特集 わが国の司法精神療法の展望
序論――わが国の司法精神療法の展望
林 直樹
1
1西ヶ原病院
pp.478-481
発行日 2026年8月5日
Published Date 2026/8/5
DOI https://doi.org/10.69291/pt52040478
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Ⅰ 司法精神療法という課題
英国司法精神医学の泰斗であるGunnは,1996年刊行の700ページ余りの大著,『司法精神療法』(Cordess & Cox, 1996)の緒言(Gunn, 1996)において,その対象者である犯罪(触法)行為を行う精神医学的問題を呈する人々は精神療法を間違いなく必要としているけれども,その題名はそれ自体が矛盾を孕んだものだと述べる。それは,司法と精神療法とは本来直接的な関係がなく,単に組み合わされているのであり,さらにまた,司法精神療法と呼べるだけの特別な治療法がまだ確立されていないからだという。確かに『司法精神療法』には,著者たちの強い意気込みが感じられるものの,議論の間の関連が乏しく,さまざまな治療法や治療的立場の総覧という趣がある。そこには,著者たちがスタートラインに着いたことを宣言するという象徴的な意味合いが強いということなのだろう。
続いてGunnは,司法精神療法の特徴は,複数領域の専門家同士の協働が大きなポイントであることを指摘している。司法精神療法は,精神科治療もしくは精神保健サービス,精神障害や犯罪についての社会の考え方や法制度といった軸が互いに支え合う形で実践されている。わが国では特に,それらの軸をまとめて司法精神療法が発展する上で,新たな司法制度の導入が重要な契機となったという経緯がある。
このような視点から筆者はここで,本特集の論考の中で随所に見出されるわが国の司法領域における精神療法および精神療法的アプローチの特徴や問題点をいくつか指摘したい。

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