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「自分が原点からどの程度ずれているのかを知らなくてはいけないよ」と研修医だった頃に教わった。ここでいう原点とはいわゆる「普通」や「常識」のことを指していると考えればよい。診療の際には,自分の座標を一旦原点に移してから患者の見立てを行わなければいけない。この作業を省略して診療を行うと,目の前にいる患者がどの程度原点からずれた座標にいるのかがわからない。患者と治療者が同一象限のほぼ同じ座標にいるとしたら,つまり患者の抱える困りごとと治療者が日頃から抱えている困りごととがほぼ一致しているとしたら,治療者には患者を正しく理解することはできないだろう。治療者は,自身と患者の位置関係を適切に把握するために,書籍や論文から情報を得たり,先輩からの教え,スーパービジョンなどから知識や解決の仕方を学んだりしたうえで,臨床の場で一人ひとりの患者の体験を理解し,治療者としての視座を獲得していく。
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