病院 75巻9号 (2016年9月)

特集 病院は認知症とどう向き合うべきか

巻頭言 松田 晋哉
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 社会の高齢化に伴い,急性期・慢性期を問わず認知症高齢者の入院治療のあり方が課題となっている.本特集ではこの問題に焦点を合わせ,これからの超高齢社会における認知症高齢者の入院治療のあり方を総合的に考察する.

 天野論文で説明されているように,急性期病院の救急部には数多くの認知症高齢者が骨折や誤嚥性肺炎で搬送され,そうした患者の病棟での治療のあり方,特にせん妄とBPSD対策が問題になっている.このような病態に適切に対応することは急性期病院に必須の機能となっている.また,こうした認知症患者のケアを支える看護師の認知症対応能力が課題となっており,赤井論文では「その患者のこれまでの生き方や価値観を知ること」の重要性が指摘されている.「認知症は,人と人との関係性を悪化させやすい病である」という赤井の指摘は重要である.認知症の正しい理解が業務をスムーズに行っていくためにも重要となっているのである.また,認知症ケアは連続性を求める.栗田論文では病院側から地域への働きかけ,患者の在宅復帰に向けての調整など回復期リハビリテーション病院である鶴巻温泉病院における認知症対策の先進的取り組みが紹介されている.そして,認知症の地域包括ケアを,予防と地域リハビリテーションの概念から実践しているのが西野病院である.園芸療法や有酸素運動を中心とした認知症予防活動など,同法人の包括的な取り組みは他の医療機関にとっても参考になるものと考える.池端論文は,認知症ケアにおける療養病床の意義を改めて認識させるものである.「一定の治療機能と看取り機能を併せ持ちながら,(認知症患者に)医療と介護を一体的に提供できる療養病床の存在意義はますます大きくなる」という意見は,現場関係者の一致する思いであろう.また,この機能をさらに充実させるために「療養病床が他の医療機関との連携が認められていない現状を改善すべきである」という指摘は重要である.

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●認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)は,医療・介護等が有機的に連携し,認知症の容態の変化に応じて適時・適切に切れ目なく,そのときの容態に最もふさわしい場所で提供される循環型の仕組みの構築を目指している.

●具体的には,特に早期診断・早期対応,行動・心理症状(BPSD)や身体合併症への対応等の場面を念頭に置き,医療・介護等の基盤整備を引き続き推進するとともに,これらの資源が一層連携できるような仕組みづくりを推進している.

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●急性期病院においては認知症を合併した患者が増加している.

●しかしながら,その対応は十分でなく,医療の質の面で課題がある.

●認知症を対象としたリエゾン医療の充実が必要である.

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●回復期リハビリテーション(回リハ)病棟は高齢者が多く,また脳卒中や頭部外傷など脳血管疾患により認知症や高次脳機能障害の症状を有する患者が多い中で,当院では80%以上の在宅復帰を実現している.

●回リハ病棟では認知症患者が年々増加している.Functional Independence Measure(FIM)の検討では,全ての疾患で,運動FIMに比べて認知FIMの改善率が低い結果であった.

●取り組みとしては,転倒・転落の予防とそれに相反する抑制回避の工夫,Dementia Support Team (DST)の発足,認知症サポーターの育成,在宅復帰へ向けての家族支援などが挙げられる.

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●厚生労働省の調査によれば,既に療養病床に入院している全患者の約8割以上が認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上であるという統計も出ており,もはや療養病床に携わるものにとって認知症は決して避けては通れない疾患である.

●療養病床は,ハード面・ソフト面や医療と介護を一体的に提供できるという特長からも,特に身体合併症を持った認知症患者の受け皿として,今後ますますその重要性は高まるものと思われる.

●今後は,多職種連携の推進と共に,精神科専門医や専門病棟ともより密な連携が必要になると思われるが,そのためにも診療報酬上の見直しや,さらなる評価も必要と考える.

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●認知症高齢者のケアに際してはFrailtyへの対応が重要である.

●当院では認知症予防プログラムを用いた地域づくりとして,リハビリテーションと園芸療法の活用による地域包括ケアに取り組んでいる.

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●急性期病院における認知症高齢者に対応するには,リエゾン精神医療の理解が必要である.

●認知症高齢者の身体治療に際してみられる精神的症候にはせん妄とBPSD(認知症にみられる異常行動と精神症状)が頻繁に出現する.

