Neurological Surgery 脳神経外科 28巻4号 (2000年4月)

華岡青洲と脳外科手術 板倉 徹
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 私の大学から車で1時間の距離に華岡青洲の生家がある.ミカン畑の中でほとんど人通りのない寂しい場所である.青洲存命中は全国から青年医師が教えを請いにこの地に来た.もちろん近隣から多くの患者が押し寄せ,「門前市をなすがごとし」と伝えられている.

 この華岡青洲が世界に先駆けて全身麻酔下に乳癌の摘出手術を行ったことはよく知られている.乳癌以外にも各種の癌から外傷,眼科疾患,口蓋裂,生殖器,運動器疾患と,その疾患が多岐におよぶことにはまったく驚かされる.その症例の記載は実に詳細で,「摂州大阪,長堀玉造橋,紀ノ国屋弥助は二十五,六歳頃から淋疾を患い,数年後に石淋となる.」といったぐあいに尿路結石の症例が記載されている.もちろん,手術方法は独創的で,その記載は豊富な図を示して完璧である.

解剖を中心とした脳神経手術手技

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I.はじめに

 頭蓋内硬膜動静脈瘻は硬膜動脈を主な流入動脈とし,硬膜静脈洞(あるいは稀に脳表静脈)に流出する動静脈シャントである.その多くは横・S静脈洞部および海綿静脈洞部に発生するが,前頭蓋底,上矢状静脈洞,静脈洞交会,テント,下錐体静脈洞,辺縁静脈洞などにも稀にみられる.また静脈洞を介さず,テント上下の脳表静脈に直接流出するタイプもみられる.本疾患の本態は静脈洞壁に存在する硬膜血管の動静脈瘻と思われるが,その成因や進行機序については未だ不明である.本疾患はしばしば治療に難渋する疾患であったが,近年の血管内治療の進歩によりその治療成績は飛躍的に向上した.

 本稿では主に血管内治療のスタンダードな方法について述べ,さらに治療難渋例の外科的治療について著者らの経験を紹介したい.

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I.はじめに

 頭蓋底外科の発達により,従来到達することさえ極めて困難であったような病変に対しても手術適応が広がってきた.今回,われわれはmid-skull-baseの脊索腫の症例に対し,infratemporal fossa approach(Fischのtype C approach3,4,6,12))を使用し安全に摘出しえた.手術解剖を述べるとともにわれわれの工夫も含め本到達法の有用性を報告する.

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I.はじめに

 脳梗塞の画像所見は時間経過とともに変化することが知られている.その初期変化をいち早く捕えて治療に結びつけることが重要であり,閉塞性脳血管障害のtherapeutic time windowは3-6時間以内と言われている.しかしながら,従来の検査法では発症より6-8時間以上が経過し組織学的な形態変化が起こった虚血巣がとらえられるのみで,すでに不可逆的となった領域が描出されるに過ぎなかった.近年,MRIによる拡散運動の画像化(MRI拡散強調画像:以下DWI)が進歩し臨床利用されるようになり3-6,10,18),虚血巣の描出に強く威力を発揮している.これは虚血後の初期変化である細胞性浮腫の段階にある病巣をとらえることが可能なためで,早き期画像診断の手法として,また治療方針決定の重要な指標として期待されている.われわれは脳主幹動脈閉塞症のDWI所見を4つのタイプに分類し急性期血行再建の適応について報告した8).今回はtherapeutic time window内の発症6時間以内に搬入された閉塞性脳血管障害症例を対象に,初回DWI所見を発症からの経過時間と残存血流量との関係について検討し,その所見より考えられる閉塞性脳血管障害の病態について考察した.

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I.はじめに

 Posterior circulation(後大脳動脈及び椎骨脳底動脈系)の末梢部に発生する脳動脈瘤は非常に稀であり,その治療に苦慮することが多い.われわれは最近7例のposterior circulationの末梢性脳動脈瘤を経験した.これらの経験をもとに,pos-terior circulationの末梢性脳動脈瘤に対する治療戦略について論ずる.

