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私に与えられたテーマは「倫理」である。
倫理は近年,精神分析のなかで積極的に議論されるようになった。Goodman & Severson(2016)は「精神分析の倫理的転回」を唱道し,精神分析理論や臨床実践の再検証を図る。D’Agostino et al.(2021)は,倫理に関する近年の議論を整理し,倫理的営みとしての精神分析を考察する。私は,「当事者性」や「根元的罪悪感」の概念を提唱し,倫理転回の拡大を試みてきた(Togashi, 2020, 2025;富樫,2021,2023,2025)。
しかし倫理の議論は,精神分析のなかで,新しくもあり古くもある。それ自体に独自の倫理体系を含む精神分析は,理論形成期からそれを問い続けている。その作業は,伝統的道徳観や宗教,価値観との間に緊張を生みつつも,倫理と精神分析の相互的な対話へと広がった(Szasz, 1965;吉沢,1968;Meissner, 2003)。これは,臨床家が倫理綱領を通して学ぶ「倫理」――いわゆる倫理規範――とは,趣を異にする。
独自の倫理体系を含むとは,1つ目に,精神分析の扱う心が他者との関係そのものであることを意味する。それは,メタ心理学や発達理論に道徳性の発達や社会化への葛藤が含まれることからわかる。2つ目に,精神分析実践が患者と治療者との出会いであることを意味する。そこには,関係の本来的加害性や権力差,支配-服従といった問題が浮かび上がる。3つ目に,精神分析が見つめる苦悩が社会や世界との関与の方式であることを意味する。トラウマに向き合う治療者は,人はどのように世界に投げ出され,どのように生きる存在なのかを問われる。精神分析は,理論的・臨床的成り立ちにおいて,倫理を問わずにはいられない。
倫理規範は,精神分析実践を制度的・専門職的に成立させるための行為規範である。それは,精神分析が学会や訓練制度,資格を伴う専門職になるにつれて必要とされるようになった(APA, 2001)。米国自我心理学の発展のなか,医師の専門性と結び付けられたそれは,医療倫理規範に準じて作られた。もちろんそれは,精神分析の倫理体系と無関係ではないが,社会化への葛藤や,関係の本来的加害性,存在のあり方といった倫理的問いを生み出すものではない。その問いを,医療的手続きの容器に注ぎ込んだものである。
本稿で論じるのは,精神分析理論に含まれる倫理体系である。これは,何をすることが善悪なのか,といった問いではない。臨床家は,患者にどのように出会い,世界や社会をどのように眺め,臨床実践にどう向き合っているのか,という問いである。
精神分析において,倫理の語はさまざまな形で用いられる。同じ言葉でも,その意味や議論の水準は大きく異なる。本稿では,精神分析に含まれる倫理体系を「精神分析がどこに倫理を見出してきたか」といった視座から概観し,その議論から導かれる臨床的示唆を考えてみたい。

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