Neurological Surgery 脳神経外科 30巻10号 (2002年10月)

若葉の心 峯浦 一喜
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 初夏の風がさわやかな昨今,下鴨神社の境内には春落ち葉が散り敷いています.新緑の季節に,うす茶色の葉が舞い落ちてくる不思議に驚き,常緑樹が夏に向けて準備しているのだと知りました.この文が掲載される頃は,美しい紅葉の便りがちらほら聞こえることでしょうが,秋の落ち葉とは違って,春の落ち葉にはもの悲しさはなく,次に備える若葉に力強い自然の息吹が感じられます.

 下鴨神社に連なる800メートルにおよぶ糺(ただす)の森には平安の昔よりの木々がうっそうと生い茂っています.京都に移り住んで3年半.自然が豊かな東北の地にほぼ半世紀も暮らしていながら気付かなかった自然の細やかな摂理に,この森で出会い,驚きを感じることがしばしばです.

総説

臨床脳循環—最近の動向 小笠原 邦昭
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Ⅰ.はじめに

 従来,脳循環測定は必ずしも臨床に不可欠なものとは言い難く,研究者にとっての病態を観察するための手段にすぎなかった.一方,以前より臨床に用いられていたSPECT(single photon emis-sion computed tomography),PET(positron emis-sion tomography),Cold Xe CTの画像処理法の進歩に加え,最近注目されている造影CTあるいはMRIの灌流画像の開発により,3次元的局所脳循環の測定が比較的容易となってきている.これに伴い,臨床にも広く応用され,日常的に局所脳循環画像を見ることができるようになった.しかしその反面,脳循環代謝に関する基礎的知識や測定原理の理解がなくても実際の測定は可能となったので,観測画像や測定パラメーターの解釈上の誤りがしばしば起こり得る.

 本稿では,まず脳循環測定の原理を解説した後,各脳循環測定法の特徴について述べ,最後に本稿の主旨である臨床脳循環に関し,最近報告された知見について概説する.

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Ⅰ.はじめに

 一般的に言えば,慢性硬膜下血腫は穿頭術で血腫吸引や血腫腔の洗浄を行うことで神経症状が回復する転帰良好な疾患である.しかし,その成因や病態については現在も不明な点が多い.これまでに慢性硬膜下血腫の症例について脳血流を調べた報告はされているが1-3,5,6,9-12),運動麻痺などの神経症状が出現する原因は,脳血流の低下か否かは分かっていない.今回われわれは,慢性硬膜下血腫の脳循環代謝を術前,術後に経時的にPETを用いて測定し,運動麻痺の出現について検討したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:dAVF)は,静脈洞壁に存在する硬膜血管の動静脈シャントと考えられているが,その病因,病態,予後については未だ不明な点が多い.一般的には耳鳴りや拍動性頭痛などの症状で発症し,緩徐な経過をたどる予後良好の疾患であると考えられているが,脳内出血,くも膜下出血,静脈性梗塞等による急性発症で重篤な症状を呈する例も存在する.今回われわれは自験例について検討し,出血を来しやすいdAVFについて文献的考察を交えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 最近のmulti-detector row CTなどCT装置や撮像技術の進歩により,頭蓋内構造の詳細な情報が連続したvolume dataとして容易に取得されるようになった.また,ワークステーションでの可視化画像再構成技術(computer visualization soft-ware)の革新により,高品質な3次元CT画像(three-dimensional computed tomography,3D CT)が,元画像volume dataからきわめて短時間で作成可能となってきた3,6).3D CTは,CT angiogra-phyでの脳血管内腔の描出や頭蓋底・顔面複雑骨折での骨折線描出など,関心構造物の立体的構築を把握するうえで,脳神経外科領域で幅広く臨床応用されている3,4,6-13)

 脳槽CTは,髄液腔に造影剤を投与することで,髄液CT値が均一に陽性増強される能動的脳槽描出法である.脳槽CTでは,神経,血管,脳動脈瘤,腫瘍などの脳槽内占拠性構造物や脳槽に隣接する頭蓋底骨構造,脳表などで構成される解剖学的脳槽周囲構築が,髄液腔との関連において,陰影欠損像として,画像上明瞭に区別される.脳槽CTは,脳槽内構造物の形態学的構築を把握する上で,最も空間分解能の高い画像診断法とされている1,2)