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I.はじめに

 くも膜下出血で発症した解離性椎骨動脈瘤(以下VA-DA)の治療として椎骨動脈の近位側閉塞が広く行われてきたが,術後に再破裂を来たすことがあり,再破裂予防の手技としては不完全な方法であると指摘されている,特に1992-1993年にかけてVA-DAが後下小脳動脈(以下PICA)より遠位にある場合にPICAより近位で閉塞すると閉塞後も対側椎骨動脈から同側PICAへの逆行性血流のためにVA-DAが還流され破裂する恐れがあると報告されてからは9,19),PICAとVA-DAの間で閉塞される傾向になった.しかし,その後の術後再破裂の報告を検討してみるとPICAとVA-DAの間で閉塞されているにもかかわらず,やはり再破裂が生じていることが分かる1,2,8).今回,破裂VA-DAの近位側閉塞後に再破裂を来たした報告例を検討し再破裂に至るメカニズムについて考察する.

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I.はじめに

 Malignant rhabdoid tumor(以下MRT)は小児の腎に好発する極めて悪性度の高い腫瘍である.中枢神経系原発のMRTはこれまでに80例の報告があるが,小児例が多く成人例は極めて稀である.今回われわれは急速な視力障害を呈した鞍上部原発のMRTの成人例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

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I.緒言

 “Adenoid”glioblastoma(glioblastoma with“adenoid”formation)はglioblastomaの稀な組織学的亜型の1つであり,腫瘍細胞が上皮様,腺管様の組織構築を示すために,上衣腫や腺癌の転移との鑑別がしばしば問題となるものである10,11).本腫瘍の記載はKepes et al(1982)10)に始まり,本邦では著者の1人(MS)がその電顕像を含めて報告しているが20),その後の報告は少い6,7,9).われわれは多発性の病巣を形成した本腫瘍の1例を経験したので,その病理所見を中心に報告し,文献的考察を加える.

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I.はじめに

 頸部内頸動脈の高位病変は,下顎骨,下位脳神経,咀嚼筋群などが障害となり外科治療が困難であり,幾つかのアプローチが工夫されている.今回われわれは,一過性脳虚血発作(TIA)を反復した後,minor strokeを生じ,その原因として頸部内頸動脈高位病変(第1頸椎下縁から第2頸椎椎体レベル)が疑われた1例を経験した.内頸動脈(ICA)が分岐後内側へ走行し,動脈瘤も疑われたため,下顎骨垂直骨切り術を行い,広い術野で満足すべき手術を行うことが出来た.本法の詳細を述べ適応について考察を加えたので報告する.

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I.はじめに

 もやもや病は内頸動脈終末部の内膜肥厚に始まる進行性閉塞性病変とそれに伴う脳底部の異常血管網を特徴とし,病期の進行は主として小児期にあり,成人発症もやもや病での病期の進行の報告は少ない.また,もやもや病疑診例(片側性)の自然経過については未だ不明な点が多い.今回,われわれは,患側に対する血行再建術後1カ月で,対側の閉塞性病変が急激に進行した成人発症もやもや病を経験したので,若干の文献的検討を加え報告する.

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I.はじめに

 両側脳主幹動脈に狭窄を認める場合には鑑別診断としてもやもや病が挙げられるが,その診断は脳血管撮影上の診断基準を満たし,さらに脳血管障害を来たす基礎疾患がないことが条件となる.しかし診断基準を満たさない症例や脳血管障害を来たす可能性のある基礎疾患を合併した例であっても必ずしももやもや病は否定できず,その診断は慎重に行われなければならない.今回われわれはBasedow病を合併した患者が脳室内出血にて発症し,脳血管撮影にて両側脳主幹全動脈の狭窄を認めた症例を経験した.もやもや病を疑って治療を始めたが,Basedow病の治療に伴い脳主幹動脈の狭窄が改善したことから,脳血管狭窄を来たす基礎疾患としてBasedow病の可能性が疑われた.今回画像所見を中心にBasedow病と脳血管狭窄との関連について若干の文献的考察を加え報告する.

読者からの手紙

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 当院でも,脊髄の後方除圧をする場合,椎弓切除術の欠点を補うものとして登場した脊柱管後方拡大術を行い,さらに脊椎後方支持組織の変形や拘縮を防ぐことを考え,頸椎ではtension-band laminoplastyを行っています.

