- 有料閲覧
- 文献概要
インターネット上の「看護師お悩み相談室」の掲示版に,尿道バルーンを長期留置している場合の膀胱洗浄の是非についての質問が寄せられている(http://nayami.tabine.net/ns/009026.html).それに対して,多くの投稿者が現場での経験を踏まえて私見を述べている.そのなかのいくつかを紹介する.「膀胱洗浄は行わないと一般では言われているが,バルーンを長期挿入している患者は浮遊物が多く,洗浄を行っているのが現状だ」,「膀胱洗浄は感染のリスクがあるので,基本的には行っていない.ただし,尿が出ない場合やバルーンがきちんと挿入されていない可能性がある場合のみ行っている」,「長期留置者については,カテーテル閉塞予防目的で膀胱洗浄を行うことが有用とされている.その場合,あくまでも膀胱内を洗浄するのではなく,カテーテル内の洗浄目的である」,「膀胱洗浄は感染のリスクが高いため,以前から行っていない.バルーン交換も頻回には行わないようにしている」,「在宅では当たり前に週1回洗浄している.混濁や閉塞が多い人は洗浄よりバルーン交換のほうが感染リスクを回避できるのでは?」,「長期にバルーンカテーテルを留置していて無菌状態を保つことは無理であり,発熱など生活に支障が出ないように管理していくことが大切で,カテーテルの閉塞予防として膀胱洗浄を行っている.患者によりそれぞれ状況は違うので,偏に膀胱洗浄はダメなどと理解しないほうがよい」…以上のように,膀胱洗浄の目的,必要性,効果,リスクに関してはさまざまな意見がある.
本来,膀胱洗浄は次項の目的で行われる.①慢性炎症の治療として,膀胱内の細菌,分泌物,粘膜を除去する,②膀胱内留置カテーテルの閉塞の解除と予防,③膀胱内の凝血除去,④膀胱鏡検査前の前処置,⑤薬液注入の前処置,⑥膀胱結石の溶解など.膀胱洗浄に際しては,無菌操作で実施することが必須条件であるが,感染の発症を増加することが懸念され,CDC(米国疾病対策センター)のガイドラインでは「膀胱洗浄をルーチンに行うことは感染や閉塞予防にはならないため推奨しない」と記載されている.慢性期の長期療養病床を有する医療施設や老人介護施設では,泌尿器科医への要請は主として尿路管理,なかでも尿道カテーテルの挿入と交換の依頼である.その際,筆者は膀胱洗浄を自ら実施する機会が多い.バルーンカテーテルが確実に膀胱内に挿入されていることの確認と膀胱容量の計測を行い(特に萎縮膀胱では大切),血尿や膿尿,浮遊物を含む混濁尿,泥状物(debris)の沈殿を認める場合には,カテーテルの閉塞予防目的にむしろ積極的に行っている.そして,高圧膀胱にならないように洗浄液は少量でゆっくりと注入するよう注意する.膀胱洗浄を十分に清潔操作で行えば,全身性感染症に進展することは避けられる.昨今,抗凝固剤を内服している高齢者の出血性膀胱炎が増加しており,今後治療の一環として膀胱洗浄の必要性が増すだろう.膀胱洗浄は無用と決めつけず,効用を見つけるべきで,目的に適合する症例に対しては膀胱洗浄の手間を惜しんではならないと考える.
Copyright © 2017, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.