公衆衛生 39巻12号 (1975年12月)

特集 第16回社会医学研究会

要望課題

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1.はじめに

 「法と健康」の要望課題のうち,第一日目午前に報告されたものとその主な討議内容について集約し報告する.6題の報告は健康の面ではすべて職業性疾患についてであり,頚肩腕障害,じん肺,白ろう病が取り上げられたが,この労働者の健康問題に対応する法としては労働基準法,労働安全衛生法,労災保険法,じん肺法などがあり,各報告の法とのかかわり合いは各々いろいろの角度から,また面でなされているため,単純に共通性を見出すことは難しかった.ただ共通することは,具体的問題では,法それ自身よりも,本来その法が生かされる行政や,法にもとづく規則や通達などの面で現象的には大きな問題があることの指摘であるが,同時にそれは法の精神,その法の由来などとも深いかかわりがあることが報告のなかから浮びあがっているものの,この点での討議は必ずしも十分尽くすことはできなかった.

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 「近年,健康と医療にかかわる法律への関心の高まりがみられます.たとえば,各種の公害訴訟や医事法制への関心の高まり,『刑法改正』をめぐる世論の高まり,予防接種のあり方など,衛生行政と関連法規をめぐる再検討の動きなど,法律(ないし法学)から健康の視点への接近が具体的な形で,活発におこなわれつつあります.社会科学との協力を積極的に追求する社会医学研究会として,『法と健康』という主題は,きわめて今日的課題と考えます.」(第16回社会医学研究会総会開催案内及び演題募集より)そこで「国民の健康を守るべくつくられた法律が,その機能を果しているか,あるいは人の健康が法律でどのように守られているか,というような問題が取り上げられるとともに,"Birth Right of Health" などという言葉を漠然とではなく,キチンと考えてみたい」(抄録集世話人あいさつより)というよびかけにこたえて多数の演題がよせられた.そのうち,演題番号7から15までの9演題の発表と討議の内容の概略を紹介する.

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 「法と健康」—この要望課題にたいして,いくつかの意欲的な報告と討議が行なわれた.私どもが司会した演題は,主として化学物質による労働者あるいは住民の健康被害—職業性中毒,有害食品中毒,公害被害—に関するもの10題である.それらの報告の要旨を紹介し,討論の要点を述べ,あわせて司会者の印象と見解をつけ加えたい.

 なお,この要望課題のもとに,他に頚肩腕障害,じん肺,白ろう病などの労働衛生の問題が報告され,また労働衛生に関する自由集会が持たれた.これらにも共通するものが多くあったことを付記しておく.

シンポジウム

健康の権利と公共の利益 吉田 克己
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1.はじめに

 第16回社会医学研究会が熊本で開催されるに当たって,世話人の野村茂教授(熊本大学医学部公衆衛生)は,研究会の主題として『法と健康』という課題を設定された.このことは,本年度の研究会総会の開催案内や総会に当たっての野村教授のあいさつにもみられたように,この点が社会医学研究における今日的な大きな課題であることを示している.それは,「たとえば,各種の公害訴訟や医事法制への関心の高まり,『刑法改正』をめぐる世論の高まり,予防接種のあり方などの衛生行政と関連法規をめぐる再検討の動きなど,法律(ないしは法学)から健康の視点への接近が具体的な形で活発に行なわれつつある.社会科学との協力を積極的に追求する社会医学研究会にとって,このテーマはきわめて今日的な課題と考えられる」(研究会総会開催案内より)ということや,

 「本会はその発足当初より社会医学の研究には社会科学の方法論や成果をとり入れる必要があり,研究会にも社会科学者の参加を得るように努めるべきだとの考えをもって今日に至っている.

特別報告

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Ⅰ.社会医学研究会設立までの経緯

 社会医学研究会設立前後の事情については,社会医学研究会準備会記録,および第9回社会医学研究会(京都光明寺)記録の丸山世話人「あいさつ」でつぎのような内容が述べられている.かいつまんで記すと,1955年4月(昭30)の第14回日本医学会総会(京都)のとき,京都市大徳寺大仙院で「全国公衆衛生懇談会」が,公衆衛生関係者のボランティア運動の全国的な連けいを図ることを目的として持たれ,—この間の事情は,庄司光:大阪における公衆衛生活動の問題点と将来の動向,公衆衛生,22,8:448-453.(昭33)にくわしく述べられている—また,1957年(昭32)の日本公衆衛生学会総会(大阪)の際には医療保障の自由集会がはじめて持たれた.これらの集まりはその後毎年,公衆衛生学会あるいは衛生学会が開かれる折に,「自由集会」の形でつづいており,同学の士の各地での活動経験や知見の交流の場となっていた.これらの集会ははっきりした規約とか組織もない全くの有志の集まりであったが,席上日本の医療公衆衛生の発展のためには,その経済的,社会的条件の究明をぬきにしては考えられず,そのような研究や調査活動を進めるための自らの組織を持ちたいという希望が強く出されていた.

