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今更言うまでもなく,時代は大きな転換期を迎え,先の見通しは立てにくい.その中にあって,「現代社会の種々の矛盾に満ちた現象は,高度成長をなお追求しつづける慣性の力線と,安定移行期に軟着陸しようとする力線との,拮抗するダイナミズムの種々層として統一的に把握することができる」という社会学的記述4)は,説得力がある.超高齢化と人口減少という人口激変期の高台に立って,「新地域医療」について私論を述べたい.
「社会的共通資本」は,宇沢弘文7)によれば“自然資本”と“社会的インフラストラクチャー”と“制度資本”の3つのカテゴリーに分類される.このうち制度資本は,教育,医療,金融,司法,行政などで,いかなる所有形態であってもその維持,管理はコモンズによって行われる必要がある.コモンズとはもともと牧草地などの共有地,あるいは日本の場合「入会」という意味で,その地域社会の人たちが利用しているので,フリーアクセスではなく,顔と顔との関係等々が出来上がっている人々が管理している.すなわち信託されたものとして適切に管理される.つまり,「コモンズの悲劇」(ギャレット・ハーディン,Science, 1968)というのは,コモンズという共有地の上に,人間のコモンズが形成されていなかったときに生じる悲劇であって実際には起きない1).神野直彦の論述を借りると,医療というのは医者がサービスの供給者,患者がサービスの需要者ではなく,それは市場の取引関係に基づいて提供されるというのではない.医者と患者が共同体をつくって悲しみや痛みを分かち合う,これが医療行為である.つまり健康を取り戻すという共同作業を,医者と患者が「癒しの共同体」をつくって行うこと,これが社会的共通資本の考え方である.
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