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Ⅰ.はじめに

 脳神経外科領域では,術後感染予防のために,皮膚常在菌であるブドウ球菌を想定した予防的抗菌薬の投与が一般的に行われている.ブドウ球菌の多くがペニシリナーゼを産生するため,予防的抗菌薬は主として第一または第二世代セフェム系抗生剤が使用されることが多い.脳神経外科手術症例の感染防止に対して,以前よりセフェム系薬剤やバンコマイシンを用いたcase-control studyによる抗生物質予防的投与の有効性が報告されている3,8,10,13,19).一方,本邦の多くの病院では院内で分離されるメチシリン耐性ブドウ球菌(MRSA)が増加し,MRSAによる術後感染症が増えている現状において12),術後感染対策としてMRSAを考慮した抗菌剤の予防的投与が必要と考えられる.

 スルバクタム/アンピシリン(SBT/ABPC)は,ペニシリナーゼを強く阻害するβラクタマーゼ阻害剤を配合しており,ブドウ球菌に対する抗菌力は強く,また,高度耐性化MRSAを誘導しにくいと報告されている11).今回,脳神経外科領域術後感染予防薬の可能性としてSBT/ABPCを使用し,感染予防効果およびその副作用について検討したので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 脳脊髄液は脳室内の脈絡叢で産生され,脳室内から脳表のくも膜下腔へ流出して,くも膜顆粒を通じて上矢状洞へ吸収されると考えられている13).この流れが障害されるために起こる水頭症に対して,通常脳室腹腔短絡術(ventricolo-peritoneal shunt,V-P shunt)を行うのが,一般的である.しかし改善されたとはいえ,この手術においては流出路が腹腔であるために,流出過多によるslit ventricle syndromeや硬膜下血腫の合併,あるいはシャントチューブが長いために起こる腹腔側チユーブの閉塞等の問題点が依然残っている.われわれは,くも膜下出血後の水頭症で,術後脳梗塞に伴う脳浮腫に対して外減圧術と硬膜の減張縫合を行ったのちに,帽状腱膜下腔に髄液が流入して吸収され,水頭症が自然緩解した症例を経験した.この症例における脳脊髄液の吸収過程から,より生理的なV-P shunt手術はどのような手術かについて考察をしたので報告をする.

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Ⅰ.はじめに

 細菌性脳動脈瘤は,感染性心内膜炎に続発する感染性塞栓によることが多いとされているが,頭蓋内外の感染,炎症の直接的な波及もその原因の1つであると言われている.われわれは,発熱で発症し,その後段階的な巣症状の悪化を呈した,脳膿瘍と細菌性動脈瘤を合併した症例を経験したので,文献的考察とともに報告する.

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Ⅰ.はじめに

 放射線照射による頸部頸動脈狭窄症では,通常の頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)と異なり,周囲組織の癒着による頸動脈の露出が困難な場合や,血管全層にわたる病変のため肥厚内膜の剥離が困難な場合が多いとされている.近年,本疾患に対する治療法として,ステントを併用した経皮的血管形成術(percutaneous transluminal angioplasty:PTA)の有用性が報告されている5,11)が症例数は非常に少なく,また本邦における報告はきわめて少ない.今回,われわれは,本疾患を有する3症例に対して,ステントを併用した血管形成術を行い,良好な結果を得たので報告する.

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Ⅰ.はじめに

 椎骨動脈解離は若年成人では比較的多くみられ,特に後頭蓋窩の脳卒中の重要な原因の1つとして知られている3).一般に椎骨動脈解離は一側性であることが多く,両側の椎骨動脈解離の報告は比較的稀である.今回われわれはくも膜下出血で発症した両側椎骨動脈解離に対し,二期的に両側の椎骨動脈の近位部塞栓術を行い,良好な結果を得た症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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Ⅰ.はじめに

 頭部外傷に硬膜動脈偽性動脈瘤を合併した場合,遅発性に出血を起こし,状態の悪化をもたらすことがある.今回筆者らの経験した後硬膜動脈偽性動脈瘤は,後頭蓋窩に出血し,テント上に比べ重篤になりやすい.そのため,血管撮影にて再出血を未然に防ぐことが大切である.しかし,血管撮影の適応と時期の決定は難しいことも事実である.筆者らは,今回の症例および過去の症例報告を検討し,血管撮影の適応と時期を考察した.

