胃と腸 15巻6号 (1980年6月)

今月の主題 小膵癌診断への挑戦

序説

小膵癌診断への期待 竹本 忠良
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 ひところ,新聞でもホスピス(末期患者専門病院)の設立のことが取りあげられていたと記憶している.その後どうなったのであろうか.欧米と宗教的背景が異なるわが国では,末期患者の取り扱いに難問題が山積するだろうと思う.

 思い出すことは,筆者が東京女子医大にいた頃,消化器病センターには早期癌センターが併設されていたが,あまりにも数多くの手遅れの消化器癌ばかり扱うことが多いので,これでは「末期癌センター」だといいあっていた.

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 膵疾患の中で最も重要で,かつ,診断が困難であった膵癌に対して,近年各種の検査法が開発されてきている.なかんずく,十二指腸内視鏡による逆行性膵・胆管造影法(略してERCP)が1969年初めて臨床的に用いられ1)2),ERCPにより直接的に主膵管から膵実質の造影が行われるようになって膵癌の早期診断の可能性が期待された.しかしながらERCPの方法論が確立され,10年以上を経ているが,発見された膵癌は進行したものが多くて,切除例が少なく,膵癌の早期発見に関する手掛りさえ困難であって,ERCPによる膵癌の早期発見に関して,この検査法をもってしても不可能だという諦めと同時に,なぜ早期発見ができないかといった疑問をERCPの導入後も持ちつづけてきたものであった.

 他方,膵臓をめぐる血管造影法が発達し,選択的動脈造影法により,微小膵血管の変化にもとつく膵癌の診断,癌の浸潤範囲にもとつく切除の可否の診断が可能になっている3)4).しかしERCPならびに血管造影の発達にかかわらず,診断された膵癌は,主として進行した切除不能な症例が大部分で,根治切除が可能で長期生存が期待しうる小膵癌の報告は稀であって,ERCPが開発されて10年以上を経た今日でもわずかな報告があるにすぎない5)~7).近年,超音波診断8),CTスキャン9)による診断法が加わってきているが,現実にかかる進歩した各種診断法を用いても現在では,直径2cm以内の小膵癌の診断の報告は少ないものである.膵癌が膵被膜内に限局しているものとしては,腫瘍の大きさが2cm以内に止まっているものが考えられ,われわれもERCPを開発して小膵癌の診断につとめたが,10年近くを経て初めて膵内に限局した直径2cmの小膵癌を報告した5).このような小膵癌の診断に関しては,有山ら6),安部ら7)の報告があるにすぎないが,小膵癌の発見に関していかにアプローチをなしうるかについて,癌研病院において,1978年および1979年の2年間に開腹手術を行った膵癌25例を中心に報告し,膵癌診断の現況と共に膵癌の早期発見への手掛りを考えてみたい.

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 各種形態学的検査法の開発および改良によって膵癌の診断は容易になった.しかし,診断される膵癌のほとんどは進行した切除不能なものが多く,小さな膵癌,とくに膵被膜内に限局する小さな膵体尾部癌の診断は困難であるのが実状である.この原因は膵癌の免疫血清学的なスクリーニングテストがないこと,患者の臨床症状が非特異的であることおよび診断する医師が膵癌の存在を念頭におかないことが主なものである.

 われわれはERCPと血管造影を組み合わせると,小さな膵癌が診断できることを報告して来た1)2).今回は膵癌患者の症状と臨床検査所見を分析し,どのような症例に膵癌の疑をおいて特殊検査を行うべきかを検討した.

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 近年,本邦における膵癌の発生頻度は,漸次増加傾向にあり,ここ10年間で約2倍の発生率を示しているが,膵癌の治療成績は他の消化器癌に比し,切除率,手術死亡率,遠隔成績のいずれにおいても極めて不良である.

 このような現状より,膵癌の治療成績の向上を期して,早期発見の方法が模索され,他方では広範なリンパ節郭清と門脈や隣接臓器の合併切除,さらには,膵全摘術によって根治性の改善をはかるという拡大根治術の方向がうち出され,新たな検討が進められつつある.

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 膵癌疾患の予後は極めて不良である.姑息的手術あるいは試験開腹に終わった膵癌患者のほとんどは半年以内に死亡し,切除例においてもその大部分は1年以内に死亡している1).1965年の愼・佐藤の全国集計2)と1975年の本庄・中瀬・内田の全国集計3)を比べてみても5年以上生存例はそれぞれ耐術者152例中5例,301例中7例となっており,10年たった時点でも遠隔成績の向Lは認められず惨澹たる状態である.このことは膵臓が後腹膜に位置するという解剖学的位置関係の問題と同時に,膵癌には特異的な臨床症状がないという症候学的な問題のために膵癌の早期診断が困難であったことに起因する.

 近年,内視鏡的膵胆管造影,血管造影といったX線診断学の進歩に伴い,膵内に限局する小さな膵癌が術前に診断され切除されるようになってきた4)5).1968年,Boijsenは血管造影で診断できる膵癌の大きさの限界は2cmであると報告した6)が,現在では1cm膵癌の診断が可能であるの4)5)7)~9).しかし,一般的にはこのような小膵癌が術前に診断,切除されることは稀で,膵内に限局する小膵癌の臨床的,並びに病理学的特徴は十分把握されていないのが現状である.

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患者:57歳,男性

主訴:心窩部痛,家族歴に特記すべきことなし

既往歴:48歳胆囊結石にて,胆剔術を受く

現病歴:1976年4月(術前1年10月)より心窩部痛を訴え,痛みは断続的で時に疝痛様であって,1年間痛みが続き,1977年5月24日本院内科を受信す.