 椎弓側方拡大形成術の際に,アパセラム®spacerを固定する絹糸を通すのに,成書に従うと,まずair drillで開けた椎弓の穴をキルシュナー鋼線の尖端を曲げて使い,骨髄層を貫通させますが,力をいれ難く,深い術野の脊髄の傍では精神的に神経質になります,次にアロンアルファを絹糸の先につけて硬くして,椎弓の骨穴を通すわけですが,骨髄のスポンジ層に引っ掛かり,いらいらさせられます.そこで,簡単な工夫をして上手に通しています.方法は「裁縫針の糸通し」を利用します.アルミの薄い板に菱形の極細いバネの鋼線が付いたもので,洋裁店,所謂100円市で,3個一組で買えます.それと,バックハウス布鉗子の先端の角度を少し伸ばしたものを椎弓形成術用に単品として準備します.まずair drillの尖端極小を使い型どおり穴を開けますが,穴は上下方向に楕円に3×2mm程の穴を椎弓側と外側塊の外板に開けます.先端を伸ばした布鉗子で穴をつまんで骨髄腔を通し拡げます.糸通しの鋼線部分を彎曲させて癖を付けておき,外板側から穴に差し込むと,骨髄のスポンジ層に引っ掛からずに通せます.これに糸を通して引き抜けばいいわけです.「裁縫針の糸通し」は閉頭の際の骨弁を固定する穴通しにも応用できます.尚,バネ秤による耐張力は平均1.2kgまで鋼線が抜けることなく固定強度を持ち,椎弓形成術の糸通しに使えます.消毒は鋼線の腐食を避けるために,エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌をして単品で準備します.医療器具として造る程のものでなく,かえって日常の物を工夫し利用して手術するのも楽しいものであり,手紙に書きました.

読者からの手紙 青木 信彦
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 最近,貴誌にて発表された天野らの論文1)は興味深い内容で,全く同感であるとの観点から意見を述べさせていただきます.読者諸先生の多くも経験されていることとは思いますが,とくに女性の患者さんに脳外科手術の説明をした場合,患者さんの一番の心配が坊主にされることであることはまれではなく,むしろ一般的な現象となっています.脳外科医として危険な手術を成功したと思っていても,全剃毛をうけた患者さんが失った髪の毛にばかり嘆き悲しむ姿は多くみうけられます.状況のいかんにかかわらず,頭を丸めるということは日本人にとっては耐え難いことではありましょう.

 小生は原則として手術は部分剃毛または無剃毛で行ってまいりました.そして,部分剃毛の場合は術者である自分で剃毛いたしますが,この程度のわずかな剃毛と思っていても,鏡を見た患者さんは“えっ”こんなに髪を切るんですか、と泣かれてしまうこともまれではありません.たしかに,全剃毛でも,よくできたヘアーピースもあり,また1年もたてば何とかみられるようになりますが,その間に受ける患者さんの精神的な苦痛は,とくに危険な手術に挑戦する脳外科医(とくにベテランといわれる年齢層の)には理解できないようです.また,このようなcosmeticな面ばかりではなく,髪の毛イコール不潔という考えも依然,根づよいものがあるのかもしれません.皮膚も毛髪も基本的には同じクリーン度であり,毛髪があると不潔というわけではありません.残念ながら著者らの論文では引用されていませんが,このことはすでにいくつかのシリーズでdocumentされており一読に値します4-6).小生のimpres-sionでは剃毛,とくに昔行われていた逆剃りなどは細菌の侵入を防御している皮膚の損傷を来たすことから,逆に好ましくないとも考えています.小生の勤務する施設が新宿歌舞伎町という特殊性もあるとは思われますが,若者の毛髪への執着には想像を絶するものがあります.小さな頭部外傷での創部周囲の剃毛でも極度に拒否することも珍しくなく,無剃毛でステープラーによる縫合や,浅い創傷にはhair-braiding closure2),などという方法もとっています.また,慢性硬膜下血腫には経皮的硬膜下穿刺で治療していますので3),直径1cm以下の剃毛で十分です(この場合,術直後からほとんど無剃毛と同じ),また,著者らは「シャント再建術は学童期に行われることも多く,女児においては頭髪を失うことは通学の妨げになるが,全剃毛はやむを得ない」と述べていますが,小生は部分剃毛でも問題はないと考えています.つまり,Fig.1のように数カ所に皮膚切開の部分をあらかじめ決めておくことで部分剃毛によるVPシャントは施行可能です.一方,これまで術後の洗髪は抜糸以後に行われてきましたが,皮膚はステープラーで縫合していますので小生の施設では術後2-3日で通常の洗髪をしています(ドレーンの入っている場合は抜去の翌日から).意識のある患者さんでは皮膚切開の周囲の?痒感は少なくありませんし,周囲に付着した血液などは感染につながるとも推測されます.創閉鎖がきちんとしていればステープラーで縫合した状態は抜糸や抜拘してまもなくの状態より汚染しにくいと考えています.このことについては現在prospec-tive studyを予定しています.以上,著者らの意見に賛意を示すとともに,less invasive surgeryは,患者さんの精神面でもless invasivenessであるべきことを強調したいと思います.