座長のまとめ 曽田 長宗 , 野村 茂
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 この特別報告に先立って,共同座長の曽田世話人も述べられたように,15年前の社会医学研究会の発足には,今次大戦後における新しい社会体制下の国民の生活と健康の実態,そして衛生行政や医学教育・研究の動向を直視する有志の間に,日本の医療と国民の保健を向上させるためには本会が趣旨とするような視角で医学の問題が把えられることが必要であると考える思潮が高まって,本会が産声をあげたという,当時の現実があったのである.

 いま,演者の述べるところによれば,本会設立の準備会は1958年福岡の学会の折にもたれたとのことであり,また,熊本が,わが国の社会医学の草創の頃の先駆者・国崎定洞先生の御郷里であることなどを思い起こすとき,本総会を当地で開催することに,いまさらながら少なからざる因縁を覚える.演者が指摘するように,今日のこの社会医学研究会の歴史は15年であるが,その歩みを把えるためには,日本の医学の中の重要な課題への社会医学的接近がどのようになされ,社会医学的調査・研究のいかなる成果がみられてきたか,そして医学の中におけるその位置づけがどのようであったか,などを振り返ることなくしては果たせない.

一般報告

演題1〜8 丸山 創 , 木下 安子
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 現代医療の中で.沢山のパラメディカルスタッフの参加によるチーム医療が行なわれている.しかし,医療機関の状況は,各部門の機能が充実しているとはいいがたい.特に病院経営上メリットのない部門は,人員の配置も不十分で,きわめて不満足な体制のまま放置されている.その代表的なものが看護部門であろう.看護婦不足は社会問題として国会等でも論議されるが,少しも解決されずますます深刻な状況となっている.社会医学研究会において,これらの問題が論じられることは,きわめて当然のことと考えられるが,過去15回までの演題にはあまり見られなかった.今回,看護婦・付添婦の労働条件をめぐる演題が3題あったことは歓迎すべきでありまたこれからも引き続き検討してほしい課題である.

 我が国の医療のもう一つの弱点として,在宅療養患者に対する訪問看護システムの欠如がある.すでにイギリス,北欧諸国等では地方自治体の業務として定着し,国民の権利としてサービス提供が行なわれている.我が国でも社会的機能として位置づけ,発展させる必要がある.社会医学研究会においては初期の段階からこれらに関連した演題は提出されており,ことに1970年,第11回総会では老人保健をめぐる論議の中で,老人に対する訪問看護サービスの重要性が指摘された.また1974年,第14回総会では難病患者の医療・看護に関する演題により,難病患者に対する訪問看護サービスの有効性が論じられている.

発言あり

医事訴訟の増加
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求められる患者—医師間の新しいルール

 医師法第19条は,「診療に従事する医師は,診察治療の求めがあった場合には,正当なる事由がなければこれを拒んではならない」としている.このことは,患者をより好みすることができないことで,契約自由の原則が通用しないことを示している.すなわち,医師は一方的に契約締結を強いられるという身分法上の制約を受けている.それに対して,患者には医師を選択する自由があり,契約自由の原則が通用しているように思われる.ところが,医療内容に関しては,患者は専門家ではないので,専門職としての医師の一方的判断にゆだねなければならない事態となる.患者—医師関係を医療契約としてみた場合,医師にとっては患者からの一方的契約申し込みを断わることができないという立場にある反面,患者にとっては医師から一方的に医療内容を決定されるという関係にある.訴訟にいたる医事紛争の大部分においては,この契約関係上の意思確認が十分なされていなかったことによるものと思われる.

 以上の見解に従って,診療を求められた場合に承諾書をいろいろ交換して診察・治療が進められるということになると,医師は「やりにくい」と感じ,患者は「形式的な」と受けとるという場合がある.通常の診療の場合は厳密な契約関係上の意思確認など必要ないかもわからないが,いったん訴訟が起こったとなると,このことが実に重要な事項となることを認識しておいた方がよい.

研究

染色体異常の疫学 渡辺 厳一
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"Old Wine in a New Bottle"

 遺伝的な背景をもつ疾病は,つぎのように分類される.第1は,単純な変異体による疾病ないし症候群,第2は,染色体の数や構造の異常による疾病ないし症候群,第3は,多因子遺伝といわれるもので,遺伝子群と環境との相互作用によって決まる遺伝的な素因,である.以上のほか,第4として,母子不適合,例えば,胎児赤芽球症のように,母児間血液型不適合によるものを加えることができる.

 さて,過去15年間における人類遺伝学の知識の集積は,医学の中で,すでに独立し,しかも中心的な"discipline"へまで急速な発展をするにいたった.

連載 公衆衛生の道・9

老人保健への指向 山下 章
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保健所長横すべり

 麹町保健所は部長への登龍門,誰もがそんな風に思っていたし,事実私の前の所長まで,兼務を除いて5代,すべて部長さらには局長と昇進していった.発令の2日前の夜,総務部長からまことに歯ぎれの悪い電話があった.「先生は麹町にきて6年になるので,どこかに動いてもらわなければならないのですが,都内で唯一の成人病検査センターのある日本橋でよろしいでしょうか」と,苦しまぎれの理屈をつけてきた.言下に「結構です,どこへでも行きます」と答えたら,大変に安心したようであった.

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基本情報

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公衆衛生
39巻12号 (1975年12月)
電子版ISSN:1882-1170 印刷版ISSN:0368-5187 医学書院

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