特集 26ケースで学ぶ臨床心理アセスメント――インテークとフィードバックをつなぐ〈スキル7〉
心の奥で止まった時間――犯罪被害者のPTSD
櫻井 鼓
1
1追手門学院大学心理学部心理学科
pp.92-98
発行日 2025年8月30日
Published Date 2025/8/30
DOI https://doi.org/10.69291/cp25070092
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1 PTSDとは何か
PTSD(Posttraumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス症)は,アメリカのベトナム戦争帰還兵の問題を契機とし,1980年に米国精神医学会発行のDSM-IIIにおいて収載された診断名である。その後,診断基準は改訂され,2013年発行のDSM-5では,A基準で具体的なトラウマ出来事が列挙されるようになり,恐怖,無力感,戦慄といった体験直後の反応を規定したそれまでのA2基準は削られ,中核症状は3クラスターから4クラスターになった。現行のDSM-5-TRでは,A基準でトラウマ出来事と曝露の方法が示され,1つ以上のトラウマ出来事に曝露された後,侵入,回避,認知と気分の陰性の変化,過覚醒という4つの中核症状が1カ月以上持続し,苦痛や社会的機能の障害を起こしていることが診断基準の大略となっている。DSMには,子ども対象の診断基準として,6歳以下の児童の場合も示されている。トラウマの捉え方は時代と共に広がったり狭まったりしているが,PTSDにおけるトラウマ出来事は限定的で,生死に関連するような出来事である。なお,うつなど他の精神疾患がしばしば併存することも見過ごせない。
ストレス要因が対人的かつ意図的なものである場合には,PTSDは重症化または長期化するとされており,なかでもレイプの発症率は高いとされる(APA, 2022 ; Kessler et al., 2017)。また,被害関連の相談を受ける機関では,種々の被害内容のなかでも性暴力の相談が最も多いと言ってよい。そこで,本稿では特に性犯罪被害者のPTSDを取り上げることとした。

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