胃と腸 1巻1号 (1966年4月)

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はじめに

 Lehrbuch der Röntgendiagnostik 1965 Georg Thiemeに書いてあるように,われわれは,早期胃癌をX線診断するのに,よい手引きをもっている.Prévôt(1937 und 1957),Bücker(1941 und 1944),Gutmann(1937 und 1956)らの業績が,それである.それに加えて,わが国では,臨床病理,外科の絶大な指導を,とくに診断家はえた.KonjetznyにH.H.Berg,Prévôt,BückerというX線診断家が連らなったように.

 診断するのにあつらえむきの適切な知見を与えてくれたし,これこれを見つけるようにと示して,たしかな目標をきめてくれた.狙いやすいように,早期癌各型を案配してくれた.次に,早期癌X線診断を進展させたものは内視鏡診断の発展であった.ファイバースコープ検査の恩恵よりもむしろファイバースコープ出現以前,すなわち,胃カメラ診断の普及,発達の時期に,とくに,X線診断は刺激され向上した.X線診断と胃カメラ診断との併用こそが,早期癌診断を向上させたので,従って,早期胃癌のX線診断の発表報告も,ほとんどが消化器病学者の手によるもので,放射線医によるものは寥々たるものであった.

 1960~65の間に,日本で発表されたものは,口演数は約400,誌発表は約200をこえる.これらの各症例をわれわれなりに理解し,また,最近のR.A.Gutmann,J.Bücker,および,W.Frikの考え方も考慮してみた.その上で,われわれの症例を使ってX線診断を検討してみた.

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はじめに

この数年来,本邦における胃X線診断学に二重造影法が彗星のごとく登場してきた.また近年早期胃癌を目的とする微細病変の発見および診断に重大な関心がもたれるにいたり,X線診断は透視診断よりも写真診断が遙かに価値の多いことが認識されるとともに,この二重造影法の胃X線診断学に占める位置は今や牢乎たる地位をきづいたといって過言ではない.さて,この二重造影法は白壁学派によるきわめて理論だった解析により,そのかくされた特性がくまなく追求され,われわれの前に示されてきたわけであるが,この仰臥位にて胃体部に造影剤の薄層と空気を重ねて,この二つの層によるコントラストをもって,胃内の微細な変化を描き出すいわゆるDoppelkontrast法の萠芽は必ずしも新しいものではないようである.Doppelkontrastでびらんを描写しようとしたFriku.Hesseによるとこの方法を試みたいわば鎬矢はVallebona,A.(1926)であると記している.また田宮はそのレントゲン診断学(五版,1944)中にHilpert(1928年)によるPneumorelief法の発表が紹介されている.しかしその田宮のレ診断学は今でもすぐれた本として私共の身近かにあるが,その中にはいわゆる二重造影に相当する写真は僅かに胃潰瘍例中の一枚をみるにすぎず,しかもこれは腹臥位として記載されている.この当時も透視台を倒して透視診断をすることは盛んに行なわれていたのであるが,その体位にて写真を撮ることは本邦においてはほとんど試みられていなかったと考えてまず間違いなかろう.しかし本邦においてもその当時全くこの方法に注目した人がなかったわけではなく田辺はHilpert法を追試し1930年海軍軍医会雑誌に発表している.しかし氏は影像が鮮明をかき,方法も煩雑でありChaoulの圧迫法に及ばぬようだとしている.唯,後壁の影像を得るには本法を除外しえぬのみならず,造影剤の改良は優良な影像を求め得べきものと信ずるとむすんでおり誠に達観というべきである.

 さて,Hilpertの原著をみると,硫酸バリウム20~30gとカオリン15gを生クリーム程度のかたさに混ぜあわせた造影剤を与え,胃内にぬりひろげ,さらに空気を300~400cc注入しただちに仰臥位にして検査をすすめ写真をとっており,狙いは全く同じであるが,その具体的内容がやや異なるものであることがわかる.現在われわれが理解している二重造影法はまず充分量の硫酸バリウムを投与することにより胃壁を伸展し,患者を仰臥位となして胃後壁に薄くバリウムを付着せしめさらにその上に胃泡部からの空気をおき,胃前後壁両面の密着を防ぐとともに,薄いバリウム層のコントラストを写しだす方法である.白壁らは少なくとも250~300ccのバリウムが必要であるとしこれを一気に服用させ,さらに適量の空気の存在を(100~200cc)強調している.最近はさらに空気量を大中少量の三種にわけて写真撮影をする必要性を説く人もある.さて,われわれも現在日常の検査にこの二重造影法を必らず使っているが,つくづく感心することはこの二重造影法をルチーン検査法に導入せしめたことは正にコロンブスの卵的価値を有するものだということである.誰でも胃X線検査を行なってきた人は,患者を臥位にして透視検査をした経験を持つ筈であるが,その中で,これ程容易にしかも局在病変の全容を描写せしめる特性のひそんでいることを予見した人のほとんどなかったことが,今としてはむしろ不思議に感じるくらいであり,その意味でこの方法を開発された人達の功績は実に偉大であるといえる.さて前置きはこれくらいにして,同じ二重造影でもいわゆるScreening時のそれと,さらに局在病変に対する精密検査時のそれとは,当然大きな開きがあり,したがって本法の長所短所を論ずる場合もその検査時の条件を明らかにせぬと,多分に的はづれのことを述べることになりかねない.以上からまず私共の外来レントゲンおよび福岡胃研レントゲン検査時のルチーン検査法およびその成績を眺めたところから始めたい.

