臨床泌尿器科 70巻13号 (2016年12月)

特集 EDをあなどるなかれ─知っておきたい最近の話題

企画にあたって 永井 敦
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 第一次ベビーブーマーの世代が75歳の後期高齢者となる2025年問題が目の前に迫ってきています.日本ではすでに高齢者層が若い世代に経済的に頼ることが難しい時代を迎えており,今後高齢者は経済的にも自立しなければならなくなります.そのためには,健康を維持し,活力のある生活を送っていくことはきわめて大切な課題となります.ここに「男性の健康とED」という問題が,われわれ泌尿器科医の間で,浮上してまいります.

 現在,EDは心血管疾患の前兆と考えられています.ガイドラインでは,EDのリスクファクターが13項目挙げられており,高脂血症や糖尿病,高血圧症など,全身に影響のある疾患も含まれています.逆にいえば,EDのリスクファクターを減らすことができれば,健康を取り戻せるということです.さらに,EDを予防することも男性の健康寿命を延ばすうえで大切です.「EDをあなどるなかれ」─これが,われわれ泌尿器科医,性機能専門医の合言葉です.

診断 久末 伸一
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▶ポイント

・EDは全身性の疾患と関連しており,血管性,神経性,内分泌性EDがある.

・診断には問診が極めて重要であり,リスクファクターについて詳細に聴取する.

・血管性EDの診断にPGE1海綿体注射が有用である.

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▶ポイント

・EDのリスクファクターとして,加齢,喫煙,高血圧,糖尿病,脂質異常症,肥満と運動不足,うつ症状,下部尿路症状,慢性腎臓病,睡眠時無呼吸症候群,神経疾患,不妊症,薬剤の13項目が挙げられる.

・EDは心血管疾患の前兆と考えられる.

治療 末富 崇弘
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▶ポイント

・PDE5阻害薬はED治療の第一選択である.どのPDE5阻害薬も同様の効果と安全性をもつが,薬物動態に違いがある.

・第二選択は陰茎海綿体注射と陰圧式勃起補助具,第三選択に陰茎プロステーシスがある.

・近年,体外衝撃波療法や局所クリームが開発され注目されている.

LOH症候群とED 小林 皇
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▶ポイント

・加齢により男性ホルモンが低下し,勃起障害を代表に抑うつ,疲労感,筋力低下などさまざまな症状が出現する(LOH症候群).

・LOH症候群に伴うED治療においてもPDE5阻害薬は有用である.

・勃起障害を含め,その他の症状の改善もテストステロン補充療法は期待できる.

心血管疾患とED 天野 俊康
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▶ポイント

・EDと心血管疾患には,動脈硬化,血管内皮細胞機能低下といった共通の機序がある.

・PDE5阻害薬は,EDのみならず,心血管系の指標である上腕─足首間脈波伝播速度(baPWV),足関節上腕血圧比(ABI)を改善させる可能性がある.

・性的活動度と死亡リスクは負の相関関係があるとされており,EDへの積極的な治療介入は有意義である.

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▶ポイント

・糖尿病のEDの有病率が高く,なかでも重症例が多い.

・糖尿病においては無痛性心筋梗塞の予測因子であり,EDの診断意義が高い.

・糖尿病によるEDにおいてはPDE5阻害薬への治療反応性が低い.

・PDE5阻害薬によって,尿中アルブミン尿やインスリン分泌が改善する.

心因性ED 織田 裕行
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▶ポイント

・器質性の原因疾患が特定しにくい場合,安易に心因性であると判断してはならない.

・心因性EDには心理療法が有効である.

・うつ症状とEDの関係は双方向性の関係にあるため,EDかうつ症状が認められれば,他方が存在しないか確認すべきである.

前立腺癌とED 海法 康裕
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▶ポイント

・前立腺癌の治療は高率に勃起障害の原因となる.

・前立腺全摘術後の勃起障害の予防として神経温存手術が発展してきた.

・前立腺全摘術後や放射線治療後の陰茎リハビリテーションが注目されているが,方法や期間など推奨プログラムの決定には今後のデータ蓄積が必要である.

・どの治療法が性機能温存に有利かは一概にはいえず,個々の症例において治療方針を選択する必要がある.

専門医のための泌尿器科基本手術

腎盂形成術 浅沼 宏 , 大家 基嗣
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ポイント

・加刀前には逆行性腎盂尿管造影検査で正確な狭窄部位,狭窄の範囲,尿管の伸展性を評価しておく.

・吻合後の腎盂から尿管の形態が漏斗状となるように,腎盂壁の切開ラインをデザインする.

・尿管のspatulationは伸展性のよい健常な組織まで十分に行う.

