臨床泌尿器科 75巻2号 (2021年2月)

特集 複合免疫療法とは何か? 腎細胞癌の最新治療から学ぶ

企画にあたって 北野 滋久
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 歴史的背景として,腎細胞癌においてはがん免疫療法の先駆けとしてIL-2療法やインターフェロンα(IFNα)療法が開発されてきた経緯があり,泌尿器腫瘍領域の諸先生方はがん免疫療法の臨床開発に大きな貢献をされてきました.近年はこの開発が飛躍的に進み,泌尿器腫瘍においても腎細胞癌と尿路上皮癌に対して,免疫チェックポイント阻害薬が標準治療として実地臨床で用いられるようになり,さらには,進行腎細胞癌の初回治療において複合免疫療法の臨床開発が順次成功し,現在は複数の治療が選択できるまでになりました.進行期の腎細胞癌に対する複合免疫療法として最初の承認を得た抗PD-1抗体+抗CTLA-4抗体の併用療法に関しては,長期フォローアップデータも報告され,3人に1人程度の患者さんが長期生存を得られる可能性が示されており,今後ますますの治療成績の向上が期待されています

 泌尿器科領域の臨床医学の発展は著しく,先生方が習得すべき領域はますます多岐に渡り,各種良性疾患に加えて,悪性腫瘍においても腎細胞癌,尿路上皮癌,前立腺癌,精巣腫瘍など多数の臓器に対する外科的治療,薬物療法はじめ幅広い専門知識が求められ,頻繁に知識のアップデートを行っていただく必要があるかと存じます.

〈総論〉

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▶ポイント

・腎細胞癌は腎実質から発生する異なる悪性上皮性腫瘍の総称であり,それぞれの発がんメカニズムを理解したうえで,治療戦略を検討する必要がある.

・Insertion/deletion変異が多い腎細胞癌は,抗原性が高い悪性腫瘍である.

・淡明細胞型腎細胞癌ではPBRM1遺伝子,BAP1遺伝子といったドライバー遺伝子の変異の有無によって,免疫微小環境が異なっていることが明らかになりつつある.

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▶ポイント

・免疫チェックポイント阻害薬治療では,免疫状態を正確に評価することが重要であり,炎症との相互関係で抗腫瘍免疫を理解する.

・腎細胞癌の微小環境では,慢性炎症により免疫抑制環境が誘導され,全身性の炎症反応亢進が微小環境での免疫抑制を反映する.

・C反応性蛋白(CRP)や好中球/リンパ球比(NLR)などの炎症マーカーは,免疫状態の指標となる免疫マーカーとなり,免疫療法のモニタリングに有用な可能性がある.

〈腎細胞癌における複合免疫療法〉

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▶ポイント

・ニボルマブ+イピリムマブ併用療法は転移性腎細胞癌に対する一次治療として,IMDC分類の中間および高リスク症例に適応がある.

・CheckMate214試験の長期観察データにおいて,スニチニブと比較して全生存期間(OS)の延長効果を持続して認めている.

・複合免疫療法の薬剤選択には,宿主側の免疫状態と腫瘍側の生物学的特徴を明らかにする必要がある.

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▶ポイント

・ペムブロリズマブ+アキシチニブ併用療法は,がん免疫療法と血管新生阻害療法を組み合わせることで抗腫瘍効果が増強するとされる.

・ペムブロリズマブ+アキシチニブ併用療法では,それぞれの薬剤に特徴的な有害事象と重複した有害事象がみられる.

・ペムブロリズマブ+アキシチニブ併用療法は,各種ガイドラインにおいてリスク分類にかかわらず未治療腎細胞癌の推奨治療となっている.

PD-L1阻害薬+VEGFR-TKI 三宅 秀明
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▶ポイント

・JAVELIN Renal 101試験の結果をもとに,未治療進行腎細胞癌に対する一次治療として,アベルマブ+アキシチニブ併用療法が承認された.

・アベルマブ+アキシチニブ併用療法はスニチニブ単独療法に比し,無増悪生存期間(PFS)を有意に延長したが,両療法間の全生存期間(OS)には有意差を認めていない.

・アベルマブ+アキシチニブ併用療法に伴う有害事象は比較的軽微であり,その忍容性は優れていた.

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▶ポイント

・免疫療法関連有害事象の特徴は,特徴がないことである.

・PD-1阻害薬+CTLA-4阻害薬は,特に併用療法中における重篤な有害事象の発症に注意しなければならない.