 われわれの一般検査法:ほとんど白壁の説く方法に準拠しているが,限られた時間にやや多数をあつかう関係上,少しく相違するところもあると思うので以下簡単に述べる.

 ① 造影剤はほぼ一率に300ccを服用させ,立位正面像を1枚撮影,ついで

 ② 腹臥位にして幽門部,球部を充分充満せしめ,かつ重なりをできるだけはづして撮影(球部変形に対してはスポット撮影)

 ③ ついで右側から仰向けにさせ幽門部から胃角を主にした二重造影像1枚撮影.

 ④ 左前斜位(第二斜位)にて徐々に台をおこし,胃角部より口側に空気を移して1枚撮影.(Schatzki体位)

 ④' ③,④の段階で透視下にも局在病変をみとめた揚合,または異常を感じた揚合は,③,④撮影後,適当な体位でスポット撮影を重ねる.適量圧迫下にスポットを撮ることもある.

 ⑤ 再び立位として第1斜位,または変型や異常所見に応じて適量圧迫の下にスポットをとる.この際,小さい布団を圧迫用に活用している.

 以上少なくとも5枚を最低にルチーンとしているが,ついで読影診断順序もこの撮影順序で行なう.これも白壁学派のいうごとく立位充盈像における辺縁のよみにまず重点をおき,さらに腹臥位および二重造影像にて,病変の辺縁,拡がりなどのよみから,さらにその性状判断の諸所見を読みとろうとするわけである.

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 胃疾患に対する内視鏡検査の意義は今さらいうまでもないが,早期胃癌の診断能をとりあげてみてもX線検査の手技並びにその診断能力の向上もさることながら,その高率の発見は内視鏡検査に負うところが多い1)

 わが国での内視鏡検査の普及はやや変則的で,直視観察を主体とする胃鏡検査よりは撮影フィルムの検討を主体とした盲目的な胃カメラ検査が主流をしめてきた.しかしこの流れは現在,観察を主としたファイバースコープおよび写真撮影を主とし,ファイバーをファインダーとしたファイバースコープ付胃カメラの別個の開発から,ここに両検査法の接点が生まれてきた.胃内視鏡検査を行なえる多数の専門医師が急速にふえ,全国的に早期胃癌の発見頻度の増加をみる時,胃カメラを始めとする内視鏡検査法の意義に今さらながら驚ろかされる.

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 この数年来,特に早期胃癌の診断学が著しい進歩をみせ,各地から数多くの症例が発表されてきている.このことは,レ線診断法の進歩とあいまって胃内視鏡検査の普及と発展が大きく貢献しているものと考えられる.

 われわれの病院では約3年間で100例の早期癌を発見したが,その3年間における発見の推移をみると第1表に示めすごとく第1年目に28名,第2年目に30名,第3年目に42名と,年をおうごとに,その発見数が増加してきている.これは診断学の向上を意味しているものと思う.たしかに以前には見すごしていたような,わづかな病変にまで注意をはらうようになり,かすかな隆起,陥凹,変色をもとらえ,術前,生検によって確証するようになってきた.一方また良性病変を悪性と誤診して手術をするといった症例も少なくなってきた.

 こうした進歩はレントゲン,胃内視鏡,細胞診の三つの柱に外科,病理といった胃グループの協力のたまものと思う.さらに小さな病変,高位の病変の発見に,今後の研究発展が期待されるところである.

