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必要な小児救急治療の知識
尾村 偉久
1
1国立小児病院
pp.1213
発行日 1973年9月10日
Published Date 1973/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402204910
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現今の我国医療機関にとって,夜間,日曜,休日等,正規の診療業務時間外に日時を選ばず診療を需めておし寄せてくる患者の処理策は,最大の悩みの種であろう,従前は利用者の側に,深夜や休日の診療機関に迷惑をかけては気の毒であるという気持ちがあって,事故や急病でのよくよくの場合を除いては自制することが一般の通念であり,一方診療側にあっては,医療に対する奉仕的,犠牲的な理解の範囲で何とか処理することができて,この両者間の一応のバランスによって過してきたものである.
ところが近年の皆保険制度下になると,欲するがままに診療を受けようとする権利思想が普及し,加うるに自己負担率の軽減ないし徹廃,疾病の早期受診,早期治療の唱導,運輸手段の改善,公共救急自動車の整備等によって夜間,休日等の診療需要は急増の一途をたどるようになった.すでに利用者に対する医療知識の普及や衛生教育によって必要な自制をうながす可能性の時期は遙かに超えてしまったようである.恐らく近い将来,1年365日,毎日24時間を通しての診療体制に対する国民一般の要請はますます熾烈になるのではなかろうか.ところがこの需要に対応するに足る肝腎の医療供給側(医療機関)の体制整備に対しては,制度上,行政上,経営上,人員確保上の公の配慮は未だ微々たるものであり,まことに遅れていると言わざるを得ない.僅かに必要原価の数分の一にも達しない深夜加算であるとか,休日輪番制に対する僅少な手当が講じられているぐらいであって,依然として専ら医療機関の聖職的犠牲心や社会奉仕精神に頼っているといっても過言ではない.
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