・PD-1阻害薬/PD-L1阻害薬+血管新生阻害薬は,重複する有害事象に注意しなければならない.

・免疫療法関連有害事象のリスクマネジメントにおいては,院内体制の整備に加え,患者やその介護者への教育指導も重要である.

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▶ポイント

・1stラインが免疫チェックポイント阻害薬+アキシチニブの場合,カボザンチニブが推奨される.

・1stラインがニボルマブ+イピリムマブの場合,2ndラインはチロシンキナーゼ阻害薬のなかでも効果と安全性の観点からアキシチニブ,カボザンチニブが推奨される.

・1stラインがチロシンキナーゼ阻害薬の場合,ニボルマブもしくはカボザンチニブが推奨される.

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▶ポイント

・腎細胞癌はほかの固形腫瘍と比べて,免疫学的に特殊な側面がある.

PBRM1遺伝子変異ががん免疫療法の効果予測因子であることについて,現時点で一定の見解は得られていない.

・将来的には遺伝子変異のパターンに応じて,個々の症例で最適な治療を選択できるようになることが理想である.

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▶ポイント

・カボザンチニブやレンバチニブといった新規のマルチチロシンキナーゼ阻害薬と,免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が現在開発中である.

・First in classの分子標的薬であるHIF2α阻害薬が腎細胞癌で開発が進んできている.

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▶ポイント

・腎細胞癌(RCC)の橋渡し研究は日進月歩の状況にあり,今後も新規薬剤の登場が続くと予想される.

・大規模な多施設共同研究により本邦での治療成績を明らかとし,RCC治療に関する代用マーカーや新たなリスク分類を世界に発信していくことが期待される.

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 進行性腎細胞癌患者に対するスニチニブ治療後,がん治療関連心機能障害(CTRCD)に至る前の段階で左室壁運動低下が出現するか否か,およびその部位を検討した.スニチニブ治療前後で経胸壁心エコー図検査を施行した進行性腎細胞癌患者16例を対象とし,左室壁運動異常の有無と左室駆出率(LVEF)を評価した.16例中6例(38%)に左室壁運動異常を認めた.そのうちCTRCDは4例で,2例はその定義を満たさなかった.壁運動異常の出現様式はびまん性,心尖部の壁運動低下,後壁と下壁および心尖部の壁運動低下とさまざまであった.CTRCDの定義を満たさない段階でも,左室壁運動異常が出現していた.スニチニブ治療開始後にはLVEFのみではなく左室壁運動異常にも留意する必要があると考えられた.

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 50歳男性.主訴は左下肢疼痛としびれ,肛門付近の疼痛と尿閉,便秘.CTで直径15cmの骨盤内を占める充実成分を伴う多房性の囊胞性腫瘤が認められた.直腸および膀胱,前立腺は右方に圧排されていた.MRIでは前立腺由来の囊胞性病変と囊胞内の出血が疑われたが,良悪性を含め質的診断は困難だった.症状改善のため骨盤内腫瘍摘出術が施行された.病理組織学的に,囊胞壁がPSAで染色され前立腺囊胞腺腫と診断された.

連載 医薬系プレゼンテーションの技術―知れば,学べば,必ず上達!・第14回

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非言語は言語より物を言う

 非言語テクニック.それは言葉以外の手段を用いたコミュニケーションの方法であることはおわかりだろう.大切なポイントは,非言語コミュニケーションは五感を通じて行われているということである.つまり,目で見て,耳で聞いて,身体で感じることで,われわれは話し手が伝えたい内容を受け取っているのである.実は,われわれは日常的に無意識に複数の非言語を用いてメッセージを伝達している.言葉と非言語が協調して交わることによって,あなた自身を聞き手に伝達しているのである.

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 泌尿器科は,新生児から高齢者まで全ての年齢層を対象としており,扱う領域は,悪性疾患,尿路性器感染症,腎機能障害,腎移植,下部尿路機能障害,内分泌疾患,性機能障害,小児・女性泌尿器など,多岐にわたります.教育病院,市中病院,民間病院,クリニック,それぞれの施設やそれぞれの地域において特徴的な医療を行っており,泌尿器科疾患の全範囲に常に触れているわけではありませんので,全ての最新知見に精通している泌尿器科医は決して多くないと思います.一方,診療ガイドラインの改訂や取扱い規約の改訂は,以前よりも間隔が短くなっており,各自の守備範囲としている領域においても,全ての改訂内容をフォローできている専門医は決して多くはないことと思います.インターネットが身近に利用できる環境が整い,検索すれば最新情報を入手することは可能ですが,あまりなじみのない領域ではキーワードすら思いつくことができず,自分の知識をアップデートするのはなかなか容易ではないのが現実ではないでしょうか.