 早期胃癌の肉眼的分類は第四回日本内視鏡学会総会の宿題報告として田坂会長が早期胃癌の全国集計を代表発表されて以来各方面で採用され,その面での研究はわが国の独走といった現況である*1.早期癌の規準は癌浸潤が粘膜内および粘膜下層部にとどまるものと規定しており,これを隆起型(Ⅰ型)表面型(Ⅱ型)陥凹型(Ⅲ型)に分類し,表面型をさらに表面隆起型(Ⅱa)表面平坦型(Ⅱb)表面陥凹型(Ⅱc)に分類している.ⅡcとⅢ,ⅡaとⅠの区別はその深さ高さが粘膜層にとどまるか否かによっており,同一病巣に隆起陥凹が混在する場合,主病変を先にしてⅡc+Ⅲ,Ⅲ+Ⅱcという具合に表現している.この早期癌分類によるとわれわれの病院ではⅡc型がもっとも多く約54%で副病変を含めると73%にも達する.リンパ節転移は原則としてないものと定義しているが,良性と思って手術したところ早期癌であったなどという症例は転移の有無が不明であるのでわれわれは転移をみとめたものをも含めて早期癌となし,将来の治癒率の問題を論ずる場合の参考にしようと考えている.120例の早期癌をみてみると浸達度1度(粘膜層のみのもの)のもの47例中転移のみとめたもの4例,浸達度Ⅱ度(粘膜下層までのもの)のものでは67例中転移のあったものは17例,検索しないもの6例であった.

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はじめに

 消化器疾患の診断は,X線検査,内視鏡検査,生検法および諸種の生物学的,物理的,化学的検査法の進歩普及によって著しい進歩を示しつつあるが,近時長足の普及発達を遂げつつある細胞診によってさらに精細を加えるにいたっている.

 周知のように,Papanicolaouにより樹立された剥離細胞診(Exfoliative cytology)は,悪性腫瘍局所から剥落した細胞または細胞集団が,悪性腫瘍以外の他の良性病変の範囲では決してみられないような細胞形態学的異型像を有するので,かような細胞または細胞集団における形態学的異型像をもって悪性腫瘍を診断する方法である.したがって,細胞診の主要日標の1つは,悪性腫瘍の細胞学的レベルでの診断にあるといっても過言ではなく,近年の研究の焦点は,早期癌の診断,癌の迅速診断における細胞の採取と処理に関する方法論および癌腫の鑑別診断上問題となる剥離細胞像の解析などに向けられているが,その適応と臨床的意義については慎重に考慮を要する問題がある,以下黒川内科,山形内科における消化器悪性腫瘍の細胞診の経験に基づいて,これらに関する2,3の問題点についての意見をのべてみたいと考える.

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創刊の辞 村上 忠重
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学会の機関誌を除くと,我が国では,消化器病学の専門誌が一向に育たないというジンクスがある.消化器病がとくに多いという我が国にあっては,不思議な現象のように感じられる.しかしそれにはそれ相当の理由があるであろう.たとえば消化器病の患者が余りにも多すぎ,余りにも一般的に過ぎるために,却って専門化しにくいとも考えられる.あるいはまた,消化器病には内科も放射線科も外科も病理も関与していて,その論文はそれぞれの分野の専門誌によって,すでに十分に消化されているのかも知れない.これらの現象はまた消化器病の専門家が現在十分に独立していないということにも通じよう.

しかし最近は医学全体の専門化の傾向に推進されて,消化器病の専門化も静かにではあるが次第に進められつつあるように思われる.そしてそれには早期胃癌の診断学の発達が大きな拍車の一つになった.これまである程度片手間にでもできないことのない消化器病ではあったが,こと早期胃癌の診断に関する限り,X線の精密検査といい,胃カメラといい,ファイバースコープといい,さらには,生検,細胞診といい,何れも,もはや片手間にはできない知識と技術を必要とするようになった.そしてこの専門知識が現在の目本全国をあげての癌恐怖症に対する,唯一の現実的な解答だとすると,やはりこの道への専門化はさらに促進されなければならない事業である.この意味だけでも消化器病の専門誌が誕生すべき機運にあるといえるはずである.

編集後記 村上 忠重
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 発刊の辞にも書いたように,本誌を先ず早期胃癌の診断シリーズの1から始めることにした.

 創刊のための倉皇の間にあって,無理に執筆をお願いした執筆者各位の御協力に対し先ず心から感謝したい.もち論全執筆者はその方面の第一人者揃いであるので,当方の無理をよく聞いて下さって短時日の間にこれだけの原稿を送っていただいた.有難いことであり,また誇ってよいことと思う.むしろ毎号こんなに珠玉篇ばかり出していたのでは,息切れがしてしまいそうである.したがって,今後はできるだけ長期計画をたてて,症例,座談会,技術解説,文献などなどの欄をもうけ,ゆったりした紙面にしてゆきたいと考えている.その方がまた気楽に電車の中ででも読んでいただけるはずである,

基本情報

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胃と腸
1巻1号 (1966年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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