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結婚は「偕老同穴の契」
「夫婦は同居し,互に協力し扶助しなければならない」(民法第752条)。これこそ結婚の本質的な効果であります。読者の皆様の中には「法律にはこんな当たり前のことを定めた規定もあったのか」とその老婆心ぶりに苦笑されるかたがあるかもしれません。しかしこの条文もけっして法律の老婆心のみから挿入されたのではなく,それなりの歴史的背景を担って挿入されているのです。なぜなら旧民法では,「妻ハ夫ト同居スル義務ヲ負フ。夫ハ妻ヲシテ同居ヲ為サシムルコトヲ要ス。夫婦ハ互二扶養ヲ為ス義務ヲ負フ」となっていて夫は妻の意向なぞ一顧だにせず自分一人の都合で住居を定め,その住居に有無をいわせず妻を同居させる権限を有していたからです。
もちろん新民法では,このような男尊女卑の考え方は改められ,冒頭に引用したように,夫婦は協議に基づいて住居を定め,一度住居が定められたらその住居に同居する義務をお互いに負うようになりました。では,もし夫婦の一方が同居の義務に違反したとき相手方は何ができるでしょうか。相手方は家庭裁判所に同居の審判あるいは調停を求め,または地方裁判所に同居の判決を求める訴をおこすことができます。そしてこれらの申立は別居を合理的とする特別の理由がある場合を除き常に認められます。しかし,これらの審判や判決については直接強制(たとえば首に縄をつけてつれてくること)も間接強制(たとえば罰金等の制裁を課して間接的に同居を強制すること)も許されませんから,もし,別居者が審判や判決の後も同居を拒みつづける場合にはその人をむりやり同居させることはできません。その理由は,人間がまさしく人間であり,他の動物とは異るためです。ただし,あまり長い間同居義務違反を続けるようなことがあれば,「悪意の遺棄」あるいは「婚姻を継続し難い重大な事由」に該るとして離婚されることはあります。なお,同居を拒める合理的な理由がある場合とは,職業上の必要,精神上あるいは肉体上の一時的な障害,子供の教育上の必要などによって,一時的に別居することがやむを得ないと社会的に認められる場合を指します。
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