連載 脳外科医に必要な神経病理の基礎・4

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Ⅰ.脳軟化症の病理

 脳梗塞は現在でも心疾患と並ぶ死亡率を示し,脳梗塞を主体とする脳血管障害で医療を受けている患者数は第5位を,これに対する医療費は1位を占めるといわれる6).脳梗塞とは虚血性脳障害のうち器質的障害をもたらしたものである.脳梗塞の分類には発生機序,臨床病型,壊死の種類,責任血管あるいは発生部位によるものなどいろいろある.発生機序による分類としては大きく脳血栓症および塞栓症に分けられる.それに加え1990年の米国のNINDS—Ⅲ分類は血行力学性梗塞(hemodynamic infarction)が加えられた.

 脳梗塞は動脈の支配領域に生ずる壊死であるので,閉塞部位によりその範囲が限定され,その病巣分布によりどの動脈の閉塞により生じたか指摘することができる.

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Ⅰ.より良いサービスをより安く,多くの人に

 現在,医療保険制度が破綻寸前であることは周知の事実であるが,これに対し医師会や学会などの医療界も,保険者も国民も厚生労働省も皆自分の都合を主張するのみで,マクロ的なものの見方を失っており,とりあえずの対症療法だけを模索している状況だと私は思う.

 日本は今年,53歳の人口が240万人であるのに対し,10歳の人口は半分に過ぎない.ということは今のままのシステムを維持しようとするならば,12年後には,払わずにもらうだけの人口に対して,社会人として税金や保険料を支払ってこれを支える人口が半分になってしまうわけで,全収入の3分の2を源泉徴収されるような世の中がくるということである.この厳しい現実に対して医療界は,1)国民皆保険の維持は至上命題である,2)受診率を下げないように自己負担の増額には反対である,3)診療報酬に関してはまだまだ足りず引き上げを要求する,という立場である(多くの医療機関が先般の診療報酬2.7%引き下げに対し,猛烈な反発を示したのはご存知の通り).それなら残る方法は,1)保険料および企業負担を増やす,2)税金など公的資金の投入を増やす,ことしかないではないか.これはマクロの目で見れば,いずれにせよ国民負担を増やすことになるわけだから,国民も,票が欲しい政治家も,保険者も納得するはずがない.

連載 医療保険制度の問題と改革への提言・8

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Ⅰ.はじめに

 どの国にも完壁な社会保障制度はない.しかし,未曾有の少子・高齢社会に突入する日本にとって参考にすべき国が,同じアジアにある.シンガポールである.「シンガポール・モデル」こそ,21世紀の日本が目指すべき姿である.

 医療制度に関しても見習うところが多い.その1つは,シンガポール政府が1984年に導入したメディセーブ口座制度である.これは医療費を個人の貯蓄口座でまかなうものである.シンガポールにおける医療費適正化の一因は,シンガポール国民が国や保険会社に頼らず,自分自身で医療費を支払ってきたことにあるとされる.シンガポールにおける入院率は米国と同程度であるにもかかわらず,同国の医療費はGDPのわずか3.1%である.これに対して米国の医療費はGDPの14%,日本は7.3%に上る.

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 2002年6月28〜30日,フランスのAix-les-Ba-ins市で開かれたNeuromodulation 2002—Defining the Futureに参加した.この会はThe Cleveland Clinic Foundationの主催で毎年,若手機能神経外科医達のために世界の権威を集めワークショップ形式で勉強する機会を与える会である.

 毎年,風光明媚な地方に開催地を求め今年はエクス・レ・バンとなった.私自身は本会に参加するのもエクス・レ・バンを訪れるのも初めてであったが,内容の濃いレクチャーを受けすばらしい風景を眺望し,学習の面でも保養の面でもたいへんに実りの多い旅となった.

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
30巻10号 (2002年10月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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