった相乗作用を起こし,その成果は腸結核とクローン病の研究に著しく認められる3)-6).ところで,小腸のX線検査は大腸のように,二重造影法のみで満足すべき成績が得られるか否か?従来の経口法と圧迫法はその価値がなくなったのか?価値があるとすればどのような場合か?など経口法,圧迫法と二重造影法との比較検討は,いまだ十分に整理し尽されているとは思われない.したがって本稿では,小腸の器質的疾患に対する微細診断の立場から,従来の経口法,圧迫法と二重造影法の利点,欠点について述べる.

 小腸の解剖学的特徴とX線像

 X線診断は形態の診断を主目的としている以上,病変の形態のみならず,病変が存在する局所の解剖,更には臓器全体の解剖についてX線学的に把握すること,すなわちX線解剖を基礎としている.したがって病変の形態診断は,このX線解剖の十分な認識のうえに立脚して行われるべきであろう.

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 クローン病のX線診断は,欧米を中心に主として経口小腸透視によって診断1)~5)されてきた.したがってそこに掲げられているX線写真は充満像や粘膜像を主体に,圧迫像を加えたものが大部分であった.しかし近年,ゾンデ法による小腸X線検査の開発,進歩により従来の経口小腸透視に替わって小腸のX線診断学は,二重造影法を中心とした診断学に書き改められつつある現状である6)~13)

 特にクローン病においては,主病変のほか主病変より口・肛門側にskipして拡がる小病変を二重造影法によって正確に描写,観察することが可能となっている8)~12).クローン病では口側の小病変群を診断することは,手術時の切除範囲の決定に重要であるばかりでなく,クローン病の進展様式や病態生理の理解,クローン病の病期診断や早期発見など10)11)13)に関して極めて重要な情報を提供してくれるものと考える.

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 経口的小腸X線検査は簡易ではあるが,得られる所見は複雑多岐であり,時間の経過に従って刻刻変化するため,微細病変の診断は極めて困難である.斉藤1)は,小腸のX線検査に当たっては胃潰瘍のNischeを発見するごとき,単純でしかも決定的所見を得ることは初めから望み得べくもなく,常に機能的・器質的変化を総合的に観察する必要があると述べている.しかし,白壁・市川ら2)は,腸結核について,術後像と合わせて検討し,機能面を除いて恒存する管腔変形から,器質疾患の診断に精力を傾けた.

 ゾンデ法による小腸二重造影法の最大の利点は全小腸が連続して描出され,遮断剤の注射により蠕動の影響を除き粘膜面の微細な凹凸を描出して器質的異常を描出できる点にあると思われる.小腸二重造影法の歴史は古いが3),ゾンデ挿入,造影剤注入などにわずらわしさがあり,また器質的小腸疾患が少ないこともあり,あまり普及しなかった.本邦において,1974年に中村ら4),小林ら5)により経ゾンデ法による小腸二重造影法が短時間で検査を終了でき,しかも全小腸の二重造影像が得られ,器質病変の優れた描出能が得られるとの利点が報告された.ほぼ時を同じくして,クローン病が注目を集める時代が到来し,以後腸結核との鑑別を中心として小腸二重造影法は飛躍的に進歩,普及した6)7).術中内視鏡像,術後小腸造影像との対比により,微細病変の診断も相当に可能となった.しかしながら逆に,ほぼ全小腸にわたるびまん性,連続性の病変を有する疾患(以下,びまん性小腸疾患)のゾンデ法二重造影法によるX線診断についてはまだ十分な検討がなされていない.更に,経口的小腸X線検査においては正常像の検討が詳細になされているが8)9),ゾンデ法小腸X線検査における正常像の検討はほとんどなされていない.

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 八尾 今日は“小腸のX線検査法の進歩”が主題ですが,小腸のX線検査法が本当に進歩しているのかどうか,進歩しているとすればどういうことにつながっているのかということを,まず実際にやっておられる先生方の御意見とか,考え方といったものをお聞きしたいと思います.

