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はじめに
今回,「嗅覚と作業療法との接点」をテーマに嗅覚領域の現状や課題について,4回シリーズの連載企画を進めてきました.最終回となる本稿では「嗅覚と運動の関係」をめぐる研究の現状と課題を紹介します.そして,それらを踏まえたうえで,臨床での現象観察から,研究と臨床応用への展開について述べます.
皆さんは外出先でおいしそうな匂いを嗅いだ際,急に空腹を覚えたり,その匂いに関連する食べ物を思い浮かべて実際にお店を探したりした経験はないでしょうか.私にとって最も印象的な場面は,ある店舗の無料で提供されているコーヒーの香りに誘われ,買う予定がなかったにもかかわらず店内に立ち寄ってしまった経験です.そして,コーヒーを飲みながら,陳列棚を眺めているうちに「この商品そろそろ買わないといけなかった」と思い出し,つい購入に至ることがありました.このように,環境因子が感情を動かして購買行動に影響を与える現象は,環境心理学において「M-Rモデル(SOR理論)」と呼ばれ,「店舗への引き込み効果」といわれています1).これは,環境の情報は人の行動を決定する「動機づけ」として,重要な役割を果たしている例だといえます.
近年の嗅覚関連の研究報告によると,脂質を多く含む高カロリー食の匂いが漂ってきたときほど,人は匂いの位置を特定するために積極的に行動し,再度その匂いがした場所へ向かうためのナビゲーション能力(匂いの場所の記憶や空間的な把握の結び付き)も,高カロリー食の匂いがした場所を探すときのほうが精度が高まるといわれています2).たとえば,焼き肉や豚骨ラーメン等の濃い味の匂いを嗅いだ瞬間,「お店はどこにあるのだろう」と匂いを頼りに周囲を探す行動は,匂いによる強力な動機づけと行動の結び付きを示すよい例かもしれません.
これらの知見は,匂いの情報が記憶や運動行動と直接的な関係にあることを裏付けています.このように,人の行動を方向づける「匂いが与える動機付けと運動行動」には,どのような仕組みが存在しているのでしょうか.

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