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 1965年から1979年末までの15年間に京都大学第1外科で入院加療した膵癌は173例であり,この中で切除可能例は43例,切除率24.8%である.なおこの中に乳頭膨大部癌,胆道末端癌,十二指腸癌は含まれていない.これら切除例はすべて新鮮切除標本を用いて病巣の大きさを計測したが,このうち最大径が2.0cmもしくはそれ以下のものは6例であり,いずれも膵頭部癌であった.これらわれわれの切除した6例の小膵癌の諸病像を以下に記述する.

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 膵疾患に対する診断技術は,近年とみに開発され,膵癌の診断率も種々の検査法の組合せで100%近くになされるようになったが,なお外科的治療の予後が不良であるのは,このような成績が主に進行癌においてなされている点にある.したがって早期発見が大切で,膵癌を診断する以前の問題としてのスクリーニングが極めて重要である.閉塞性黄疸が早期において出現する場合は幸運というべきで,これらは何らかの方法で容易に診断がつけられ,開腹手術の運びとなる.このような症例は膵頭部癌の10%位と推定されるが,大多数の黄疸を有しない,あるいは黄疸出現前の患者をどのように発見するかが,膵癌の早期診断法を確立する上に重要である.

 ここに報告する症例は,約15年前から胃の多発性潰瘍で国立がんセンター外来を訪れていた患者である.尿Amylaseの上昇を認め,膵癌を疑って入院させた後に,黄疸が出現しはじめた症例で,種々の意味で興味深いものである.

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 高木(司会) 本号は「小膵癌診断への挑戦」という主題です.小膵癌か,早期膵癌かにする上ではっきりした定義がありませんが「小膵癌」ということで企画をして,「膵癌の早期診断は可能か」というテーマで座談会を持つことになりました.

 最近,膵癌症例がかなりふえてきています.膵癌死亡数は20年前に比べると約5倍にふえている.また,いろいろな検査法が導入されて膵癌の診断は20年前に比べると非常に変わってきているのではないか.こういう背景から膵癌を早期に診断できるのではないかといわれてきています.早期膵癌とか,微小膵癌とか,いろいろないい方がされますが,そういうものを診断できるかどうかについて,今日は診断,治療並びに病理の面から,いろいろお話をいただいて進めていきたいと思います.

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 近年,内視鏡的膵胆管造影手技の習熟につれて胆石の内視鏡的除去が試みられ,生検鉗子での乳頭部嵌頓結石の除去1)2)や採石具による傍乳頭痩孔を介しての結石除去3などが報告された.しかし,通常の乳頭を介しての結石の機械的除去は極めて困難であり,われわれの経験3)からも方法論の展開が必要であろうと思われた.一方,内視鏡下に高周波電気メスを用いて乳頭括約筋を切開する方法,すなわち内視鏡的乳頭括約筋切開術が1973年Kawai,K. et al4)~6),Classen,M. et al7)の,相馬ら9)により胆管結石の除去を主目的に開発されるや,急速に報告例10)~18)が増加し,現在では西独,ベルギー,フランスおよび本邦などで各施設の集計報告19)20)がなされるまでに至っている.

 われわれは1974年まずサルを用いて本法の基礎実験21)を行い安全性を確認した上で,同年11月臨床応用に踏み切った.本稿ではわれわれの方法と現在までの成績を中心に報告し本法の問題点と臨床的意義につき述べたい.

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 異所性の上皮成分の増生から成る胃粘膜下腫瘍としては,迷入膵が代表的な病変である.しかし本来の胃粘膜の迷入増生による胃粘膜下腫瘍の報告は少ない.

 われわれは,いわゆるⅡc類似進行型胃癌に併存した胃粘膜下腫瘍が,異所性に増生した偽幽門腺,胃底腺などの胃粘膜上皮より成り,化生性腸上皮も認められた症例を経験したので報告する.

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●肉眼標本との対比が不可欠

 市川 次は肉眼形態ですが,八尾先生,読影と肉眼形態と結びついたお話はありませんか.

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 いつかの印象記にも,山口昌男の本を引用した記憶がある.彼の本は,発想が好きなので,たいてい集めていて,時々読むことにしている.その山口昌男の近著「二十世紀の知的冒険」は対談集で,まだ出たばかりである.そのなかに,歴史家のド・セルトーの発言がある,すなわち,「歴史家が,歴史を判定するに当って,対立の中での党派性,圧力,利害,イデオロギーといったものの限定的性格から免がれているのは,自己暗示に過ぎない」云々の発言がある.

 なにも,歴史家を気取って,この一文を書いている気は毛頭ないが,学会印象記だからよいようなものの,これが真正面きった学会の現状の批判とうけとられても困惑する.それにしても,消化器病学会総会の会長はたいへんな重荷である.40代,50代では会長の役はこなせないのかもしれない.

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欧文目次

編集後記 高木 国夫
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 「小膵癌診断への挑戦」というような気負ったタイトルでの特集は今迄なされたことはなかったし,今後も恐らくはないであろう.このようなタイトルの特集で果たして,最も困難な問題―膵癌の早期診断―にどのように肉迫しうるか,編集にたずさわったものにとって,みのりあるものが得られるかどうか,本当に心配であった.世界においても,とりあげられたことがないことであって,この特集をみて戴ければ,編集者の心配が杞憂に終わったことに納得されることと思う.数多い進行膵癌の中での小膵癌の臨床像,診断過程が一歩づつ明かにされているが,小膵癌に対する治療の面からのアプローチが不充分であった点がおしまれる.病理面からの膵癌の進展,小膵癌の組織学的検討は,今迄なされていなかった分野で,診断治療にたずさわる方面に極めて示唆に富んだ内容であろうと思う.

 座談会で膵癌の早期診断について充分検討して戴いた.

基本情報

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胃と腸
15巻6号 (1980年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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