 本書では泌尿器科診療の全ての領域にわたって,最新情報として押さえておくべきポイントについて,それぞれの専門家がコンパクトにまとめて記載しています.セッションの冒頭で,以前の常識(平成の常識)と現在の常識(令和の常識)がコラムとしてピックアップされています.これまでの常識について,「確かにそうであった」とうなずきながら読むことで,読者はここで安心することができます.そして,これまでの診断や治療の変遷を踏まえて読み進めることで,新しい常識を吸収しやすくなっているのが,本書の特色だと思います.診療ガイドラインや取扱い規約が改訂されて多数出版されていますが,本書では現在の常識として改訂ポイントをピックアップして記載しているので,最新の知見と改訂ポイントを一読で確認することが可能です.本邦の各種診療ガイドラインにおいて,EAUやNCCNガイドラインのような小まめなアップデートは,現実的には困難です.そのような現状ですが,次の診療ガイドラインが出版される前に,WHO分類のアップデートに伴う知見や海外のエビデンスを基にした知見など,すでに日常診療として実践されていることが多々あります.また,新規治療薬の国内承認が相次ぎ,用法追加承認もしばしば行われています.診療ガイドラインでは追いついていない治療方法についても,本書では新しい常識として取り上げられており,up to dateの診療を患者に提供する際の根拠として利用することが可能です.

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 EBM(Evidence-based medicine根拠に基づいた医療)という言葉が医療界で初めて提唱されたのが1992年.提唱者を個人的に知っていた私は,その直後から,わが国においてEBMの普及に努めてきた.そのような私にとって,心の重荷を下ろし,希望の灯と映ったのが,本書である.

 理由は,次の通りである.EBMとは「最も信頼できる研究成果(エビデンス)を知った上で,患者に特有の病状や意向・価値観(個別性),医師の経験や医療環境(状況)に配慮して医療を行うこと」であり,最も信頼できるエビデンスを踏まえる点に最大の特徴がある.今や,わが国においても,診療現場では当然のごとくエビデンスについての議論が正しく行われ,エビデンスに基づいた診療ガイドラインも普及し,医療の質が向上したことは疑いがないところである.ところが,私自身,当時新規性のあったエビデンスに注意を引き付けようとするあまり,「患者に特有の病状や意向・価値観に配慮する」という部分の実践手順を普及しようとする意欲には欠けていて,EBM普及の達成感とは裏腹に,何とも言えない心の重荷になっていたところである.

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 本書の第3版が出たときも書評を書かせていただいたが(2015年),力を込めすぎついつい長文になってしまった(https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/84707#tab4).今回は「800〜1400字で」,と編集部から注文がついている.宴席でスピーチが長すぎるおじさんがあらかじめくぎを刺されている様相だが,その「宴席」もいずれ死語になるやもしれぬ今日このごろだ.

 というわけで,今回は短く書かせていただく.

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目次

バックナンバーのご案内

次号予告

編集後記 近藤 幸尋
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 2021年もコロナで開けた年となりました.小職は昨年の第3波以来,日本医科大学付属病院のコロナ連絡会議の議長を拝命したために,より直接的に関わるようになりました.コロナは実に多分野が絡んでおり,単に感染制御室のコントロールでは効かないため,統制をとる目的で連絡会議が結成されました.診療科としては,救命救急センター・呼吸器内科・総合診療科・放射線科および薬剤科・臨床検査室・感染制御室と事務部からなります.そこで各々の解決すべき色々な問題点が出てきます.

 まず,病院の施設すべてをコロナ患者用にすることはできません.例えばCTにしても,1台を救命救急センターや発熱外来の患者用にすることができますが,CT上でコロナ様の画像を認めた際には,次の患者にすぐに使用するわけにはいきません.いかに効率的にCT運用を図るかを話し合います.患者も重症例は救命救急センターには入りますが,そこのベッドをすべてコロナ用にはできません.また,中等症以下の一般病棟も一部をコロナ病棟に変えて運用しなければなりません.ここでは,重症患者と中等症患者の連携が必要になります.一般病棟は,呼吸器内科や総合診療科が管理することになりますが,コロナ患者の数が増えてくると,これらの診療科に丸投げすることはできません.

基本情報

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臨床泌尿器科
75巻2号 (2021年2月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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