 器械の進歩と検査法

 1つは,器械の進歩ということがあると思いますが,先生方は暗室を使っておられる所はないと思いますが,実際にはどこが進歩したと思われますか,勝又先生どうですか.

Case of the Month

Early Gastric Cancer, Type IIc
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 A 38-year-old woman visited the Department of Surgery, Cancer Institute Hospital for a detailed examination of the stomach. She was examined with x-ray at the other hospital on December 7, 1977, and some abnormality was pointed out. There was nothing in particular in her family history. Appendectomy was done at the age of 17, and oophorectomy was done at the age of 34, Physical examination was normal. Laboratory findings, including blood count, blood chemistry and urinalysis were within normal limits. Occult blood test was negative. Gastric juice analysis showed hypoacidity. Chest x-ray was normal.

 The diagnosis of IIc type early cancer on the posterior wall of the incisura region was made by the first endoscopy done on December 22, 1977 and by the first x-ray done on December 27, 1977. The second endoscopy was done on January 12, 1978 (Figs. 9, 10), and biopsy revealed poorly differentiated adenocarcinoma (adenocarcinoma scirrhosum).

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 大腸ポリポージスと脳腫瘍(Glioma)を合併する疾患は1959年Turcotらにより報告されて以来Turcot症候群と呼ばれ,家族性大腸腺腫症やGardner症候群と共に遺伝性大腸ポリポージスとして知られている.われわれは診断の過程に問題のあった本症候群の1例を経験したので報告する.

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 1963年にDe La Pavaら1)が,食道粘膜上皮基

底層にmelanoblastsが存在することを証明して以来,食道原発性悪性黒色腫の存在が認識されてきたが,その頻度は極めてまれである.

 今回,われわれは食道原発の悪性黒色腫の1例を経験したので,経過の概略を述べると共に,自験例を含め本邦報告例32例につき若干の文献的考察を行ったので報告する.

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 Cronkhite-Canada症候群1)は脱毛,爪の萎縮,皮膚の異常色素沈着などを伴うまれな消化管ポリポージスで,遺伝性が証明されていない.われわれは上記の所見を有し悪液質に陥って死亡した1例を経験し,かつ剖検する機会を得たので報告する.なおS状結腸よりの生検材料を電顕的に検索しえた.

入門講座 大腸疾患診断の考え方・進め方・8

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器械

 <質問>フィルムの大きさは大陸判などが入るものがよいですか.それで枚数が減らせますか.

 牛尾 理論的に言うと,大陸判で撮ると大腸のほぼ全体像が写るけれども,私はこれは必要ないと思います.大腸は,前にも言ったように,区域に分けて検査するという精神が必要ですから,大陸判でバーンと撮って,それだけで終わるのは問題だと思います.

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欧文目次

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 Colonic Diverticulitis in Patients under Age 40: Need for Earlier Diagnosis: G. W. Chodak, D. M. Rangel, E. Passaro, Jr. (Am J Surg 141: 699~702, 1981)

 大腸憩室炎は年齢と共に増加する.したがって40歳以下ではまれである.若い人で起こった場合はかなり激しく,早期切除を考慮すべきと言われる.

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 第7回「胃と腸」賞の贈呈式が去る6月16日夜,早期胃癌研究会会場(エーザイ本社5階ホール)で行われました.今回は次の論文に贈られました.

編集後記 八尾 恒良
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 小腸二重造影法の開発以来ほぼ10年が経過した.そして,いろいろな小腸の病変を美麗に描出した論文が数多くみられるようになった.その,現時点での集積が本特集号である.方法,手技など,各術者によって細かい工夫がなされ,小腸二重造影法は一応完成の域に達した感じすらある.

 しかし,胃や大腸の二重造影法に比し疾病概念や病態の解明に資するといった面では,まだその成果に乏しいと感じるのは筆者のみであろうか?

基本情報

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胃と腸
17巻8号 (1982年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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