特集 アディクション支援のフロントライン
依存症心理療法総論
村瀬 華子
1
1北里大学医療衛生学部
pp.28-34
発行日 2025年6月5日
Published Date 2025/6/5
DOI https://doi.org/10.69291/pt51070028
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Ⅰ 心理療法とは
心理療法を定義することは難しい。複数の心理療法に関する文献を調べてみたが,いくつかの共通要素はあげられていても,理論の中立性を保ちつつ,明確に且つ包括的に定義されたものを見つけるのが困難なのである。その中でも,Prochaskaら(2024)による定義は適度な中立性,具体性,包括性を併せ持つものである。これによると,心理療法とは,確立された心理学的原則に基づく臨床技法と対人姿勢を意図的に用い,クライエントの行動,考え方,感情,個人の特性を,クライエントが望むような方向に,クライエントの同意を得たうえで,変容する支援を行うこと,と定義される。
依存症治療においてクライエントが望む変化とは何だろうか?「アルコール,薬物,ギャンブルやゲームなど依存対象物の使用をやめること」かもしれないし「減らしつつも続けること」かもしれない。「自分は依存対象物をやめるつもりではないが,○○(他の症状や問題)を良くしたい」と言うクライエントもいるだろう。以前は最後の例のようなクライエントは「否認が強い」,「底つきするまで待つしかない」などと言われ,治療現場では本人の準備ができるまで治療は諦められていた。しかし,依存症の問題を持つ人が「やめたくない」と言う心理の理解が進み,動機づけ面接などの心理面接法も普及した現在,依存症治療において支援者が対応できる相談事は増えたと言える。同時に,心理療法を行う支援者に求められる知識とスキルも増えた。本稿では,依存症治療における代表的な心理療法とそのエビデンス,その中でも特に認知行動療法実践の概要,心理療法のアプローチにかかわらず求められるスキルについてご紹介する。

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