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連載 古典症例に学ぶ
「エス」誕生の瞬間―グロデックの症例G嬢
野間 俊一
1
1のまこころクリニック
pp.917-921
発行日 2024年12月5日
Published Date 2024/12/5
DOI https://doi.org/10.69291/pt50060917
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Ⅰ 病を癒すということ
日々診療をしていると,治療者としてはよくわからないうちによくなるケースにたびたび出会う。逆に,よくわかったつもりでしっかり診断を下し,その病態に合った(と思われる)定型の治療を行った場合ほど,経過が思わしくないことが多いような気もする。より精緻な診断法を求め,より信頼できる治療法を開拓しようとすることは,社会的に責任ある現代の治療者のまっとうな姿であり,あるところまではこの方法でうまくいくのだが,生命と生命の邂逅する臨床の場において,知的理解の及ばない領域はたしかにある。この未知の領域にこそ,「癒し」の本質が隠されているのではないだろうか。
20世紀初頭のドイツで,ゲオルク・グロデック(Georg Groddeck)は身体的な難病患者の治療に取り組み成果を上げていたなかで,のちにフロイトが自らのメタサイコロジー構築のために援用することになる「エス(Es)」なる概念を作り上げ,精神分析家たちとの交流を通じて独自の精神療法理念に到達した。そして,臨床家グロデックにとって大きな転換点となったのが,症例G嬢との出会いである。
グロデックはG嬢の治療経過について具体的なことはほとんど何も書き残しておらず,古典症例として皆さんにお示しできる情報は少ない。しかし,グロデックの治療理念を検討する上でも,そして,フロイトの「エス」ではなく,グロデックの「エス」がそもそも何を意味しているかを理解する上でも,興味深い症例であることにちがいはない。

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