作業療法 15巻2号 (1996年4月発行)

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◆特集　行政に働きかける作業療法士

編集にあたって／行政に働きかける広島県作業療法士会馬場　孝 15巻2号 , 1996年4月 , pp.105-108

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　行政を仕事の場とする作業療法士(以下OTとする)が徐々にではあるが増えてきている．今後のOTの職域として重要な領域であることは間違いない．「地域」という言葉で一括されているが，相談・訪問指導・通所訓練・啓発活動等，かなり広範囲な場面でOTがその能力を発揮しつつあると思う．

　そうした活動の特性と今後の発展を考えると，行政に対し，あるいは上部組織に対して「もの申す」，つまりOTとして誰に対して何ができるかを示しながら，さらにどのような制度やシステムがその自治体に必要なのかを提言していく活動も必要な時期にきていると思われる．病や障害と共に社会の中で生活することを余儀なくされた障害者や高齢者の個々のニーズの把握・対処のみならず，そうした人と生活を共にできる社会のシステムや制度の見直し・検討・改善の提案は，OTの大切な役割と考えられる．

　今回の特集は，いま先駆的に行政の中で働いているOTの体験を，これからのOTの参考と啓発の役に立たせたいという主旨から企画したものである．

(本誌編集委員会)

行政機関でOTは何をするのか—保健所OTの活動から坂井　容子 15巻2号 , 1996年4月 , pp.109-112

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はじめに

　岡山県は，人口194万，高齢化率17％で，瀬戸内海の島々から中国山地の山間過疎まで78の市町村をかかえている．

　現在，岡山県ではPT2名，OT1名が県内全域を3分割して受け持ち，市町村の実施する機能訓練事業と訪問指導の推進を担当している．行政機関におけるOTの業務は，何もないところからの積み上げで始まった．活動の根底には臨床時代に抱きつづけた，障害をもつ人のその先の生活を支え切れない不全感に対してどうにかしたいという思いが常にあった．医療の外の世界に出てみると，この分野こそOTが職能を存分に発揮できる分野であることを数多く実感する．

　ここでは活動の実際を紹介すると共に，今OTに何が求められているかを考える．

「障害者が住みよい地域づくり」を目指した保健所OTの取り組み辻　郁 15巻2号 , 1996年4月 , pp.112-115

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はじめに

　石川県は全国に先駆け，老人保健事業の施行に伴う保健所の機能強化として，1984年5月に県保健所にOTを配置し，地域リハビリテーション活動の活性化を図ってきた．当初は，新しい職種，一人職種としての孤独感のうえ，公衆衛生も保健所が行うリハ活動の役割もよくわからなかったのだが，現在，「障害をもつ人々が普通に暮らせる地域づくり」を目指して，試行錯誤の中地域リハ活動に取り組んでいるので，そのいくつかを報告する．

自治体職員として住民に向き合うOTを目指して齋藤　良次 , 山内　直人 15巻2号 , 1996年4月 , pp.116-119

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私達のまちと職場

　大和市は，神奈川県の中央にあり，北は東京都町田市，東は横浜市に接して都心から40kmの通勤圏にある．人口は20万4,000人で，高齢者の人口比率は9.1％である(1995年12月現在)．

　OT・PTの採用は1984年から．現在，OTは常勤で2名，PTは常勤で1名と非常勤で2名．所属は，保健婦・看護婦・栄養士と同じく保健予防課である．業務は子どもから高齢者までの通所サービス／訪問サービスを中心に関連施設等への援助や啓発活動も行っている．常勤OT・PT(3名)は，地区担当制(3地区)でのサービスを原則にしている．したがって，サービスの提供形態は保健婦とほぼ伺様である．

県行政におけるOTの実践例貫井　信幸 15巻2号 , 1996年4月 , pp.119-122

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はじめに

　山梨県は，日本列島のほぼ中央に位置し，県の北東部には秩父山塊が連なり，西部には南アルプスの3,000m級の山々がそびえ，南部には霊峰富士山，北部には八ケ岳，茅ケ岳が広い裾野を広げ，県土地面積4,465m²，可住地面積は約21.1％と大半を森林で占めている．

　県内は64市町村・人口874,097人(1995年4月1日)，二次医療圏として8医療圏，8の県保健所に分割されている．本県の老年人口比率17.0％(1995年4月1日)は，全国平均14.5％を上回り全国平均より5年速いペースで高齢化が進行し，21世紀には4人に1人が高齢者となる超高齢社会を迎えようとしている．

行政とOT，雑感島田　邦彦 15巻2号 , 1996年4月 , pp.122-124

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はじめに

　すみだ福祉保健センターに勤務してから1年余．それまでは総合病院のリハ部門しか知らなかった人間が，ある日突然，地域の福祉保健に携わる職場の，しかも管理職に就いてしまった．

　地域のことや仕事の内容を周囲の人達から教えられながら，少しはわかってきたかなという自分が，今回の課題を語る力はとても無いのだが，僅かな経験の中から感じていることを述べさせてもらう．

