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はじめに
この数年来,本邦における胃X線診断学に二重造影法が彗星のごとく登場してきた.また近年早期胃癌を目的とする微細病変の発見および診断に重大な関心がもたれるにいたり,X線診断は透視診断よりも写真診断が遙かに価値の多いことが認識されるとともに,この二重造影法の胃X線診断学に占める位置は今や牢乎たる地位をきづいたといって過言ではない.さて,この二重造影法は白壁学派によるきわめて理論だった解析により,そのかくされた特性がくまなく追求され,われわれの前に示されてきたわけであるが,この仰臥位にて胃体部に造影剤の薄層と空気を重ねて,この二つの層によるコントラストをもって,胃内の微細な変化を描き出すいわゆるDoppelkontrast法の萠芽は必ずしも新しいものではないようである.Doppelkontrastでびらんを描写しようとしたFriku. Hesseによるとこの方法を試みたいわば鎬矢はVallebona, A.(1926)であると記している.また田宮はそのレントゲン診断学(五版,1944)中にHilpert(1928年)によるPneumorelief法の発表が紹介されている.しかしその田宮のレ診断学は今でもすぐれた本として私共の身近かにあるが,その中にはいわゆる二重造影に相当する写真は僅かに胃潰瘍例中の一枚をみるにすぎず,しかもこれは腹臥位として記載されている.この当時も透視台を倒して透視診断をすることは盛んに行なわれていたのであるが,その体位にて写真を撮ることは本邦においてはほとんど試みられていなかったと考えてまず間違いなかろう.しかし本邦においてもその当時全くこの方法に注目した人がなかったわけではなく田辺はHilpert法を追試し1930年海軍軍医会雑誌に発表している.しかし氏は影像が鮮明をかき,方法も煩雑でありChaoulの圧迫法に及ばぬようだとしている.唯,後壁の影像を得るには本法を除外しえぬのみならず,造影剤の改良は優良な影像を求め得べきものと信ずるとむすんでおり誠に達観というべきである.
さて,Hilpertの原著をみると,硫酸バリウム20~30gとカオリン15gを生クリーム程度のかたさに混ぜあわせた造影剤を与え,胃内にぬりひろげ,さらに空気を300~400cc注入しただちに仰臥位にして検査をすすめ写真をとっており,狙いは全く同じであるが,その具体的内容がやや異なるものであることがわかる.現在われわれが理解している二重造影法はまず充分量の硫酸バリウムを投与することにより胃壁を伸展し,患者を仰臥位となして胃後壁に薄くバリウムを付着せしめさらにその上に胃泡部からの空気をおき,胃前後壁両面の密着を防ぐとともに,薄いバリウム層のコントラストを写しだす方法である.白壁らは少なくとも250~300ccのバリウムが必要であるとしこれを一気に服用させ,さらに適量の空気の存在を(100~200cc)強調している.最近はさらに空気量を大中少量の三種にわけて写真撮影をする必要性を説く人もある.さて,われわれも現在日常の検査にこの二重造影法を必らず使っているが,つくづく感心することはこの二重造影法をルチーン検査法に導入せしめたことは正にコロンブスの卵的価値を有するものだということである.誰でも胃X線検査を行なってきた人は,患者を臥位にして透視検査をした経験を持つ筈であるが,その中で,これ程容易にしかも局在病変の全容を描写せしめる特性のひそんでいることを予見した人のほとんどなかったことが,今としてはむしろ不思議に感じるくらいであり,その意味でこの方法を開発された人達の功績は実に偉大であるといえる.さて前置きはこれくらいにして,同じ二重造影でもいわゆるScreening時のそれと,さらに局在病変に対する精密検査時のそれとは,当然大きな開きがあり,したがって本法の長所短所を論ずる場合もその検査時の条件を明らかにせぬと,多分に的はづれのことを述べることになりかねない.以上からまず私共の外来レントゲンおよび福岡胃研レントゲン検査時のルチーン検査法およびその成績を眺めたところから始めたい.
われわれの一般検査法:ほとんど白壁の説く方法に準拠しているが,限られた時間にやや多数をあつかう関係上,少しく相違するところもあると思うので以下簡単に述べる.
① 造影剤はほぼ一率に300ccを服用させ,立位正面像を1枚撮影,ついで
② 腹臥位にして幽門部,球部を充分充満せしめ,かつ重なりをできるだけはづして撮影(球部変形に対してはスポット撮影)
③ ついで右側から仰向けにさせ幽門部から胃角を主にした二重造影像1枚撮影.
④ 左前斜位(第二斜位)にて徐々に台をおこし,胃角部より口側に空気を移して1枚撮影.(Schatzki体位)
④' ③,④の段階で透視下にも局在病変をみとめた揚合,または異常を感じた揚合は,③,④撮影後,適当な体位でスポット撮影を重ねる.適量圧迫下にスポットを撮ることもある.
⑤ 再び立位として第1斜位,または変型や異常所見に応じて適量圧迫の下にスポットをとる.この際,小さい布団を圧迫用に活用している.
以上少なくとも5枚を最低にルチーンとしているが,ついで読影診断順序もこの撮影順序で行なう.これも白壁学派のいうごとく立位充盈像における辺縁のよみにまず重点をおき,さらに腹臥位および二重造影像にて,病変の辺縁,拡がりなどのよみから,さらにその性状判断の諸所見を読みとろうとするわけである.
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