●認知症高齢者には退院後の環境整備が重要であり,地域の行政・福祉,医師会との密な連携が必要である.

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●まずは本人の訴えをしっかりと聴くことが大切である.

●退院調整は入院の経過や今までの生活スタイルをよく調べて行う必要がある.

●本人とケアに関わるスタッフが,自分の価値を実感できる環境を整えることが管理者の役割である.

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超高齢社会では全ての病院が認知症への対応を求められる.

治療だけでは完治しない認知症のケア体制を地域でどう構築するか.

住み慣れた地域で暮らすことを支える病院のあり方を探る.

連載 Data mania・21

国民医療費×人口構成 鈴木 将史
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調査概要

 本連載第7回では,厚生労働省(以下,厚労省)が毎年発表する「国民医療費」について取り上げました.今回はこの国民医療費調査(以下,本調査)を対象に,さらに厚労省から発表されている人口動態調査や内閣府が公表している高齢化予測のデータを掛け合わせて分析をしてみます.本調査は昭和29年に公表されて以来,実に60年以上の歴史を持つ調査で,「制度区分別」,「診療種類別」に集計され,年齢はもちろん,財源や傷病別にも医療費の比較ができます.一方で,本調査でいう「医療費」とは,あくまでも医療保険制度,後期高齢者医療制度,これらに伴う患者の一部負担を合算した費用であり,保険診療の対象にならない先進医療や正常な妊娠・分娩に要する費用などは含まれませんので注意が必要です.

連載 アーキテクチャー×マネジメント・21

名古屋第二赤十字病院 鈴木 賢一
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■高度医療と機能拡大の歴史

 名古屋第二赤十字病院は,愛知県名古屋市東部の丘陵地に位置する地域の中核的病院である.1914年に結核療養施設として26床で開設されて以降100年以上の実績を積み重ねた現在,敷地面積約34,800m2,建物延べ床面積約76,300m2,812床の高度急性期医療を担う医療施設である(図1).2015年のデータでは,1日の外来患者1,886人,入院患者数740人,平均在院日数は11.4日,年間の救急患者数は38,869人となっている.

 病院を構成する主要な建物は,地下1階地上10階の第1病棟(外来および総合周産期母子医療センター,循環器センター),地下2階地上6階の第2病棟(救急外来,手術室,ICU/CCU,PICU,HCU,SCUなど),地下2階地上9階の第3病棟(研修ホール,血液浄化センター,腎臓病総合医療センターなど),そして地上6階の管理棟,の4棟である(図2,3).病院敷地の前面道路には地下鉄名城線の「八事日赤」駅があり公共交通の利便性がよい.一方で地域の特性か,車による来院の需要も高く,476台の駐車場を用意している.

連載 ケースレポート

地域医療構想と民間病院・9

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■はじめに

 現在,各都道府県で地域医療構想の策定作業が進んでいる.地域医療構想の概要を解説した資料はすでに多く出されているので,詳細について関心のある方は拙著などを参考にしていただければと思う1).地域医療構想では一定の仮定のもとで推計された病床機能別の患者数と必要病床数が地域ごとに示されている.具体的には,内閣府の「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会(以下,専門調査会)」が,①機能分化を進める,②医療区分1の70%を入院以外で対応する,③療養病床入院受療率の地域間格差を縮めるという3つの仮定のもとに,各地域の病床機能別患者数および病床数を推計している.これらの仮定のうち病床数に最も影響するのは②と③の療養病床に関する仮定である.この仮定に基づくと療養病床数はかなり少なくなるが,この推計では「慢性期=療養病床+介護施設+在宅」であり,療養病床の必要量は後二者の状況に依存する.このことは現在療養病床で入院治療を受けている高齢者をどのくらい病院外でケアできるのかという,各地域の地域包括ケア体制の構築状況が高齢者ケアにおいて重要になることを意味している.

