作業療法 30巻6号 (2011年12月発行)

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◆研究論文

陶芸アルゴリズム―陶芸を用いた急性期統合失調症予後予測フローチャートの作成─ 小林　博之 30巻6号 , 2011年12月 , pp.687-697

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要旨：「陶芸」は精神科作業療法で一般的な活動である．筆者は急性期統合失調症に対して予後予測を行う『陶芸アルゴリズム（以下，CA）』フローチャートを作成した．アルゴリズムは対象関係理論を理論基盤としている．Winnicottの概念「ユニットの達成」，「思いやりを持つ能力」に着目し，CAで判定された各段階の作業療法についても分析した．本研究では5名の対象者にCAを用いて予後予測を行い，結果を検証した．予後予測と転帰は一致し，CAのデザインに矛盾は認められなかった．CAは急性期統合失調症の予後予測と情緒発達段階の判定に使用できる可能性を有していると考えられた．

統合失調症の主観的体験の評価―気分と疲労のチェックリスト（Inventory Scale for Mood and Sense of Fatigue：SMSF）の評価項目の選定と因子構造─ 小林　正義 , 島田　岳 , 福島　佐千恵 , 冨岡　詔子 30巻6号 , 2011年12月 , pp.698-706

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要旨：統合失調症患者の主観的体験を評価する「気分と疲労のチェックリスト」（Inventory Scale for Mood and Sense of Fatigue：SMSF）の評価項目の選定根拠を説明し，その因子構造を検討した．統合失調症患者327名のSMSFスコアをもとに因子分析を行った．その結果，SMSFの13の評価項目（体調，緊張・不安，抑うつ・自信喪失，イライラ・ムシャクシャ，意欲・活力，混乱・当惑，あせり，疲れやすさ，人疲れ，頭・思考疲れ，身体疲れ，たいくつ感，回復状態）は，「気分状態」，「疲労感」，「回復感」の3つの因子構造を有することが確認された．

デイケア終了後の復職を予測するものは何か？―うつ病復職デイケア開始後5週目までの気分および疲労感の特徴に着目して─ 平澤　勉 , 野際　陽子 30巻6号 , 2011年12月 , pp.707-716

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要旨：本研究の目的は，うつ病復職デイケア開始後5週目までの気分および疲労感と，デイケア終了後の復職成否との関係を明らかにすることである．対象者は，A県Bクリニック「うつ病復職デイケア」メンバー22名．デイケア終了後のフォローアップにおいて，6ヵ月以上復職を継続していた復職継続群と，中断もしくは6ヵ月以内に再休職した復職困難群に分け，デイケア通所時に評価した気分および疲労感を比較分析した．ロジスティック回帰分析の結果，1週目から5週目までの「身体疲れ」の変化が，その後の復職成否を予測した．「身体疲れ」の早期改善は，その後の復職成否を予測する指標として役立つ可能性が示された．

平成20年度診療報酬改定による急性期病院でのリハビリテーションへの影響と現状村山　幸照 , 井上　勲 , VHJ研究会会員病院 30巻6号 , 2011年12月 , pp.717-726

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要旨：急性期病院でのリハビリテーション（以下，リハ）の現状と平成20年度診療報酬改定の影響を明確にし，有益な組織体制とリハ提供手段の提案が目的である．診断群分類（DPC）を導入している25の急性期病院を対象に，平成19年と平成20年8月のリハ提供体制や実施単位数等を調査した．結果，訓練を365日提供する病院は16.7％，看護師のリハへの関与が積極的でない病院が20.8％，半数以上の病院でセラピストの生産性（セラピスト1人あたりの実施単位／月）が低下していた．急性期リハの充実には，疾患別組織分化，看護師との連携，セラピストの充足，少数の担当患者に十分な量の疾患別リハを提供するシステムが必要と考える．

行動観察における観察頻度の決め方（第2報）―～低出現率を示す観察対象事象は，どの程度，観察頻度を少なくすることができるのか～久野　真矢 , 清水　一 30巻6号 , 2011年12月 , pp.727-734

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要旨：本研究は，5％未満の低い出現率を示す観察対象事象に対して，どこまで観察頻度を粗くすることができるのか調べることを目的とした．母集団とした10時間連続観察における観察対象事象の出現率と，15秒～60分間隔の11通りでシミュレーションサンプリングした標本の出現率の間に差があるか比較した．その結果，605標本中599標本に有意差は認められず，有意差を認めた6標本は1.59～0.03％の非常に低い出現率に対する10～60分間隔でシミュレーションした標本であった．5％未満の低出現率を示す観察対象事象は，30～60分間隔といった少ない観察頻度で連続観察と同程度の予測が可能であることを実証した．

脳血管障害に対する音楽の療法的利用の現状と課題についての文献レビュー阿比留　睦美 , 山根　寛 30巻6号 , 2011年12月 , pp.735-744

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要旨：2000年以降の医学中央雑誌掲載論文を中心に，国内の脳血管障害に伴う感覚運動機能の障害や精神認知機能の障害に対する音楽の療法的利用についてレビューを行った．歩容，下肢筋力，手指の巧緻性，失語症，構音障害，注意機能，半側空間無視，意識障害，嚥下機能などに対して改善がなされたとの報告があった．しかし，治療的介入手段の作業の一つとして音楽の特性が十分利用されておらず，作業療法士による報告は少なかった．感覚運動領域や認知機能の障害に対する音楽の影響の明示と，治療的ニーズに応じて，知識や技術の養成教育への導入，もしくはそれらをもったそれぞれの専門職種間の連携を可能にする診療システムの構築の必要性が示唆された．

◆実践報告

精神障がい者に対する地域運動プログラムの有用性―統合失調症患者と精神障がい者サッカーアカデミーの出会い─ 高野　隼 , 杉山　祐夫 , 嶽北　佳輝 , 村上　貴栄 , 柿永　佳良子 , 山本　敦子 , 木下　利彦 30巻6号 , 2011年12月 , pp.745-750

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要旨：精神障がい者を対象とした地域運動プログラムに関西医科大学精神科デイケアのメンバー（診断名：統合失調症）4名が参加している．その結果，体力・社会性の向上およびコミュニケーション技能に一部有効である可能性が示唆された．このプログラムに継続的に参加するには，症状の安定化，体力やモチベーション，運動に対する興味・関心などが必要であると考えられる．作業療法士の関わりとしては，個人の年齢や目標に合わせたスポーツを選択し提供すること，一緒に参加することでメンバーにとって安心できる場となるように努めること，現場で直接的なフィードバックを行っていくことなどが重要である．