ナースの作文
買収/瞬間
清水 琴子
1
1名古屋病院整形外科
pp.64-65
発行日 1957年9月15日
Published Date 1957/9/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661910432
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夕の洗面介助に行くとYさんが,「お願い」と手を合わせてから両手を目に当てて,見て見ぬ様なふりをしていてくれと云う意味の事をされる。先日の準夜勤の時。『お願い,安静第一の私がこの様なことはいけないと思いますが,20分程目をつむつていていたゞきたいです。今度限りでこの様なことはしないつもりです。あなた様お願いします。』と薬包紙にかかれたのを渡されてから3週間目だ。頸椎,胸椎カリエスで斜体索引をしてギプスベットに寝,歩行禁止は勿論安静第一とされ,ベツトが生活の総てで,長い事家族から隔離されている彼等に何とか精神的看護に依つて,同じ様な療養日課の中で一日一日が毎日と同じでない闘病生活を送つてほしいと思いつゝ何も出来ない自分を気に病んでいた失先だ。「考えてみますけど,御病気の事を御考え下されば,御自分の為にも止した方がいゝと思いますけど」と云いすてて次の部屋に行つてしまつた。お湯を配り終つて,片ずけ始め,Yさんの所はもうすんだらしく,Yさんのベツトはもうからになつていた。洗面もそのまゝにして他の患者尿器交換と洗面の後片ずけをした。1時間程してYさんの廊下を通ると,「洗面すみました」と云われたとたんに,「歩ける方の介助はしていません」と云いゝ「いけない」と思つたが,何か自分ながら勇気のある事にいさゝか,おどろいてしまつた。全部の尿器交換がすんでから,「おそくなつてすみません」と何気なくしたが実に後味が悪い。
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