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最近,貴誌にて発表された天野らの論文1)は興味深い内容で,全く同感であるとの観点から意見を述べさせていただきます.読者諸先生の多くも経験されていることとは思いますが,とくに女性の患者さんに脳外科手術の説明をした場合,患者さんの一番の心配が坊主にされることであることはまれではなく,むしろ一般的な現象となっています.脳外科医として危険な手術を成功したと思っていても,全剃毛をうけた患者さんが失った髪の毛にばかり嘆き悲しむ姿は多くみうけられます.状況のいかんにかかわらず,頭を丸めるということは日本人にとっては耐え難いことではありましょう.
小生は原則として手術は部分剃毛または無剃毛で行ってまいりました.そして,部分剃毛の場合は術者である自分で剃毛いたしますが,この程度のわずかな剃毛と思っていても,鏡を見た患者さんは“えっ”こんなに髪を切るんですか、と泣かれてしまうこともまれではありません.たしかに,全剃毛でも,よくできたヘアーピースもあり,また1年もたてば何とかみられるようになりますが,その間に受ける患者さんの精神的な苦痛は,とくに危険な手術に挑戦する脳外科医(とくにベテランといわれる年齢層の)には理解できないようです.また,このようなcosmeticな面ばかりではなく,髪の毛イコール不潔という考えも依然,根づよいものがあるのかもしれません.皮膚も毛髪も基本的には同じクリーン度であり,毛髪があると不潔というわけではありません.残念ながら著者らの論文では引用されていませんが,このことはすでにいくつかのシリーズでdocumentされており一読に値します4-6).小生のimpres-sionでは剃毛,とくに昔行われていた逆剃りなどは細菌の侵入を防御している皮膚の損傷を来たすことから,逆に好ましくないとも考えています.小生の勤務する施設が新宿歌舞伎町という特殊性もあるとは思われますが,若者の毛髪への執着には想像を絶するものがあります.小さな頭部外傷での創部周囲の剃毛でも極度に拒否することも珍しくなく,無剃毛でステープラーによる縫合や,浅い創傷にはhair-braiding closure2),などという方法もとっています.また,慢性硬膜下血腫には経皮的硬膜下穿刺で治療していますので3),直径1cm以下の剃毛で十分です(この場合,術直後からほとんど無剃毛と同じ),また,著者らは「シャント再建術は学童期に行われることも多く,女児においては頭髪を失うことは通学の妨げになるが,全剃毛はやむを得ない」と述べていますが,小生は部分剃毛でも問題はないと考えています.つまり,Fig.1のように数カ所に皮膚切開の部分をあらかじめ決めておくことで部分剃毛によるVPシャントは施行可能です.一方,これまで術後の洗髪は抜糸以後に行われてきましたが,皮膚はステープラーで縫合していますので小生の施設では術後2-3日で通常の洗髪をしています(ドレーンの入っている場合は抜去の翌日から).意識のある患者さんでは皮膚切開の周囲の?痒感は少なくありませんし,周囲に付着した血液などは感染につながるとも推測されます.創閉鎖がきちんとしていればステープラーで縫合した状態は抜糸や抜拘してまもなくの状態より汚染しにくいと考えています.このことについては現在prospec-tive studyを予定しています.以上,著者らの意見に賛意を示すとともに,less invasive surgeryは,患者さんの精神面でもless invasivenessであるべきことを強調したいと思います.
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