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1980年代の疾患遺伝子探索—疾患遺伝子クローニングの黎明期
Louis M. Kunkel1),Ronald G. Worton2)らが,Duchenne型筋ジストロフィーの原因遺伝子の手がかりを,それぞれ独立に,独自の方法で発見したのは,1985年のことであった。1980年代の状況を振り返ると,遺伝性疾患の研究は,先天代謝異常症の概念に基づき,蓄積物質の化学構造を決定し,その蓄積物質を基質として代謝する酵素を発見するというアプローチにより進められていた。Gaucher病を例にとれば,1940年に臓器におけるglucocerebrosideの蓄積が見出され3),1965年にglucocerebrosidase酵素の欠損が発見され4),酵素活性の解析,酵素蛋白の構造解析などが行われていた。1980年代に入り,分子生物学の研究手法が疾患の分子生物学研究に導入され始め,欠損酵素をコードしている遺伝子,cDNAのクローニングが徐々に可能になり,glucocerebrosidase cDNAの構造は1986年に明らかにされた5)。酵素蛋白の構造解析から部分アミノ酸配列が明らかにされ,あるいは,酵素蛋白を特異的に認識する抗体が開発され,これらから出発して,cDNAのクローニングが達成された。
ところが,筋ジストロフィーの場合,どのような蛋白の異常なのか,その手がかりは,まったく得られておらず,遺伝子の実体に迫る研究手法はないに等しい状況で,言わば「暗黒の時代」であった。このことは,筋ジストロフィーに限らず,Huntington病,筋萎縮性側索硬化症,脊髄小脳変性症など,多くの遺伝性神経疾患に共通する状況であった。

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