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■はじめに
現在,各都道府県で地域医療構想の策定作業が進んでいる.地域医療構想の概要を解説した資料はすでに多く出されているので,詳細について関心のある方は拙著などを参考にしていただければと思う1).地域医療構想では一定の仮定のもとで推計された病床機能別の患者数と必要病床数が地域ごとに示されている.具体的には,内閣府の「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会(以下,専門調査会)」が,①機能分化を進める,②医療区分1の70%を入院以外で対応する,③療養病床入院受療率の地域間格差を縮めるという3つの仮定のもとに,各地域の病床機能別患者数および病床数を推計している.これらの仮定のうち病床数に最も影響するのは②と③の療養病床に関する仮定である.この仮定に基づくと療養病床数はかなり少なくなるが,この推計では「慢性期=療養病床+介護施設+在宅」であり,療養病床の必要量は後二者の状況に依存する.このことは現在療養病床で入院治療を受けている高齢者をどのくらい病院外でケアできるのかという,各地域の地域包括ケア体制の構築状況が高齢者ケアにおいて重要になることを意味している.
この地域医療構想の推計のうち,急性期から回復期部分のロジック作成は筆者らの研究班も関わっているが,慢性期の推計に関する②,③の仮定については専門委員会における議論に基づいている.この議論を通して筆者の感じたところを率直に述べれば,慢性期医療の現状とその重要性が十分に理解されていないということである.財界やマスメディアの方々の中には「療養病床には社会的入院が多数いて,医療費の無駄遣いにつながっている」という認識がいまだに強い.確かに,専門調査会の議論で提示された性年齢を調整した上でも都道府県間で療養病床の入院受療率に5倍もの差があるという現状は改善すべき点があることを示唆している.こうした問題点を改善する一方で,地域包括ケアにおける慢性期医療の重要性をきちんと評価することが国民の療養生活の質を守るために必要であり,そのためのエビデンスを積み上げていくことが重要であるというのが,筆者の思いである.その方法としては慢性期医療の意義に関する研究を疫学的な手法で明らかにすると同時に,優れた先進事例をもとにその意義の一般性を明らかにするためのケーススタディが必要となる.本稿では,後者の問題意識に基づき,函館市で慢性期病院を拠点として,地域包括ケアの先進的な取り組みを行っている社会医療法人高橋病院を取り上げたい.
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