作業療法 16巻3号 (1997年6月)

◆特集 失敗と成功に学ぶ住環境整備の考え方と技術

特集にあたって 本誌編集委員会
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 近年,我が国は高齢者や障害を持つ人(児を含む)に対する在宅福祉施策の推進に力を入れている.国や地方自治体は,これらの推進に向けてさまざまな保健・福祉サービスを提示し,実施してきている.在宅福祉を支えるサービスの一つとして,住宅改善に関するサービスがある.具体的には住宅改善のための相談事業,住宅改善費の助成や融資,リフォームヘルパーや福祉用具プランナーなど実際に住環境に係わる人材養成などがあげられる.高齢者や障害を持つ人が病院や施設を離れ,住みなれた地域や家族の待つ我が家に帰るためにはどうしても住環境を改良する必要が生じる場合が多い.特に我が国の住環境は身体的な障害を持った場合,日常生活においてさまざまな不自由をもたらす可能性が高い.住環境の改善は,新築や増築をしなければならない大がかりなものから,ちょっとした工夫で十分暮らしやすくなるものまでさまざまである.また本人の生活の自立を目的とした場合,家族の介護量の軽減を目的とした場合など改良の目的もさまざまである.

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はじめに

 障害を持とうが持つまいが,自宅で暮らしたいとの思いは,自然で当然な気持ちだ.自宅でなるべく自立して生活するために必要なバリアフリーな家屋を実現する作業療法技術に住宅改築がある.家族と共に生活し,地域で共に暮らすには,バリアフリーよりもユニバーサルな設計を基本とする.そして,作業療法の家屋改築技術の真はこの設計にある.

 設計の1は評価にある.対象の動作能力と活動要求そして家族の考えと気持ちが重要な評価となる.人の評価が大切となる.また設計士や建築士とのチームとしての意志疎通と細部に亘る検討である.現状の家の評価はその次であるが,これは全体の構造や細部の作りと寸法など,壁で見えない構造部材の位置まで知る必要もある.

 設計の2は家族全員の要求と障害者の要求を両立させた設計書を作ることである.

 設計の3は必要各部品を許された条件の中から最適に選ぶことである.

 設計の4は実施,設計の5はフォローアップとなる.そこで以下に,上記の5点をケースを通して例示しポイントを述べる.この分野の作業療法技術の向上には,設計の1,2,5が特に重要と考えている.

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はじめに

 高齢者や障害者が自宅で生活するために,自立を助け,介護者の負担を軽減し,ヘルパーや訪問看護などの公的サービスや福祉用具の導入をし易くするために,近年住宅改造が重要視されてきた.住宅改造は,建物の増改築を伴うような大規模なものだけでなく,手すりを取り付けたり台を置くだけという改造でも,即効果が現れて,動作が容易で安全になり,利用者には大変喜ばれるという特徴がある.しかし,実施した改造が役に立たなかったり,本人以外の家族にとって不便なものになったり,数年後には本人の身体機能が変化して使えなかったり,というような失敗例も見られる.あるいは施工の直前に家族が反対して取りやめになってしまうケースもある.例えば,浴室の壁に取り付けられた頑丈なな手すりが,入浴には一度も使われずにタオル掛けになっている,というような現場を時々見かけることがある.動作の分析や,取り付け後の手すりを使ったADL指導が十分なされずに実施された住宅改造では,往々にしてこのような惨憺たる結果に終わるものである.

 今回,作業療法士の訪問訓練から関わりが始まり,住宅改造では浴室の改造は失敗に終わったが,デイサービスの特浴(機械浴とも呼ばれ,昇降装置による全介助で浴槽につかる入浴方法)を補完的に利用した結果,本人と家族の積極的なデイサービス利用へとつながった1事例を通じて,住環境整備における失敗と成功について考えてみたい.

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はじめに

 地域の保健センター(本年4月1日より,地域保健法により保健所から保健センターになった)の機能訓練を担当しているが,住環境の整備は,特に訪問での仕事の大きな部分を占めている.それは,住環境の整備が日常生活動作に関しての自立度を上げたり,安全性を向上させたり,介護負担を軽減するといったことにとどまらず,生活空間を広げ,我々が中心的に行っている通所訓練や自主グループといった,地域での新しい社会的な関係を築いていく基礎的なアプローチだからである.しかし,具体的に住環境整備を地域で進める中で,様々な「問題」というよりは「困難性」が非常に多くあり,それを一つ一つ乗り越えて行く考え方・技術・チームワークが特に作業療法士(OT)や理学療法士(PT)に求められていると思われる.

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はじめに

 作業療法士が住環境整備に関わる際に,作業療法士の専門性を用いて,障害状況を把握することが重要なのは言うまでもない.住環境整備の援助においては,そのことに加えて,異なる職種が協働して働き,しかもその都度,新しいメンバーになるような状況が多いために,チームとしてどう活動するかも重要になって来る.東京都心身障害者福祉センターの住宅相談事業は昭和53年から実施されており,当初から作業療法士,理学療法士,建築士が相談窓口のチームメンバーとして対応を続けている.近年は地域においても住宅改善の相談事業が実施されてきており,その意味で東京都の相談事業としての対象は地域での対応が難しいケースなども含まれるとともに,地域機関(福祉事務所や本人が利用している地域機関など)との連携のあり方が課題としてあげられてきている.

 そこで,当センター住宅相談の実際の事例を紹介し,現場の状況を伝えることによって,住環境整備に関わる際の参考になることを期待する.

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要旨:記銘・記憶障害をもつ痴呆患者でも,長期間経験した生活関連技能は比較的良好に維持されている.今回,アルツハイマー型痴呆の女性患者14名に調理活動を実施し,知的精神面,日常生活,調理場面の3つの側面から評価を行った.調理活動の結果,知的精神機能の改善はみられなかったが,自発性や関心・意欲の向上など情緒面での改善が得られ,日常生活の行動面で変化がみられた.調理活動では,熟練した運動技能と認知的操作の経験から過去の作業イメージを再構築し,意識レベルに現実的作業体験をフィードバックするものと思われる.作業イメージの想起は,主婦としての社会的背景をもつ対象者の自己評価を強化し,役割感,有能感に代表される「自己実現」の感覚を成立させたものと考えられる.

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要旨:青森県内の2つの老人保健施設に入所中の痴呆状態にない老人を対象として,老人の抑うつの程度と彼らが抱えている悩みについて調査した.その結果,調査した老人の70%以上が境界以上の抑うつの状態を示した.また,老人の悩みは,健康状態に関する悩みがもっとも多く,この悩みの程度と抑うつの程度との間には有意な相関(r=0.33,p<0.1)が認められた.このことは,老人保健施設に入所している老人の疾患が彼らの大きな関心事であり,抑うつの誘因となっていることを示唆していた.

 以上のことから,老人保健施設における作業療法は,老人ができることを増やしたり見つけたりすることや気分転換を図ることが重要であると考えられた.

基本情報

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作業療法
16巻3号 (1997年6月)
電子版ISSN: 印刷版ISSN:0289-4920 日本作業療法士協会

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