Japanese
English
- 有料閲覧
PPV購入案内
2,200円 (2,000円+税10%) こちらは、443ページから447ページの文献です。購入には医書.jp本会員登録が必要です。
会員登録完了後に改めて上記「購入サイトへ」を選択してください。
または「購入サイトへ」選択後に「購入ログイン」、「新規会員登録」の順に進んでください。
会員登録について詳しくはをご確認ください。
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
I はじめに
近年,多くの組織で相談窓口が設置され,心理職がその対応に従事する機会も増えている。ハラスメント相談において心理職に求められる役割とは何だろうか。ハラスメント相談の実践は,個人の対人支援にとどまらない。なぜなら,ハラスメントは個人の問題ではなく,組織的・構造的文脈のなかで起こる権利侵害だからである。それは,相談者の権利を擁護し,損なわれた尊厳の在り方そのものに働きかける「ソーシャルジャスティス」の実践とも言える。
日本でハラスメントという言葉が認識されるようになったのは,セクシュアルハラスメントを理由とした国内初の民事裁判が起こされ,新語・流行語大賞の新語部門金賞に「セクシュアル・ハラスメント」が選ばれた1989年からのことである。言葉ができることで概念が認知され,これまで見過ごされてきた事象が「不適切な行為」として定義されるようになった。その後,男女雇用機会均等法による定義や雇用者の義務も明示され,労災認定においてもセクシュアルハラスメントが認められるようになった。そしてパワーハラスメントについてもブラック企業問題や過労死・自殺事案の増加などの社会状況を背景に,2012年には厚生労働省からパワーハラスメント指針が出され,2019年にいわゆる「パワハラ防止法」(労働施策総合推進法改正)が成立した。制度の整備により,企業で,学校で,より具体的な対策が取られるようになり,マタニティハラスメント,カスタマーハラスメントなどについても法律や条例などで定義や対策が示されるようになった。
一方で,概念の普及は新たな課題も生んでいる。言葉が認知され,広がったことで,少しでも不快に感じたら,〇〇ハラスメントとレッテルを貼って相手を萎縮させたり,独りよがりな「正義」を一方的に押し付けたりするといった「概念の濫用」とも言える事態が見受けられる。これらはハラスメントの本質ではなく,良好な関係性を遠ざける要因ともなっている。
ではハラスメントの本質とは何だろう。ハラスメントは非対称な力(パワー)の行使によるものであり,力の行使とは職位や役職による権限,専門知識や情報の優位,身体的優位,社会的マジョリティなどのさまざまな格差を背景に,強い者が一方的に影響力を振るうことである。ハラスメントを受けた人は支配や圧力により「NO」と言えず,自らの存在が軽んじられて深く傷つき,「自分が自分であること」が揺らぎ,心身の不調や,キャリア形成にも甚大な影響を受けるなどのさまざまな困難を抱える。これらは,尊厳が踏みにじられる体験であり,人として基本的に保障されるべき権利が侵害される状態である。この「人権侵害」が,ハラスメントの本質である。心理職がこの領域に関わる意義は,こうした深い傷つきを理解するとともに,人権侵害が起こった環境である組織の問題も理解し,個人の尊厳の回復を多角的に支援することにあると考える。

Copyright© 2026 Kongo Shuppan All rights reserved.