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 平成11年11月20日から23日にかけて,Interna-tional Conference on Recent Advances in Neurotrauma-tology(ICRAN)’99が台北で,Wen-Ta Chiu教授を会長として開催された.近年のICRANは,東京慈恵会医科大学の中村紀夫教授が軽井沢で開催されたICRAN’92をはじめ,Gold Coast,AustraliaのICRAN’94,Rimini-Riccione,ItalyのICRAN’96といずれもきわめて盛会であったが,今回のICRAN’99もそれに劣らず大変立派なものであった.直前に地震の被害が伝えられ,それが一番の心配であったが,全世界から250以上の演題と350名を超える参加者を得て,予想以上に実り多いものとなった.日本からも60名以上が参加した.Wen-Ta Chiu教授の細かいところまで行き届いた学会運営には,中国風の会場の雰囲気と相まって,多くの参加者が感嘆していた.

 今回のICRANで特に強調されていた主題は,「頭部外傷の疫学と予防」,「頭部外傷治療のガイドライン」と「頭部外傷のニューロリハビリテーション」であった.「頭部外傷の疫学と予防」は,Wen-Ta Chiu教授の実績が高く評価されている領域である.Wen-Ta Chiu教授は,長年の頭部外傷の疫学的調査をもとにして,台湾におけるオートバイ利用者にヘルメットの着用に関する法律の制定まで尽力し,大幅に頭部外傷の重傷度を減ずることに成功した.そのことが具体的に報告され,参会者から賞賛を浴びた.わが国では,中村紀夫教授を中心とするかつての東京大学グループによるヘルメットに関する研究によって,20年以上前にさまざまな検討が加えられたと聞いている.台湾は蒸し暑い日が多いため,ヘルメットの着用を義務づけるにはかなりの苦労があったらしい.中村紀夫教授も,わが国で現在鋭意進められている頭部外傷データバンクの現況を含めて,「頭部外傷の疫学と予防」と題するすばらしい特別講演をされた.

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 第5回アジア・オセアニア国際頭蓋底外科学会は,Keki E. Turel会長(Head, Department of Neurosurgery, Bombay Hospital & Institute of Medical Science)のもと,平成11年11月13-15日の3日間,インド西部の港町ムンバイ(かつてのボンベイ)郊外のThe Leela Kempinski Hotelにて行われた.会場のホテルは周囲の喧騒からは隔離された別世界で,第4回の本学会が開催された隣国パキスタン(インドとは,カシミール問題で,戦争状態にある)では,軍事クーデターの直後であることも露とも感じさせられなかった.本学会の前にはCadaveric Workshopを,終了後にはBombay Hospital & Medical Research Centerにて,Live Surgical Demonstrationを企画するなど,Turel会長の本学会にかける意気込みが感じられた.前日に催されたReceptionでは,P. C.Alexander,Maharashtra州知事が出席され,挨拶されるなど,インドにおける本学会に対する関心の高さがうかがわれた.

 演題数は240を越え,breakfast seminar,lun-cheon seminarをはさみ,スケジュールはタイトではあったが,plenary session以外では4会場を使用して,発表時問は10-30分と長く,十分なdiscussionの時間があり,活発な討議がなされた.頭蓋底外科学会は,手術手技が中心となるが,今回は,血管内治療,定位放射線治療,神経内視鏡などの専門家の参加もあり,neuronaviga-tionなど,minimally invasive skull base surgeryをめざした討論がなされた.Turel会長は,本学会のスローガンとして,Together Everyone Achieves More(TEAM)を掲げ,頭蓋底外科の領域でも様々な専門家によるチーム医療を行うこと

基本情報

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Neurological Surgery 脳神経外科
28巻4号 (2000年4月)
電子版ISSN:1882-1251 印刷版ISSN:0301-2603 医学書院

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