綜説
遺伝性網膜ジストロフィの遺伝子治療
藤波(横川) 優
1,2,3
,
藤波 芳
1,2,4,5,6
1東京医療センター 臨床研究センター 視覚研究部 視覚生理学研究室(東京都)
2University College London Institute of Ophthalmology
3慶応義塾大学医学部医療政策管理学教室
4Moorfields Eye Hospital
5慶応義塾大学医学部眼科学教室
6東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻ヒトゲノム多様性研究室
キーワード:
遺伝性網膜ジストロフィ
,
遺伝子治療
,
ルクスターナⓇ
,
ボレチゲン ネパルボベク
,
遺伝学的検査
,
PrismGuideTM IRDパネル システム
Keyword:
遺伝性網膜ジストロフィ
,
遺伝子治療
,
ルクスターナⓇ
,
ボレチゲン ネパルボベク
,
遺伝学的検査
,
PrismGuideTM IRDパネル システム
pp.145-152
発行日 2025年2月5日
Published Date 2025/2/5
DOI https://doi.org/10.18888/ga.0000004048
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
遺伝性網膜疾患は,遺伝子の病的変化により網膜疾患を発症する疾患の総称であり,進行性のものを遺伝性網膜ジストロフィ(inherited retinal dystrophy:IRD)と呼称する1)。IRDの表現型(病名)には,網膜色素変性症(RP),黄斑ジストロフィが含まれ,進行すると失明に至る場合も少なくない。近年,欧米を中心にIRDに対する遺伝子治療研究の発展が目覚ましく,個別化医療をリードしている。遺伝子治療は,遺伝子補充・編集・導入に分類され,特に遺伝子補充治療については歴史が長く,2017年米国で初の承認薬が登場した。日本においても,米国の先行試験,日本での試験両者で,夜盲,視野障害の改善を含む視機能の改善,ならびに安全性が認められ,2023年6月・8月に日本で初めての遺伝子治療用ベクター「ルクスターナⓇ注」(一般名:ボレチゲン ネパルボベク)が,眼科初の遺伝子治療薬として,販売承認・保険償還された。また,日本でも臨床遺伝学的診断と治療導入への流れが確立され,臨床診断,遺伝カウンセリング,網羅的遺伝学的検査,エキスパートパネル,結果返却の順でのフローの標準化が進み,先進医療の実施結果を受けて「PrismGuideTM IRDパネル システム」が2023年6月・8月に日本で初めての網膜ゲノム診断検査として,承認・保険償還された。これらの動きを受けて2024年7月保険収載のルクスターナⓇ注の初投与が実現した。本稿では,これまで有効な診断・治療が存在せず,アンメットニーズの象徴であったIRD領域における遺伝子治療の進歩とそれを取り巻く医療環境の変革について,最新の知見を含めて紹介する。

Copyright © 2025, KANEHARA SHUPPAN Co.LTD. All rights reserved.