 この地域医療構想の推計のうち,急性期から回復期部分のロジック作成は筆者らの研究班も関わっているが,慢性期の推計に関する②,③の仮定については専門委員会における議論に基づいている.この議論を通して筆者の感じたところを率直に述べれば,慢性期医療の現状とその重要性が十分に理解されていないということである.財界やマスメディアの方々の中には「療養病床には社会的入院が多数いて,医療費の無駄遣いにつながっている」という認識がいまだに強い.確かに,専門調査会の議論で提示された性年齢を調整した上でも都道府県間で療養病床の入院受療率に5倍もの差があるという現状は改善すべき点があることを示唆している.こうした問題点を改善する一方で,地域包括ケアにおける慢性期医療の重要性をきちんと評価することが国民の療養生活の質を守るために必要であり,そのためのエビデンスを積み上げていくことが重要であるというのが,筆者の思いである.その方法としては慢性期医療の意義に関する研究を疫学的な手法で明らかにすると同時に,優れた先進事例をもとにその意義の一般性を明らかにするためのケーススタディが必要となる.本稿では,後者の問題意識に基づき,函館市で慢性期病院を拠点として,地域包括ケアの先進的な取り組みを行っている社会医療法人高橋病院を取り上げたい.

連載 事例から探る地域医療再生のカギ・11

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■何が問題だったのか

医師雇用に苦しむ過疎地の病院

 北海道松前町は,北海道最南端の渡島半島南西部に位置する町である.かつては,松前藩の城下町として政治・経済・文化の中心地として栄え,北海道では唯一の城のある町である.函館市から車で2時間(95km)と交通不便な土地にあり,漁業や水産加工,観光など従来からの主要産業は衰退の傾向にある.人口も減少傾向にあり,1970年の国勢調査で18,624人いた人口は2010年には8,750人と半分以下になっている.

 松前町の設置する町立松前病院(100床)は,1990(平成2)年11月に北海道立病院から移管され,町立病院として運営されてきた.北海道のへき地の病院に共通の問題として,医師の雇用に苦労していた.

連載 病院勤務者のためのDPCデータ解析入門・6

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 今回と次回の2回で自院DPCデータのデータベースを構築する.今回はデータベース構築の準備作業として,各DPCデータの加工を行う.まず平成26(2014)年度からその記録様式が大きく変更となった様式1のデータ型を変換する.その後,データベースへ格納する準備として診療年月を追加する.1カ月分のデータでかまわないので実際のデータを用いて実際に作業を行いながら読み進めていただきたい.次回はDPCデータのデータベースへの読み込みを行ったのち,テーブルの結合や関数を用いた計算を行う.

連載 病院組織コーチング・4

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■なぜコミュニケーションにおける個別対応が必要か

 今回は,コーチングをする際に重要な要素の一つである「個別対応」の関わり方を紹介する.個別対応とは言うまでもなく,「人はそれぞれ違う」という認識をもって,人と関わっていくコミュニケーションの方法である.相手をうまくいかせるために,自らを相手に合わせていく関わり方は,ビジネス,医療,教育などさまざまな分野で求められている.しかし,その実現が難しい背景には,個別対応の具体的な「方法」を学ぶ機会が少ないことが挙げられる.

 組織では管理職になると,これまで自分が育てられた体験にもとづいて部下に関わることが一般的に多く,自らの成功体験を部下にも求めることがある.しかし,それは市場の変化,グローバル化,若手世代との価値観の違いが顕著な昨今では通用しない.とりわけ病院組織のリーダーにとっては,直属の部下だけでなく他職種のチーム医療メンバーとの関わりも重要である.その中で,これまで成功してきたスタイルを貫き通すことは,人が育たないだけでなく,何らかのリスクにつながる可能性もある.そこで「人はそれぞれ違う」という当たり前のことを再認識し,相手の職種,経験,能力,コミュニケーションスタイルなどを観察・把握しながら,「個別対応できる能力」を高めていくことが今,求められている.

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要旨

 医療・介護連携の実現に向けて,病院と介護施設の管理会計システムの特徴を明らかにするために,大阪府内に所在する病院と介護施設がもつ管理会計システムの実態を調査した.その結果から,次のことが明らかになった.第1に,地域包括ケアシステムへの対応を重視しているのは介護施設の方であったが,中長期経営計画に含まれる内容が豊富で定量的な目標が明確に設定されているのは病院の方であった.第2に,予算管理やコスト計算に関しては,介護施設の方が優れていることが明らかになった.第3に,これらの調査結果から,医療・介護連携においては,それぞれの管理会計システムの特徴を踏まえる必要性がある.

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基本情報

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病院
75巻9号 (2016年9月)
電子版ISSN:1882-1383 印刷版ISSN:0385-2377 医学書院

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