◆研究と報告

腕保持用装具としてのポータブルスプリングバランサーとモービルアームサポートの比較—高位頸髄損傷者の食事動作を通して浅井　憲義 , 黒岩　貞枝 , 黒淵　永寿 , 酒井　ひとみ , 園田　啓示 15巻2号 , 1996年4月 , pp.125-134

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要旨：この研究は4名の高位頸髄損傷者に、ポータブルスプリングバランサー(PSB)とモービルアームサポート(MAS)を使ってヨーグルトを食べてもらい，摂取量で機器の使いやすさを検討した．研究デザインはA-B-C-B-C単一症研究法で，A相は機器不使用，B相はPSB，C相はMASを使ってヨーグルトを食べることにした．結果は3名はPSBでヨーグルトを多く食べることができ，1名はMASを使ったほうが多く食べることができた．機器による摂取量のちがいは上肢筋力，車椅子上での耐久性，躯幹の安定性などが要因と考えられた．考察を加えて報告する．

福祉機器導入における作業療法士の関わり—在宅重度障害者用自立支援機器交付事業の紹介をとおして鴻　真一郎 , 渡辺　慎一 15巻2号 , 1996年4月 , pp.135-140

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要旨：在宅障害者の自立や介護者の介護負担の軽減を図り，両者にとって質の高い生活を促進する上で，その物的支援手段として福祉機器の果たす役割は大きい．今回，横浜市において福祉機器の技術支援サービスとして発足した在宅重度障害者用自立支援機器交付事業の概要を紹介する．また，本事業における作業療法士・理学療法士の役割である機器の適合評価・試用訓練について動向調査を行い，その留意点や機器導入後の効果について検討した．

特別養護老人ホームにおける高齢障害者の活動に関する研究坪井　章雄 15巻2号 , 1996年4月 , pp.141-148

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要旨：本論文は，日常生活における活動の変化が，施設で暮らす高齢障害者の能力とどのような関連があるかを考察することを目的として，特別養護老人ホーム入所者53名(81.7±7.5歳)を対象として，生活時間を調査し生活活動範囲・習慣的活動と知的機能・生活自立度の関係について検討を行った．

　結果より，施設で生活する高齢障害者は在宅高齢障害者と同様に，活動範囲が広がるほど，習慣的活動を行っている者は行っていない者に比べ生活自立度は高くなっていた．また，活動範囲や習慣的活動が妥当性のある生活指標として活用できることが考えられた．

精神科長期在院者との関わり—病院訪問の形をとった作業療法の試み梶原　香里 , 山根　寛 , 松本　雅彦 15巻2号 , 1996年4月 , pp.149-155

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要旨：学校に勤務するOTRは，診療報酬の対象外に直接入院患者を訪問する形をとって，精神科長期在院の2症例と関わった．彼らは「精神科長期在院者であること」から劣等感を持ち，病院という閉鎖されたタテ社会の中で，承認の欲求を満たされず，自己尊重の低い状態にあった．彼らとのOTRの関わりは，精神障害ではない他の部分に焦点を当てることにより劣等感を刺激せず，自己決定権を保証し，丁寧な説明と能力保証あるいは肯定的評価を伝えるものであった．OTRが「訪問者」であった治療構造がこうした関わりの有効性を高め，症例にとってヨコの人間関係を育み，彼らの欲求をある程度満たした．

脳卒中患者と介護者のQOL—日常生活満足度による比較和才　慎二 , 田中　正一 15巻2号 , 1996年4月 , pp.156-164

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要旨：家庭復帰できた脳卒中後片麻痺患者32名と患者の主たる介護者のQOLを調べるために患者自身，介護者自身，介護者からみた患者の日常生活満足度(SDL)，ADL，介護状況について調査した．SDLの「身体機能」，「家庭生活」項目で介護者は患者の満足度の把握が十分でなく問題点となっている可能性があった．ADLとSDL間に相関はなかった．介護者の満足度は全般的に低くなかったが介護上の問題点と関連があり介護負担の影響は大きかった．家庭復帰の成功には，障害の受容や家庭内での役割や存在感について満足感が得られる退院時指導が重要である．

腕神経叢全型引き抜き損傷への肋間神経交差移行術に対する作業療法プログラムの紹介と回復筋力の経過の検討椎名　喜美子 15巻2号 , 1996年4月 , pp.165-174

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要旨：腕神経叢全型引き抜き損傷に対する肋間神経交差移行術は一般的な治療法となってきた．しかし，本法に関する作業療法プログラムは未確立である．術前および術後固定期の対応と，術後回復筋力を指標とした段階的作業療法プログラムを紹介した．また症例の術後回復過程を後方視的に分析した．術後は定期的な評価により筋力の回復を的確に捉え，〔活動電位の出現〕，MMT〔2^-〕，〔3^-〕，〔3⁺〕以上の4つを各指標として段階的にプログラムを進めて行くと比較的良好な術後成績が得られた．また呼吸調節機構から肘関節屈曲という随意機構への機能の分離に関しても現在までの知見および今後の研究課題として言及した．