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Ⅰ 親の夫婦関係に悩み続ける大学生
筆者は,大学の学部授業で社会・集団・家族心理学Ⅱを担当している(公認心理師カリキュラムの必修科目の一つで,社会・集団・家族心理学Ⅰは社会心理学の教員が担当)。半期15回の授業のうち,2回は離婚・再婚・ステップファミリーについて話し,その他の回でも不妊やDV,夫婦の親密性をめぐる問題やカップル・ダンスについて触れる。学生は毎回授業終了後にコメントペーパーを提出するが,こちらが求めていないにもかかわらず,多くの学生が自分の家族の悩みや問題について詳細に記載する。
もう10年ほど前になるだろうか,授業の中で「親の離婚は親の夫婦関係の問題であって,子どもの問題ではない。たとえ親が子どものことをめぐって夫婦喧嘩をしていたとしても,それは子どもの責任ではないし,罪悪感を感じる必要も無い。むしろ,『自分は自分なりにやれることはやった。頑張ってきた』と自分を赦し労ることが大切だ」と話した。約180名の学生が履修していたが,そのうちの20名以上が,「あんなふうに言ってもらえてとても救われた」「誰もそんなことを言ってくれなかった」「どうして大人はそういうことを教えてくれないのか」「もっと小さい時にそういうことを聞きたかった」といったコメントを書いており,非常に驚いた。そうしたコメントを書いたすべての学生が,親の別居,離婚,再婚を経験しているわけではないと思われるが,大学生になっても両親の夫婦関係に悩み傷つき,そして恐らく多くの学生がそうした自分の内面を誰かと共有することができずに毎日生活しているかと思うと,いたたまれない気持ちになった。
両親の夫婦関係が子どもに及ぼす影響というと,どちらかと言えば幼い子どもへの影響を考えがちかもしれない。一方大学生は,個人ライフサイクルで言えばアイデンティティ確立の重要な段階であり,家族ライフサイクルで言えば結婚前の源家族からの自己分化と他者との親密な関係性の構築が課題となり,将来の結婚後のパートナーとの親密な関係の構築を大きく左右する土台作りの段階にある。彼らが将来パートナーと結婚し親密な関係を築けるように,また子どもができて親になった時に,少しでも自信を持って子育てができるようなアプローチがあっても良いのではないだろうか。例えば,学生相談の中で親の夫婦関係など家族の問題を語り合うグループや,親・家族とのつきあい方についての講演会や心理教育的プログラムが開催されても良いのかもしれない。
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