・腎盂壁下端部と尿管のspatulation遠位部の縫合は5針の結節縫合とする.

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ポイント

・腎盂形成術は腎盂尿管移行部通過障害に対する根本的治療である.

・手術は疼痛や尿路感染症などの有症状のほか,無症状であっても腎機能障害を認めるもの,尿ドレナージ不良の症例では適応となる.

・基本的にdismembered法で手術が行われ,腹腔鏡下手術の成績も良好である.

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 76歳男性.既往は高血圧,前立腺肥大症のみで手術歴はなく,前医での腹部超音波検査で膀胱腫瘍が疑われて当科初診となった.膀胱鏡検査にて膀胱頸部腹側に径8mm有茎性乳頭状腫瘍を認め,経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行をした.病理組織診断では,悪性所見を認めず膀胱nephrogenic adenomaと診断された.膀胱nephrogenic adenomaは比較的まれな疾患であり,本症例は本邦77例目であった.術後8か月の経過で再発は認めていない.

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 生検や外科的治療で得られた摘出標本の病理診断は,泌尿器腫瘍に対する集学的治療の根幹に位置する.従って,ここが脆いと治療戦略は組み立てられないことになる.恥ずかしながら私は,大学病院で研修を始めた当初,このような明々白々のことに気付くことなく新たな治療手技を身につけることにいそしんでいた.病理診断医が如何にかけがいのない存在であることを身に沁みて感じたのは,卒後10年ほど経過し,ある関連医療施設でお世話になった70歳を超えた老病理診断医師との出会いを通してであった.この先生は病理診断の報告書を作成するにあたり,手術時の所見や患者の病態などに関してしばしば詳細な質問をされた.時には手術室にも入ってこられたように思う.病理診断申込用紙に所定の記載をして,病理診断を待つだけであった当時の私にとって,病理診断を下すために病理医が大きな重圧を感じながら仕事をされていることを初めて感じた時であった.

 本書は,泌尿器腫瘍に精通された我が国のトップ病理医の先生方と泌尿器科医が協働して編纂された泌尿器腫瘍病理の実践的指南書である.精微な病理組織写真はもとより沢山の画像写真や簡明なフローチャートなどが豊富に掲載されていることにも目を奪われるが,病理の先生方のpoint by pointの明解で統一された記述にも感銘を受ける.また,泌尿器腫瘍領域で臨床上課題となっているcontemporaryな事項に病理医としてどのような支援ができるか,といった極めて実践的な記載が随所にみられる(例えば,腎臓癌における腎摘除標本では,腫瘍から離れた非癌部のサンプリングが将来のCKDの発生を予測するため有用であることなど).本書は二つの読者対象を特に意識している様に見える.一つは,これから泌尿器腫瘍をサブスペシャルティの一つとして考える若い病理診断医であり,もう一つは泌尿器腫瘍の奥深さに気づき始めた若い泌尿器科医である.特に後者に対しては,病理診断医が我々泌尿器科医に何を求めておられるかが丁寧に記載されている.本書を通して,病理診断医との双方向性の質の高い意見交換ができる泌尿器科医が続々誕生することを願っている.

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バックナンバーのご案内

次号予告

編集後記 小島 祥敬
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 第81回日本泌尿器科学会東部総会(弘前大学・大山力会長)において,杏林大学医学部外科の杉山政則教授の教育講演「若手─中堅医師のための論文作成の基本技術 : なぜ書くのか?どうやって書くのか?」の座長を仰せつかりました.杉山先生によると,『「忙しいから」「英作文が得意でないから」と言い訳をして40歳までは全く論文を書かなかったが,その後研究や論文執筆の楽しさを初めて知り,80篇以上の論文を筆頭著者として発表した』とのことです.ただただその熱意に感服するばかりでした.“なぜ書くのか”に対する結論は,“臨床医の条件としてArt-Science-Humanityが必須であり,研究・論文作成を通じて科学的思考・姿勢を身につけることはacademic surgeonとなるためには重要であるから”とのことです.ちなみに昨年の第103回日本泌尿器科学会総会の若手企画で,本誌編集委員の大家基嗣先生が,「いくら優れた研究をしても,論文を書かないことには研究を完結させたとは言えない」とご発言され,私自身も全く同じ思いでした.

 研究をすること・論文を書くことの目的は,学位を取得するため,最新の科学を享受するため,考え方や議論の仕方を学ぶためなど,さまざまです.しかし最も重要なことは,わからないことを考え,追及する癖を身につけることだと思います.臨床には未解決の課題や不確定要素が多く,臨床力をつけるためには,創造力を養うことはとても重要なことだと考えます.

基本情報

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臨床泌尿器科
70巻13号 (2016年12月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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