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はじめに――ステップファミリーと呼ぶ理由
親の新たなパートナーと共に過ごす子どものいる家族を,私たちは「ステップファミリー」と呼んでいる。「子連れ再婚家族」と呼ばないのには理由がある。ステップファミリーのカップルが必ずしも法的婚姻関係にあるわけではない(事実婚や同棲も含む)ことと,大人のイベントに焦点を当てるのではなく,子どもとその家族の体験過程や関係の質に焦点をあてるためである。これを意識してほしいのは離婚や再婚をする親当事者だけではない。むしろ社会全体で意識してほしい。なぜなら昨今の研究では,子どもにとって親の離婚はACEs:小児期の逆境的体験(Hays-Grudo & Morris 2022)の一つにあげられ,親の再婚は公的な施策の動向においても子ども虐待のリスク要因(こども家庭庁,2024a)とされているからである。にもかかわらず,「血縁はなくとも,継親子も本当の親子のようになる」ことを当然とみなす考えが社会に広く共有されている。学校や地域では未だに「親の離婚や再婚は個別家庭の事情」として支援者が立ち入ることを敬遠し,家庭の自助力に子どもたちのケアを委ねている。むしろ継親子を「本当の親子」へと促すことは,関係や構造に複雑さをもつステップファミリーにとってうまくいきやすい関係形成を阻害し,当事者に喪失,孤立,困難を強いるリスク要因であると認識してほしい。つまり,ステップファミリー自体にリスクがあるのではなく,社会がステップファミリーに固定的な関係形成を強要してしまうことがリスクとなる視点が必要なのである。さらに言えば,親の離婚や再婚が小児期の逆境的体験になるかどうかは,家族関係の築き方や対処によって異なると考えるべきだろう。
2002年,私の所属するステップファミリー・アソシエーション・オブ・ジャパン(以下SAJ)はこのステップファミリーの実親(子どもと同居する生物学的親)や継親(実親のパートナー・継母や継父)といった立場の人々とのセルフヘルプグループ(以下グループ)を始めた。参加者の多くは継親立場の人であり,初婚の人もいれば,実親と継親両方の立場(以下実継親)の人もいた。継子経験に加えて継親になった人もいた。SAJはアメリカのステップファミリー研究に基づいたプログラムStepping Together(Visher & Visher, 1997),Smart Steps(NSRC, 2007)を導入している。離婚後も両親が子育てに携わることが一般化しているアメリカの家族と,離婚後の親子交流実施率が3割程度という日本の家族観との違いを考慮しながら,これらの知見を日本のステップファミリーにどう活かしていけるかを日々考えながら進めている。

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